Bonneau du Martray(ボノー・デュ・マルトレイ)
コルトン・シャルルマーニュの王、それがボノー・デュ・マルトレイである。ペルナン・ヴェルジュレスに位置するこのドメーヌは、名高いコルトンの丘に大きな畑を持ち、特級しか生産しない。DRCですらプルミエを作っているため、ブルゴーニュで特級だけというのはボノー・デュ・マルトレイのみとなる。また、11haという畑の規模はコルトン・シャルルマーニュで最大というだけでなく、単一のグランクリュにおける最大の所有者にもなる。
目次
歴史
コルトン・シャルルマーニュのルーツは775年まで遡る。当時シャルルマーニュ大帝はサラセン人によって破壊された修道院の補填として、修道士たちに畑を寄贈した。この土地は1000年以上に渡って教会が所持していたが、フランス革命によってマルトレイ家のものとなった。19世紀、同家はペルナンに約24haの畑を所有していた。当時の当主シャルルには二人の息子がいたが、相続時に一人が土地を持ち出してしまったため11haに縮小。この11haをマルトレイ家の土地として保持したウジェーヌは、1934年に息子のルネに畑を相続。その後、子供のいなかったルネは姪(Comtesse Alice le Bault de la Moriniere)に畑を残した。1969年、姪の夫ジャンがこれを引き継いだ。ジャンこそがボノー・デュ・マルトレイに栄光をもたらした人物であり、温度管理を取り入れ醸造の改善に着手。それまでネゴシアンに売っていたワインを自社瓶詰めに切り替え、品質管理を徹底することでクオリティを大幅に向上させた。1994年、ジャンの息子ジャン・シャルルがドメーヌを引き継ぎ、栽培面を改善。除草剤の使用を止めてビオディナミを導入し、収量を厳しく制限した結果、より凝縮感のある高品質なブドウが育つようになった。
ボノー・デュ・マルトレイは200年以上にも渡って同家が所有してきたが、2017年に米国の実業家スタンリー・クロエンケに売却され世間を騒がせた。この人物はScreaming Eagle、The Hilts、Jonataなどのワイナリーを所有することで知られる大富豪。新体制のもとで実務を取りまとめるのはアルマン・ド・メグレとティボー・ジャケだが、ワインメイキングのチームは以前と変わっておらず、栽培責任者のファビアンは2003年から、醸造責任者のエマニュエルは2011年からボノー・デュ・マルトレイで働いている。
新体制となったわずか一年後、コルトン・シャルルマーニュの一部をDRCに貸し出すというビッグニュースがまたもや世間を騒がせた。このリース契約によって2.89haのシャルドネがボノー・デュ・マルトレイの手を離れDRCに渡った。
畑
ラドワ、アロース、ペルナンと3つの村が取り囲むコルトンの丘では東−南−西とほぼ180°に渡って畑が広がる。当然のことながら、太陽が当たる時間や量は場所によって大きく異なる。このうちボノー・デュ・マルトレイは南西部(ペルナン側)の区画En CharlemagneとLe Charlemagneにまたがる巨大な一区画(11ha:DRC貸出分を含む)を所有する。畑の向きは、温かい午後の太陽を浴びる西−南西となり、ブルゴーニュのグラン・クリュで唯一の特徴となる。また、コルトンの丘は標高が300mを超えるため、冷たい空気は下部へと流れるように通過していく。上部はとりわけ水はけがよく、白いマール土壌が太陽光をしっかりと反射してブドウを温めてくれる。こうした自然の相互作用が、リッチでありながら極めてミネラル感の強い味わいを生む。
もう一歩踏み込んでみると、丘の上から下までひとつながりになっているボノー・デュ・マルトレイの畑には3つの微気候が見られる。上部は表土が薄く痩せており、ほとんどが白いマール、石灰岩、粘土で構成されている。ワインにはエレガンス、フローラル、ミネラルの緊張感と酸を与えてくれる。中部は少し表土に厚みが出て、粘土と鉄分の含有量が増える。これが大らかさと果実味に寄与する。そして傾斜の緩やかな表土の厚い下部では粘土と鉄分が豊富で、甘やかさと密度、そして粘性を与えてくれる。こうしたブレンドの選択肢の広さが、暑い年や極端な天候の影響を緩和するバッファーとして機能し、ムラのない品質と味わいを生み出せる。
2018年のDRCへのリースでは9.5haのシャルドネのうち2.89haが貸し出された。この背景には新体制のもとで行った畑の大規模調査があり、標高、地質、土壌タイプ、樹齢、台木などの詳細を分析した結果、一部のテロワールは非常に似た性質を持っていることが判明。この重複の発見が他者への貸付けというアイデアを形に変えた。リース契約時のインタビューでアルマンは「ビオディナミは機能すると素晴らしいものになりますが、悪天候に支配されてはなりません。11haもの畑でビオディナミを行うにはリスクを伴います・・・とりわけコルトン・シャルルマーニュでは。リースによって小規模化した今、我々は厳格なビオディナミが実現できるのです。」と語っている。無論、貸し出す相手は誰でも良いわけでなく、ドメーヌのフィロソフィーとビオディナミへの深い理解が必須であった。DRCはまさに完璧な相手だったのである。
栽培
除草剤、化学肥料は一切使わず、収量は選定で厳しく制限する。基本的にグリーンハーヴェストは行わず、春先の芽かきと副梢管理に注力する。ビオディナミのトライアルは2004年にスタートし、ピノは2012年、シャルドネは2014年に認証取得。2017年のドメーヌ売却後、チームメンバーは変わっていないが、現場では変化が見られる。DRCへのリース以外に、広範囲に渡る再植樹のプログラムが進行している。プログラム進行中であっても平均樹齢は50年以上と高く保たれており、収量はシャルドネが40hl/ha前後、ピノ・ノワールは30hl/ha前後となる。
醸造
手摘みで収穫されたシャルドネは小さなプラスチックバケツに入れて運ばれる。潰れるリスクを最小限に抑えてブドウをフレッシュかつ健全に保つ。また区画があちこちに点在していないため、収穫からプレスまでのインターバルが非常に短く、ブドウが数時間放置されるということはありえない。ブドウは空気圧式で全房をプレスし静置、自然酵母を使って小型のステンレスタンクで発酵をスタートさせ、その後樽に移していく。オーク樽の形状やサイズは多岐にわたり、新樽は約25%と控えめ。「ワインの周りにそっとフレームを添えるのがオークの役目であり、畑の個性を邪魔すべきでない」というジャン・シャルルの意思が継承されている。近年ではバリックよりも横に細長いシガーバレルやデュミ・ミュイ、さらにはアンフォラやコンクリートエッグなども使用されている。MLFは自然発生させ、その後澱とともに12ヶ月熟成、バトナージュはしない。この工程まで11の区画ごとに仕込まれる。これには「各々の個性を引き出した後にブレンドすることでシナジーが生まれ、単純なパーツの合計を超えるハーモニーが生まれる」というジャン・シャルルの哲学が息づいている。ブレンド後はステンレスタンクでさらに9ヶ月熟成。
ピノ・ノワールはLe Charlemagneの下部の二区画で、所有畑の中では粘土の多い重めな土壌。高樹齢と厳しい制限により小粒だが凝縮した上質なブドウとなる。以前までは完全除梗していたが、現在は3-5%が全房で破砕をせずにアンフォラで仕込み、残りは除梗する。またシャルドネ同様に区画ごとに分けて醸造するスタイルに変わり、発酵後は樽(新樽50%)で12ヶ月熟成。その後ステンレスタンクでブレンドしさらに9ヶ月の熟成。
味わい
多くのブルゴーニュ愛好家たちは全てのコルトン・シャルルマーニュが特級に値しないことを知っている。クロ・ヴージョ同様、特級の名に恥じない見事な区画がある一方で、そうではない部分もある。たとえAOCがグラン・クリュを認定していても、一つのエリア内でこれほど大きく標高や土壌、向きなどの生育環境が異なればブドウの成長に差が出ないわけがない。ジャン・シャルルはかつてこの事実を認めながら、自身のコルトン・シャルルマーニュをこう語った。「私たちのワインには抑制の効いた力強さと明確なミネラル感があります。そしてこのミネラルが鋼のように強固なバックボーンを与えてくれます。どの年であってもこの特徴が出ます。力強さと凝縮感の中に必ずミネラルが伴うのです・・・あの猛暑の2003年でさえも。これが一貫性を生むのです。」
クライヴ・コーツはボノー・デュ・マルトレイのコルトン・シャルルマーニュを「全ブルゴーニュにおいて最も偉大なものの一つ」と評し、ヒュー・ジョンソンはコート・ドールの先頭を走る一人として挙げ、「並外れた上質さと見事な品質、多くのヴィンテージに渡って一貫している」と最上級の四ツ星を与えている。また、WA誌では白と同様に赤にも注目しており、とりわけ新体制以降の赤に対し、「ここ近年のピノ・ノワールの品質向上には目を見張る物があり、2018年のコルトンは過去一の出来であった」と賛辞を送っている。