Columbia Valley(コロンビア・ヴァレー)
カスケード山脈が作る乾燥した砂漠の気候から 新樽の効いたボリューミーなカベルネが生まれる」
コロンビア・ヴァレーはワシントン州南東にある、米国でも最も巨大なAVAのひとつで、ざっくりワシントン州の1/3ものエリアを占める。AVAの総規模は4500000ha(ブドウ畑の合計は24313ha)で、内ワシントン州は3500000ha(ブドウ畑23971ha)をカバー、残りはオレゴン州にまたがる。ワシントンの99%のブドウ畑がこのAVA内にあると言われる。コロンビア・ヴァレーは複数の小さなAVAを内包しており、ヤキマ・ヴァレー(Yakima Valley)、レッドマウンテン(Red Mountain)、ホース・ヘヴン・ヒルス(Horse Heaven Hills)やワラ・ワラ・ヴァレー(Walla Walla Valley)などのエリアで多くのブドウが育てられている。ほとんどの畑がこうしたサブAVA内にあるものの、エリア外に畑を保つ場合や、複数のサブAVAをブレンドする場合はコロンビア・ヴァレーAVAを名乗ることができる。
歴史を見るとブドウはこの地で1860年代から育てられてきた。1930年代には、ブドウ栽培の研究機関がヤキマ・ヴァレーにでき、そこで複数のブドウ品種が植えられ、ワシントンの環境でどういった品種が上手く育つかなどの実験が行われた。こうしてワイン産業の基盤が確立し、1980年に入ると生産が急激に拡大していった。コロンビア・ヴァレーがAVAに認定されたのもちょうどこの頃の1984年である。
テロワール
コロンビア・ヴァレーはコロンビア川とその支流(Walla Walla川、Yakima川、Snake川)を中心に約500kmに渡って広がり、南部は一部オレゴン州にまたがる。エリアの西側には巨大なカスケード山脈がそびえ立ち、東には農作物の育たない不毛地帯が広がる。カスケード山脈によるシェルターは乾燥した砂漠のような気候を生み出し、秋にはわずか150-250mmの雨しか降らない。大陸性気候で、夏は暑く秋は急速に冷え、寒い冬となる。北緯45-48°帯にあり、ブドウ生育期の日中は長く、カリフォルニアの多くの畑と比べて平均で一時間ほど長い。夏季におけるブドウの糖分生成のスピードは早いが、急速に冷える秋の気温は糖分を抑える一方でフレーバーとタンニンの成長を促してくれる。また、大きな日較差は酸もしっかりと保ってくれる。
土壌は基本的に玄武岩を母岩とし表土は砂、シルト質ロス、沖積土で覆われている。これらは幾度にも渡る洪水、火山活動、氷河の移動によって生み出された。ワシントンの南部中央では複数の尾根が見られるが、ここでは母岩が地表まで突き出ており、様々な向きや標高を持つ斜面を形成している。多くのサブAVAエリアはこうした地形の上に広がっている。
土壌は水はけがよく痩せていて、特に砂質の畑ではフィロキセラのリスクが低く、栽培家は自根でブドウを育てることもできる。乾燥した気候や非常に寒い冬のおかげで、病害菌のリスクも低く、多くの場所でほとんど殺虫剤が不要となる。霜害と冬の凍結が主なリスクであるが、斜面の畑では冷気は下部に流れるためリスクは低くなる。一方で、雨が殆ど降らないため、大部分で灌漑が必須となる。水源はコロンビア川とその支流であり、ドリップ式の灌漑が最も一般的となっている。
味わいの特徴
コロンビア・ヴァレーでは、カベルネ・ソーヴィニヨンが最も多く栽培されており、ついでメルロー、シャルドネ、リースリング、シラーとなる。産地の顔となるのはカベルネ・ソーヴィニヨン。日中は乾燥して暖かく夜間は冷えるという気候から、完熟したフルーツのフレーバーを持ち、アルコールは高くなる場合もあるがしばしば高い酸を伴うためバランスがよい。上質なタンニンを持ち、新樽のニュアンスもしっかり果実に馴染んでいる。クィルシーダ・クリーク(Quilceda Creek)のつくるカベルネは秀逸で、PP100点を複数回取得する実力者である。カベルネ・ソーヴィニヨンでは新樽比率が比較的高いが、シラーでは古樽や大樽を使用する生産者が多い。また、部分的な全房発酵もシラーで取り入れられている。
リースリングはオフドライのスタイルが一般的で、残糖は10-15g/L前後。近年では、より辛口なスタイルや、あるいはより甘口なスタイルに取り組む動きも見られ、貴腐菌がついたものやアイスワインも見られる。ステンレスタンクでの低温発酵がスタンダードだが、一部の生産者はスキンコンタクト、野生酵母、シュール・リー、古樽など様々なオプションを駆使している。モーゼルのドクター・ローゼン(Dr. Loosen)とコラボしたシャトー・サン・ミッシェル(Chateau Ste. Michelle)のエロイカ(Eroica)は世界的にも有名である。
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