Martinborough(マーティンボロー)
ニュージーランドにおけるピノ・ノワールの聖地 栽培面積や生産量は雀の涙ほどだが、品質は最上級
ニュージーランド北島の最南端にある産地ワイララパ。プレミアムワインの生産にフォーカスしているこの産地は、ニュージーランド全体のわずか3%ほどの栽培面積、生産量としては全体の1%しかない。ワインツーリズムが栄えているが、その理由は首都ウェリントンからわずか1時間というアクセスの良さがある。ワイララパにある3つのサブリージョンの内、最も知名度が高くかつ重要な産地がマーティンボローである。
マーティンボローは1800年代に農場の一端として開拓されたが、1970年代にまるまではブドウ栽培の銘醸地としての地位は確立していなかった。1978年にブルゴーニュの気候との比較調査が行われ、その結果に興味を持った少数のブドウ栽培者たちが土地を買いブドウを植え始めたことが現在の土台を作るきっかけとなった。
マーティンボローの冷涼な気候と素晴らしい土壌はエレガントなワインを造るのにうってつけで、力強くも非常にエレガントなピノ・ノワールと香り高いソーヴィニヨン・ブランなどが有名である。
■テロワール
マーティンボローは西にそびえる山々と東にあるワイララパ丘陵の間に広がるエリアで、南西にはクック海峡が広がっている。冷涼な海洋性気候で夏は暖かくなるが、昼夜の気温差が大きく、ブドウはゆっくりと酸を保持したまま成長する。開花や結実期にはクック海峡から強い風が吹き、自然と収量を下げてくれる。
またマーティンボローは周囲にある丘が雨よけとして働くため、ニュージーランドの中でも比較的乾燥した気候を持つ。豊富な日照量、少ない降雨量、冷涼な夜という気候条件はブドウに明確な個性を与えてくれる。
土壌に関しては沖積土と砂利にシルト質ロームやロスが混ざっているものがよく見られる。排水性の高いこの土壌はブドウに理想的な水分ストレスを与えてくれる。ストレスを受けたブドウは限られたエネルギーを葉っぱを生い茂らせるためではなく、より凝縮した小さな果実を作ることに注ぐ。これが高品質なワインを生む鍵となる。また、ロームやロスは畑を涼しくする効果もあるとされており、これは石の土壌よりも水分を多く含み温まるのに時間がかかるからである。これがブドウの成長を遅らせ、生育期を引き伸ばすことで、より凝縮し複雑なフルーツのフレーバーが生まれる。
マーティンボローの著名な生産者はAta Rangi(アタ・ランギ)やDry River(ドライ・リバー)などが挙げられる。日本の楠田氏が手掛けるKusuda Wineryもこの地に本拠を構えている。
■味わいの特徴
マーティンボローを含むワイララパはニュージーランド全体のわずか3%の栽培面積しか持っていないにもかかわらず、ニュージーランドの中でも最上級の産地の一つとして広く認知されている。現在の地位を確立する過程では、多くの生産者が摘果や摘房を厳しく行い、その結果収量が国の平均と比較しても非常に低くなったという背景がある。3%の栽培面積に対して生産量は全体の1%という数字からもその品質へのこだわりが読み取れる。
同国のピノ・ノワールのライバル地であるセントラル・オタゴよりもより複雑さに秀でていることがマーティンボローのピノ・ノワールの特徴である。レッドチェリー、ブラックプラムなどのフレーバーに、しばしばスパイシーな要素を伴う。酸は比較的高めで、低収量のために力強く凝縮した果実味が感じられ、上質なタンニンがある。多くはフレンチオークバリックで12-18ヶ月熟成させる。クローンの種類も幅広く見られ、Abel cloneと呼ばれるクローンはDRCの挿し木から作られたものだとされており、この地の気候によくマッチしている。このクローンは通常大粒のブドウを多くつけるが、マーティンボローに吹く強い風は自然と収量を下げてくれ、バランスを取ってくれる。
ソーヴィニヨン・ブランもプレミアム価格のものが多くレベルが高い。マールボロのものと比べると高い酸は似ているが、ハーブ系のニュアンスがより控えめと言った特徴がある。一部のプレミアムなワインは天然酵母、部分的な樽発酵、長期間の澱との接触と言ったテクニックでテクスチャーや複雑さをより引き出している。
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