Denis Mortet(ドニ・モルテ)

アンリ・ジャイエからワイン造りを教わったジュヴレ・シャンベルタンの象徴的なドメーヌ。ロバート・パーカーに「ジュヴレ・シャンベルタンのスターになり得る 」と絶賛され、実際にジュヴレで五指に入るほどの名声を築き上げた。わずか一代でそれを成し遂げたのがドニ・モルテである。

 

歴史

モルテ家のワイン造りの歴史は1956年にシャルル・モルテが1haの畑を購入し、ネゴシアンにブドウを売るところから始まった。シャルルの息子ドニと妻のローレンスは1978年からワイナリーで働き始め、1980年代中頃になるとドニはアンリ・ジャイエと出会い、親密な間柄となる。1991年にシャルルが引退すると、ドニは4.5haの畑から自分のドメーヌを立ち上げる準備を始めた。同じ頃、ドニはラルー・ビーズ・ルロワと出会う。1997年のWS誌のインタビューで彼はルロワのセラーで1991年ヴィンテージを24キュヴェ試飲した時のことを語り、その体験が上質なワインを造るきっかけになったと話している。ルロワのワインはドニにブルゴーニュで何ができるのか、その可能性に気づかせたのだ。スタート当初から官能的なテクスチャーを持つドニのワインは、愛好家からも造り手たちからも称賛された。畑も4ha拡張し、ジュヴレの1er Lavaux Saint Jacques や村名区画En Motrot、Au Vellé、En Champsm、そしてマルサネのLes Longeroiesなどを取得。その後1999年にはChambertinを購入。最終的に11.2haの規模となった。

 

畑での仕事が全てだと信じてブドウ栽培に身を捧げ、素晴らしいワインを生み出したドニはブルゴーニュにおいて欠かせない存在となっていた。しかし2006年、51歳という若さで自らの命を絶ってしまう。悲劇の中、メオ・カミュゼやルフレーヴで研修を受けた息子アルノーがドメーヌを引き継いだ。彼は父ドニが作っていたワインにミネラルとエレガンスをまとわせ、さらなる高みへと昇華させることに成功した。2013年からは妹のクレメンスも加わり、2016年には引退したジュヴレのブドウ農家から4haの畑を借りて新しく「アルノー・モルテ」シリーズをスタート。ラベル名こそ違うが、ドメーヌと同じメンバーでブドウを育てワインを作っているため、やっていることはドメーヌと何一つ変わらない。新体制となった次世代ドニ・モルテの活動に今後も目が離せない。

 

ドメーヌの所有畑は合計11.2ha。特級は5つあり、Chambertin(0.15ha)は斜面下部の中央に位置する区画。Mazis Chambertin(0.25ha)はMazis-Hautsの南西部、Clos de Bezeとの境界に位置する。Bonnes Mares(0.35ha)はシャンボール側の中部にあるテール・ブランシュ土壌の区画。Clos de Vougeot(0.32ha)はリューディーMontiotes Bassesに位置し、Chateu de la Tourの真下の区画。そして新たに加わったのがルーミエと共同メタヤージュ契約しているEchezeaux(0.25ha)で、リューディーEn Orveauxにある。

 

一級畑はLavaux Saint Jacques(1.2ha)、Champeaux(0.45ha)、Champonnets(0.3ha)に加え、3区画(Cherbaudes、Petite Chapelle、Bel Air)がブレンドして作られるGC 1erがある。またシャンボールにも1er Les Beaux Bruns(0.23ha)を所有する。
村名は複数区画(Au Velle、En Deree、En Motrot、Combe dessus、En Champs)がブレンドされてMes Cinq Terroirsとなる。この他にMarsannay Les Longeroies (1.1ha)とFixin V.V.(0.75ha)もある。広域はBourgogne Cuvee de Noble Souche(1ha)となる。

 

栽培

全ては畑から始まる。完熟した極上の果実があれば、若くても熟成しても美味しく飲めるワインが作れる、とかつてドニは言った。彼は1996年に化学肥料と除草剤の使用を止め、後を継いだアルノーは2008年からオーガニック栽培を実験的に開始した。「セラーよりも前にワインは土によって畑で作られる。土のおかげでブドウ木が地中深くに根をはれる。昔からこれを理解していた父と祖父に感謝しています。」とアルノーは言う。現在は50%オーガニック、50%リュット・レゾネで畑を管理しており、開花の時期などに病害リスクが高い場合は、必要最小限の対処をする。アルノーはドニよりも耕起の頻度を減らしたが、これによって土壌の団粒構造が保たれ、また窒素量も減るため樹勢が抑制されてブドウが小粒になる。果汁における果皮の割合が高くなるのは良いことで、その品質に満足しているとアルノーは言う。さらにトラクターの使用による土壌の硬質化を防ぐために、トリミングはほぼ全て手作業で行う。手作業は多くの人手を必要とする重労働だが、柔らかく健全な土がなければ品質の高いブドウは生まれない。

 

醸造

アルノーは年々ドメーヌをレベルアップさせており、そこには父と異なるアプローチが見られる。2018年に導入した冷却室では、収穫したブドウを10℃まで下げることが可能となった。通常モルテの収穫チームは午前の部と午後の部に分かれるが、午後に収穫するブドウは温度が高くなる。冷却室に入れて一晩寝かせることでブドウの温度が高いままセラーに搬入するのを回避できるようになった。次なる変化は、全房の積極的な使用である。特級と一級のブドウに関しては一つ一つの房から主軸を取り除いている。非常に時間のかかる細かい作業だが、明らかな「茎感」とpHの上昇を和らげることができ、いわゆる全房と除梗のいいとこ取りができる。一般的な全房といえば、主軸を含む房まるごとを指すため、モルテにおける全房とは様相が異なり、もちろんテイストも異なる。この主軸は取るが、ブドウ粒を支える小さな軸は残すスタイルは2015年より取り入れている。なおこのアプローチはパイオニアであるルロワを始め、シャルル・ラショーらが行っている。

 

ドニ時代のワインは、いかにもジュヴレ・シャンベルタンらしい、強い抽出と凝縮感、そして高い新樽比率を持つワインであった。しかし、抽出が強過ぎると感じていたアルノーはピジャージュの頻度を減らしていった。新樽に関しても、一律で100%と決めるのではなく、各キュヴェの果実の濃度に見合うように新樽の割合をうまく調整し、徐々に比率を下げていった。こうした様々な変化がモルテのワインに磨きをかけているのである。なお、熟成期間は大きく変わらず16-18ヶ月で、ワインは無濾過・無清澄で瓶詰めされる。

 

味わい

ドニのワインは色濃くリッチでパワフル、新樽の効いた味わいであったが、アルノーのワインはフルーツのピュアさが格段に上がり、果実の美味しさが全面に出ている。全房発酵を取り入れたことで、フレッシュさとアロマに広がりが出るようになり、抽出を控えめにし、新樽率を減らすことで果実味に輝きが出るようになった。果実のフレーバーはキュヴェによって赤系から黒系果実まで広がり、一部には砕いた石灰のようなミネラル感や牡蠣の貝殻を感じさせる塩味が伴う。搾りたてのオレンジ果汁のようなフレッシュ感があり、見事に溶け込んだオークからはクリーミーさとスパイスを感じる。口当たりはまろやかで、喉越しは極めてスムース。一段と洗練されたアルノーのワインは、ニール・マーティンから「シームレスなテクスチャーと上質なタンニン、そして果実のピュアさが魅力的で人の心を掴んで離さない」と大絶賛。またWA誌からも「しなやかで香り高く、コアには奥深さと肉感があり、ストラクチャーに粗さはない。若くても美味しく飲め、もちろん見事に熟成もするだろう。今日のモルテはこれ以上にない程見事なワインを生み出しており、アルノーはモダンなスタイルを確立している。全てのワインがおすすめできる」と最大の賛辞が送られている。

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