Dujac(デュジャック)
コート・ド・ニュイ地区には多くの一流ドメーヌが集うが、デュジャックは知名度・品質・ポートフォリオといった総合力で間違いなくトップ10に入る。モレ・サン・ドニの英雄と呼ぶにふさわしい、ブルゴーニュワイン界の重鎮である。
目次
歴史
ビスケット会社のオーナーで美食家として知られた父を持つジャック・セイスは、若い頃から上質な料理とワインに囲まれて育った。父の会社で数年間働くも、ワインへの情熱が抑えきれなかったジャックは、25歳でワイン造りを決意。すぐにPousse d’Orのジェラール・ポテルのもとでインターンを始めた。
その後1968年にモレ・サン・ドニにあるドメーヌ(Marcel Graillet)を購入し、自身の名をもじってDomaine du Jacques → Domaine Dujacと名付け、ワインを作り始めた。畑は5haと大規模ではなかったが、Clos de la RocheやClos Saint-Denisが含まれていた。その後、ジャックは畑を少しずつ買い足し、1977年までに11haの規模となった。
1998年ジャックは引退し、息子ジェレミーがドメーヌを引き継いだ。その2年後にはネゴシアン部門Dujac Fils et Pereを立ち上げる。ドメーヌものよりも早くから楽しめる、果実味主体の味わいというコンセプトのもと、収穫は自分たちで行い、ワインは全てデュジャックのセラーで作られる。2003年にはジェレミーの兄弟アレックがドメーヌに参入。続く2005年にはDomaine de Montilleと共同でDomaine Thomas-Moillardを購入。これによってChambertinやBonnes Mares、Romanee Saint Vivantなどがデュジャックのポートフォリオに加わり、畑が15.5haまで拡大した。さらに2014年にはピュリニーの2つのプルミエ(Les FolatièresとCombettes)も入手し、現在のポートフォリオを築き上げた。
畑
合計約17haを所有する。メインとなるのはジュヴレ、シャンボール、モレ、ヴォーヌ・ロマネでそれぞれに1erをもつ。ジュヴレはAux Combotte、シャンボールはLes Gruenchers、モレは区画名なしの1er、そしてヴォーヌはLes Beaux MontsとLes Malconsortsである。これだけでも十分すぎるが、デュジャックの真髄は特級にある。Chambertin、Charmes-Chambertin、Clos de la Roche、Clos Saint-Denis、Bonnes Mares、Echezeaux、Romanee Saint Vivantと泣く子も黙る圧巻のラインナップである。
一方、シャルドネではブルゴーニュ・ブラン、モレ、モレ1er Les Monts Luisantsそしてピュリニー1er Les Folatieresと1er Combettesを作っている。
ネゴス部門では基本的にジュヴレ、モレ、シャンボールの畑がメインだが、ニュイ・サン・ジョルジュの1er (Les DamodesとLes Cras)からも作っている。
栽培
ジャックは健全な土こそがブドウの表現力を高めると信じており、畑では多様なエコシステムを育むことが必要だと考える。1987年にリュット・レゾネを取り入れ、その後2001年には一部でオーガニック栽培をスタート。2003年からはビオディナミのアプローチを取り入れるようになった。2011年に全ての畑でオーガニック認証を取得し、ブドウの免疫機能が高まったことを実感する。ケミカルに頼ることなく病害と戦える地力を育むことは極めて重要である。一方、ドメーヌではビオディナミで栽培しているものの、あくまでもこだわりすぎないようにしている、とジャック。「ボトルの有機認証もどうだっていいんだ。良いワインメイキングってだけの話だからね。」
高品質のブドウを得るためには土の健全化に加えて適切な収量コントロールが不可欠だが、デュジャックではブドウ木一本あたり6-8房を狙っており、35hl/ha前後の収量となる。これを達成するためには小ぶりな房をつける上質なクローンが必要となるが、ドメーヌでは畑にある古樹の中からとりわけ小粒で健全なブドウが取れるものをマッサル・セレクションの母樹として一部使用している。
醸造
セラーではできる限り控えめのスタンスを貫く。これはブドウに品種の個性、土地の個性、年の個性を純粋に表現させるためである。デュジャックではこの考えが根底に流れ続けるが、父子の世代間では大きく2つの変化が見られる。
ジャックは除梗の際にブドウが傷つくのを避けるために完全な全房にこだわっていた。このこだわりは除梗が通説であったかつてのブルゴーニュにおいては珍しく、全房のカリスマとしてジャックは強い存在感を放っていた。しかし、息子ジェレミーはより柔軟で、全房が複雑味やシルキーなタンニンを与えてくれることを認めながらも、この利点を最大限に活かすためには茎が完熟していなければならないと主張する。このため茎の状態は年ごとに慎重に見る必要があり、全房比率も0か100かではなくケース・バイ・ケースで考える。
もう一つの違いは新樽の使い方にある。ジャックは基本的に全て新樽100%のスタイルだったが、ジェレミーはその比率を抑えるようになった。特級は基本的に100%のままだが、一級はおよそ60-80%、村名は40%程度にとどめている。
その他のワインメイキング – 自然酵母での発酵、ピジャージュ(発酵初期)とルモンタージュ(発酵後期)、熟成期間14-18ヶ月、無濾過・無清澄 – に関しては、ジャックのスタイルを踏襲している。
味わい
デュジャックのワインは力強さではない。アルコールやタニックなストラクチャーが前に出るのではない。大地を感じさせるアーシーさ、そして旨味とスパイスが絡み合うセイボリーさ、この二点がモレ・サン・ドニで最も美しく表現されたワインだと言える。果実味は抑制が効いているものの奥行きと深みを感じさせ、この立体感を酸とタンニンが見事に捉えている。洗練、そして蠱惑的といった表現がピッタリの味わいである。
例えば、デュジャックの二枚看板の一つ、Clos Saint-Denisは見事なフレッシュ感とバランスがある。チェリー、ラズベリー、レッドプラムなど熟した赤系果実にココアやシナモンのようなスパイスが混ざり、砕いた岩のミネラルが香る。フルボディ寄りのスタイルでシルキーなタンニンを持ち、果てしなく長い余韻につながる。一方、Clos de la Rocheは控えめだが、より端正で典雅な雰囲気があり、ダークレッドフルーツ、黒鉛、チョコレート、スパイス、そして湿った葉っぱや林床のような特徴的なアーシーさがある。明確で表現豊かというよりはあくまでもニュアンスに富んだ静けさのあるアロマ。口に含むとセイボリーなフレーバーがかっちりした粒感のあるタンニンにじわーっと浸透していく。
ネゴスものはドメーヌに比べより若いうちから近づきやすく、シャンボールヴィラージュなどは美しいフレッシュな赤果実と硬質なミネラルがしっかりと感じられる。