Henriot(アンリオ)
200年続く家族経営のシャンパン・メゾン。それがアンリオだ。
フィロキセラや世界大戦の被害を受けながらもアンリオの一族がブランドを絶やさず継承し続けており、シャンパーニュの中ではとても珍しい存在である。
1990年代には大手メゾンであるブルゴーニュのブシャール・エ・フィス、シャブリのウィリアム・フェーブルなどを傘下にし、これを機に2つのワイナリーの品質は目覚ましく向上した。
1986年当時の当主であるジョセフ・アンリオはヴーヴ・クリコにも出資、アンリオの経営と共に会長を兼任した。
それによってヴーヴ・クリコの品質向上にも多大なる貢献をしている。
では本家アンリオはどうか。
出資したヴーヴ・クリコと比較するとアンリオ自体の知名度は低く、イメージはとても曖昧な気がしてならない。
12代目当主のスタニスアス・アンリオは語る。
「アンリオ家はアンリオをおろそかにしすぎました。」
「我々は大きくもないし、小さくもない。高価格で勝負できるほどのブランド力もないし、低価格を訴求できるほどの生産量もない。」
しかしながらその品質はシャンパンフリークの心をつかんで離さない。なぜなのか。
派手ではない。それは名脇役のように静かにそこにいて、飲む度にしみじみと旨さを感じさせてくれる良さがある。
動の美しさよりも静の美しさを感じられる、素敵なシャンパンだからではないだろうか。
目次
■歴史
1808年 ワイナリーの創設
アンリオ家はシャンパーニュで17世紀からワイン造りに携わっており、1808年にニコラ・アンリオの未亡人であるアポリーヌ夫人がメゾン・アンリオを設立。
彼女の父親はブジーに畑を所有しており、「ヴーヴ・アンリオ・アイネ」という名前でプライベートなシャンパンを販売していた。
クローズドながらも、その素晴らしい味わいは人づてに人気を呼び1850年にはオランダ王室御用達を獲得した。
番外編 1851年 シャルル・エドシック
アポリーヌの孫であるアーネスト・アンリオ氏は、姉の夫であるシャルル・カミーユ・エドシックと「シャルル・エドシック」を創設した。1985年にシャルル・エドシックは大手コニャックメーカーのレミー・マルタンに買収されるが、実はアンリオとシャルル・エドシックは親戚関係にあたる。
1880年 コート・デ・ブランの畑を取得
アーネストの甥であるポールがコート・デ・ブランのブドウ栽培家の娘 マリーと結婚。そのブドウ畑はかなりの大きさで、シュィイをはじめとしたコート・デ・ブランのグランクリュやプルミエクリュを得た。
アンリオの基本的なスタイルは、ピノとシャルドネをほぼ半分ずつのブレンド。
ピノ・ノワールの畑はアポリーヌとの結婚で、シャルドネの畑はマリーとの結婚によりアンリオ家にもたらされたもの。
この2つのマリアージュ(結婚)が、現在も続くアンリオのブレンドの基本となっているのだからロマンチックな話である。
1986年 買収と業務提携
11代目当主のジョセフは誰よりもアンリオを愛するヴィニュロンであり、敏腕経営者でもあった。
先代が拡大した125haのブドウの木と引き換えにヴーヴ・クリコの株式を11%買収し、アンリオとヴーヴ、2つのワイナリーを管理した。
(しかし、もしこの時に優良畑を売却してしまったとしたら早まった決断だっただろう。
現在シャンパーニュの畑の価値は当時と比較すると数十倍に膨れ上がっている。
あまり価値のない畑を売却して、出資している間にヴーヴ・クリコの価値も向上していたのだとしたら賢い戦略だったと思う。)
これを機にヴーヴ・クリコの品質も向上し、1994年にパートナーシップを解消するまで彼は多大なる貢献をした。
1995年には、大手メゾンであるブルゴーニュのブシャール・エ・フィス、シャブリのウィリアム・フェーブルを傘下にし、さらにこの2つのワイナリーも目覚ましく品質が向上している。
ジョセフの代でアンリオはこれまでにない高みへと昇り詰めることとなる。
■スタイル
使用するブドウのブレンドはプルミエ・クリュ以上が約70%と高いことはアンリオの特徴の1つでもある。
(さらにその70%の内約30%をリザーブワインとして毎年キープしている)
また、スタンダードキュベであるブリュット・スーヴェランでも3~4年瓶内熟成をする。
ブドウのポテンシャルが高いため、規定の熟成期間(15ヶ月)では本領を発揮できないからである。
最上級キュベのエメラも2005年ヴィンテージが現行(であり初ヴィンテージ)と、他のシャンパーニュメゾンに比べリリースが遅い。
高品質のシャルドネとピノをほぼ1:1のブレンドで、じっくりと熟成させることがアンリオの旨さの秘訣なのだ。
「すべての書類の署名にアンリオという名が記載されます。その時私は家名の誇りにかけて思います。ブランドは人が作るのです。ワインとは生きた商品であり、人生をかけた仕事だけが、ワインを本物とします。人の情熱がワインを造るのです。」
12代目当主のスタニスアス・アンリオは語る。
アンリオにはシャンパンに持たれがちな絢爛や華美という単語は似合わない。
乱れなく整然と、ただあるべきところにあるべきものがあり、誠実で美しいワイン。
それこそがアンリオの真髄であり、本当のシャンパンファンにとって不可欠なものだと確信している。