米国ワインの行く手にある険しい道のり
影響力のある年次レポート「State of the Industry」によると、ワイン業界は今後2年間でどん底に達し、多数のワイナリーやブドウ畑が所有者の希望額を大きく下回る価格で売却されることになります。そして、それは良いニュースなのです!
業界アナリストのRob McMillan氏は、パンデミック前の売上がまだ好調だった時期から、いち早くワイン業界の低迷を予言していた人物です。今日のレポートにおいて、彼はボトルワインの売上が回復するのは「2028年」になると予測しました。それまでの間、多くの著名なワイナリーが赤字経営に見切りをつけ、提示された条件で売却を決断する「撤退」が相次ぐと予想されています。
M&A仲介を行うMetis Mergers & Acquisitionsのマネージング・ディレクター、Kristin Marchesi氏は、このレポートに関するウェビナーで次のように述べています。 「もしワイナリーが売れないのなら、私たちはあなたが何を待っているのか分かりません。」またMarchesi氏によれば、ワイナリーの価値は5年前に比べておよそ20〜40%下落しており、数年以内に価値が上昇する見込みはないとのことです。また、現在の買い手は資産を持たないアセット・ライトなブランドを求めており、ブドウ畑の価値は業界の他の資産よりもさらに急激に下がっています。一部のワイナリーにとって、最善策は単に事業を停止することだと言います。「自分自身に正直になる必要があります。」とKristin Marchesi氏は言います。「『私は何を売ろうとしているのか?』と。もし答えが、利益の少ないビジョンを売っているだけだとしたら、そこにはあまり価値がないかもしれません。」
Wine Searcherでは、昨年のワシントン州Chateau Ste Michelleの衝撃的な売却劇などを報じてきましたが、Rob McMillan氏は、こうした事例は新たな怪我ではなく、業界という身体が治癒していく兆候なのだと注意を促しています。「業界全体が縮小すべきだということは皆同意していますが、口に出したくはないのです。」Rob McMillan氏はWine-Searcherに語りました。「今年、下位25%のワイナリーが出口戦略を探し始める動きが顕著になるでしょう。ブドウ畑であれワイナリーであれ、彼らはすでにできることはやり尽くしました。在庫を売り、現金化できる設備や土地を手放し、そして今、一部の人々は事業そのものを売却することになるでしょう。」
Silicon Valley Bankのワイン部門エグゼクティブ・バイス・プレジデントであるRob McMillan氏は、銀行家として業界のあらゆる側面に精通していますが、特にM&Aについては深い知見を持っています。「現在、多くのワイナリーが売りに出されています。」とRob McMillan氏は言います。「メディアは『生き残れないワイナリー』に焦点を当てるでしょう。それは人々の気分を暗くさせるかもしれませんが、これは業界が回復するためのプロセスの一部なのです。」
救世主となるジェネレーションX
Rob McMillan氏が2028年に業界が改善し始めると考える理由は、純粋に人口動態、つまり「顧客の入れ替わり」にあります。 現在、ベビーブーマー世代は高齢によりワイン消費から離れつつあります。一方、Z世代は以前の世代ほどお酒を飲みません。つまり、ワイン愛好家であったブーマー世代が市場から去り、ワイナリーがリーチするのに苦労している若年層に入れ替わっているのです。しかし、ジェネレーションXの先頭集団が今年ちょうど60歳を迎えます。レポートによると、61歳以前の消費者はワインよりもビールやスピリッツを多く飲む傾向があります(スピリッツの消費ピークは約32歳、ビールは約43歳)。 対してワインは、平均して50代半ばから消費が増え始め、61歳でピークに達し、その後約5年間はその高い水準を維持します。その後、消費量は劇的に減少していきます。
そのためRob McMillan氏は2つの人口動態上の機会を見ています。マーケターから無視されがちなジェネレーションXは、現在最もお金を使っている層です。そしてその後ろには、40代半ばに差し掛かったミレニアル世代の年長グループが控えています。彼らは子育てのストレスから解放されつつあり、Budweiserよりも良いお酒を買える経済力を持っています。10年前にはワインに興味がなかったミレニアル世代も、今なら受け入れる可能性があります。「その30歳から46歳のグループがチャンスです。」とRob McMillan氏は言います。「この層には多くの潜在顧客がいます。ビールやスピリッツからシェアを奪うか、あるいは隣のワイナリーからシェアを奪うか。選択肢はその二つしかありません。」
(※ジェネレーションX:1965年から1980年頃に生まれた世代のこと。人口が多いベビーブーマーとミレニアル世代に挟まれ、比較的守備範囲が狭いため、マーケティングの世界では長らく「忘れられた世代」「無視されてきた世代」と言われることもありました。)
アナコンダの中の象
業界のあらゆるレベルでの過剰在庫は、パンデミックの終わり以来問題となっています。なぜなら、誰もが消費者がもっと飲むだろうと考え、ワイナリーは過剰生産し、流通業者は過剰発注したからです。5年前のワインの一部は、まだ流通システムを詰まらせています。Rob McMillan氏が2028年に売上が改善すると考える最大の根拠は、「小売店での販売量(Nielsenデータ)」と「卸売業者からの出荷量(デプレーション/SipSourceデータ)」のギャップを分析している点にあります。「デプレーション」とは、ワインが卸売業者から小売店へと流通することを指します。現状、多くの卸売業者は倉庫に古い在庫が溢れかえっているため、ワイナリーへの新規発注を渋っている状態です。
2025年、主要6品種のうちソーヴィニヨン・ブランだけが、小売販売量が卸売の出荷量を上回り、卸売の過剰在庫を解消しつつあります。しかし、赤ワインブレンドやピノ・グリージョは特に状況が悪く、小売店での販売が卸売からの仕入れに追いついていません。このバックログ(未処理分)は上流へと影響し、店が注文しないため、卸売業者も注文しないという状況を生んでいます。ただ、Rob McMillan氏によれば、出荷量と小売販売量の差は依然としてマイナスではあるものの、6品種すべてで改善傾向にあります。トレンドラインを予測すると、2028年にはこの在庫の滞留がついに解消される見込みだとしています。
価格が高いほうが良い?あるいは
Silicon Valley Bankはワイナリーのビジネス状況について年次調査を行っています。Rob McMillan氏は、ワイナリーをその業績の良し悪しに基づいて4つの階層に分けました。業界全体に暗いムードが漂う中でも、多くのワイナリーが好調を報告しています。調査回答企業の7%が2025年を「史上最高の年」とし、23%が「良い年」、19%が「良くも悪くもない」と回答しました。つまり、約半数(49%)は悪い年ではなかったとしており、これは「最も困難な年の一つ」あるいは「史上最悪の年」とした29%とは対照的です。Rob McMillan氏によると、トップ層のワイナリーが成功している要因は、顧客に対して積極的にアプローチし、テイスティングルームのスタッフを教育して優れた体験を提供している点にあります。そして驚くべきことに、彼らは価格を維持、あるいは値上げを行っているのです。
対照的に、不振なワイナリーの多くはワインの値下げを行っています。これはある意味で理にかなっており、必死さがこうした決断をさせているのでしょう。しかしRob McMillan氏は、消費者は一般的に「ワインの価値はワイナリーが提示する価格に見合う」と信じている点を指摘します。60ドルのワインをセールで20ドルにすれば、顧客はそのワインの価値を低く認識してしまいます。「好調なワイナリーは価格を上げています。」とRob McMillan氏は言います。「ブランド戦略全体を見る必要があります。トップラインの商品の生産量を減らし、一部のワインをセカンドラベルに回すなどの調整を行っています。価格を下げるのではなく、ボリュームを落とすという選択をしているのです。」
消費者にとっては、ワイナリーの高品質なセカンドラベルを探すのに絶好のタイミングかもしれません。 ワイナリーにとっては、今後2年間で多くのプレイヤーが船から降りることになるでしょう。しかし、生き残った者にとっては、ようやく嵐が静まる時が来るのかもしれません。
引用元:Rocky Road Ahead for US Wine
この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
文責はFiradisに帰属します。
-
前の記事
ワイン業界、中アルコール市場への大きな転換 2026.01.25
-
次の記事
記事がありません