猛威を振るう山火事、スペインとポルトガルのブドウ畑を脅かす

ガリシア、ドウロ、ベイラ・インテリオールのブドウ畑は、激しい熱波の中、壊滅的な火災に見舞われています。
この記事を執筆した8月22日の時点で、スペインのガリシア北西部のバルデオラスAOCで高い人気を誇る白ブドウ品種ゴデーリョの古木を栽培するAdega de Alanのブドウ畑は、炎の猛威を免れています。
しかし、ア・ルア村の彼の畑では、生き残った数少ないメンシアの古木が、焦げた大地の上に不気味に立っています。
「このブドウ畑のほとんどが火事で焼失した」と、Adega de AlanのオーナーJoaquin Sanchezは、自身のViña Portoという畑の区画を指して述べました。火事がその産地を襲うまで、そこのブドウは、同ワイナリーのプレミアムワイン「Pedreazias」の製造に使用されていました。
激しい熱波の中、谷や山々を駆け巡る巨大な炎を目撃することは、ガリシアをはじめ、ポルトガルの隣接するワイン産地であるドウロ・スーペリオールやベイラ・インテリオールのワイン生産者や栽培者にとって、トラウマ的な経験でした。
「火はまるで超現実的なチェスのゲームのように動いていた。谷の一方に炎が現れ、消え去ったかと思えば、反対側からより強力な炎になり戻ってきた」とSanchezは述べました。
かつて緑豊かだった谷と山々は、火事で黒く焦げた状態になっています。
干ばつに加え、生産者たちは焼けたブドウ畑、ブドウへの熱ストレスの可能性、そしてワインへの煙汚染のリスクに直面しています。スペインの火災(例えばグーグルマップの「オウレンセ県山火事」を参照)は依然として燃え続け、ポルトガルでもいくつかの火災が発生しています。
地域政府の発表によると、これまででガリシア州において最も深刻な山火事が、モンテレイ、リベイロ、リベイラ・サクラ、バルデオラスといったDO(原産地呼称)が位置する主要なワイン産地であるオウレンセ県を襲っています。
8月13日にバルデオラス原産地呼称の中心部にあるラロウコとセアドゥル村の間で発生した最大の山火事は、8月下旬までに3haの土地を破壊しています。
バルデオラスでの800万kgを超える豊作の見込みは、その結果、一時的に保留となりました。
バルデオラスワイン委員会の報道官は、ブドウ畑の調査結果から、火災がブドウ木に与えた影響が予想以上に深刻であることが判明したと述べました。
「前例のない壊滅的な被害」の事情を踏まえて、報道官は委員会がブドウ畑の被害状況を評価中だと説明しました。(火災の影響を受けたブドウ畑の面積に関するデータは未公開)
ブドウ畑は、セアドゥル村の中心部への森林火災の拡大を防ぐ防火帯として重要な役割を果たしたと、Pago de los CapellanesのワインメーカーAlba Bautistaが説明しました。バルデオラスでワインを製造するスペインの著名なワインメーカーTelmo Rodriguezも同様の見解です。
火災の全容が明らかになるまで、忍耐強く待たなければなりません。
「森に隣接するブドウ畑の一部が被害を受けた。被害の程度を調査中だが、今回どれだけ収穫減になるかはまだ分からない。現段階では、この火災が来年のブドウの成長に影響を与えるかどうか不明なので、評価には時間がかかる」と、Bautista は語っています。バルデオラスの生産者Joaquin Rebolledoも、焼失したブドウ畑の評価を行っていると述べています。
最も暗い日々
気候危機に対するさらなる警鐘を鳴らすように、Carvalho Martins家が所有するポルトガルの高級ワイン生産者Golpe Winesと、ドウロ渓谷(ドウロ・スーペリオール)のTitan of Winesは8月下旬、火災によって破壊されたブドウ木の写真を公開しました。
「私たちは、歴史上最も暗い日々を過ごしています。ブドウ畑は、その進路にあるあらゆるものを焼き尽くした森林火災の炎に包まれ焼失した。土地やブドウだけでなく、何世代にもわたる努力、情熱、夢も破壊したこの悲劇に、私たちは恐怖と無力感に襲われている。火が焼き尽くそうと猛威を振るった記憶もまだ消えず、焼けた土地とブドウの根を見ながら泣いている」と、Titan of Wines のワインメーカーLuis Leocadioは インスタグラムに投稿しました。
Leocadioは、ドウロ・スーペリオールのサンチアゴとリベイラ・デ・ガレゴス地区にある樹齢100年以上のブドウ木が植わっている6つのブドウ畑のうち、2つの区画が破壊されたと説明しました。これらの区画は、彼の最も価値あるワインである「Vale dos Mil」シリーズと「Fragmentado」の生産に用いられていました。
今年、スペインでは山火事で34万8,000ha以上、ポルトガルでは21万6,214ha近くの土地が焼失しました。これは、欧州連合宇宙計画の観測部門であるコペルニクスが8月18日に発表した暫定データに基づくもので、2022年に記録された過去最高記録を上回る面積です。
コペルニクス大気監視サービス(CAMS)は、前例のない山火事の活動により、2025年のスペインの山火事件数は増加し、CAMSの23年間の記録において最も高い年間山火事件数となったと発表しました。
大気中に放出された大量の煙、特にPM2.5(粒子状物質)が、イベリア半島全域とフランスの南部地域で深刻な大気汚染を引き起こしたと発表しました。
防火対策は重要
スペインのベリン村にあるQuinta da Muradellaのオーナー兼ワインメーカーであるJose Luis Mateoは、ガリシア州モンテレイDOで高級ワインの復興を牽引してきた人物です。彼は、ブドウ畑を取り囲む森林地帯の状態を「爆発寸前の超乾燥した熱帯の火薬庫」と表現しました。
最新の火災は、スペインのこの夏の3度目の熱波で気温が40℃を超えた時期にガリシアを襲いました。数ヶ月間の乾燥した暑い天候が続いた後の出来事でした。スペインのいくつかの地域では春の雨が植物の成長を促進しましたが、3度の熱波により干からびてしまいました。
「こういった山火事の恐怖は毎年繰り返されているが、今年は高温と火の広がりの速さでより過激だった。このような気候危機にあっては、森林の可燃性植物を清掃して火災を防ぐようなさらなる対策が必要だ。可燃性植物(低木、草原、枯れた木など)と気候変動の影響が組み合わさると、爆発的な脅威となる」と、Mateoは語りました。
スペインとポルトガルは、農村部の過疎化の影響に直面しています。教授、科学者、環境団体によると、この現象が森林地の管理不備を招いたということです。
8月21日、スペインの新聞『El Pais』は、火災危険地域の自治体が火災予防措置を講じる法的要件を満たしていたかどうかを確認するため検察が調査を開始したと報じました。
放火、雷、それとも過失?
6月以降、スペインの警察は、今夏全国で発生した数10件の山火事を引き起こしたとして、40人の容疑者を逮捕しました。今月、スペインの公式森林エンジニア協会副会長のMarta Corellaは、スペインの山火事の80%以上が人間によるものだと述べました。
マドリードのComplutense大学教授のCristina Montielは8月16日、『The Guardian』 紙に対し、スペインの山火事は放火ではなく事故や過失によるものが増加しており、地形や気候変動の影響でより激しく広がっていると述べました。
火災と標高
気候危機により、南欧のワイン生産者は標高の高い地域(気温が低く、よりフレッシュなワインが作れる場所)に畑を設けるようになっていますが、これにより火災によるブドウの損失リスクがますます高まっています。
ドウロ渓谷の Titan of Wines が所有する、焼失した古木は、標高750~800mのブドウ畑のものでした。8月に発生したガリシアでの火災では、損傷したブドウ木の多くは(焼失、熱ストレス、煙のいずれかにより)標高約 400~450 mの森林の端の方で栽培されていました。
「私は標高800mのブドウ畑を所有していたが、数年前、火災で焼失してしまった。再び植えようと思うが、問題がたくさんある。その地域は孤立しており、森林に近接しているため火災のリスクが高い。今年、私のブドウ畑(標高約400m)は被害を受けなかったのは、森林の木々とブドウ畑の間に明確な通路を整備したからだ」と、 Quinta da MuradellaのオーナーJose Luis Mateoは述べました。
現在、危機が進行し、火が燃え続けている中、ガリシアとポルトガルの生産者は2025年の収穫への希望を繋ぎ、雨を祈っています。
引用元:Raging Fires Threaten Spanish and Portuguese Vines
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