Mosel(モーゼル)

世界最高峰のリースリングを生み出す王者

川沿い×南向き×スレートのテロワールが

アロマティックなリースリングの魅力を最大限に引き出す

 13あるドイツのワイン産地の中で最も有名なエリアといえば、モーゼルを置いて他にないだろう。

 フランスのヴォージュ山脈から流れるモーゼル川はドイツ西端にあるこの地でダイナミックに蛇行し、ブドウ畑は川沿いの斜面にへばりつくように広がっている。斜面の向きや角度などがそれぞれ微妙に異なるため、隣り合った畑であってもその個性は一つとして同じものはなく、その差はブルゴーニュのコート・ドール以上とも言われる。

 モーゼルは上流、中流、下流と3つのエリアに分けて説明されることが多く、上流にはモーゼル川の支流であるザール、ルーヴァーが含まれる。各エリアにはそれぞれ著名な畑が見られるが、代表的なものは上流ザールにあるシャルツホーフベルガー、中流域帯にあるピースポート村のゴルトトレプヒェンやベルンカステル村のドクトール、またヴェーレン村のゾンネンウーアーも見逃せない。下流域帯には世界で最も急な斜面の1つに数えられるウィニンゲン村のウーレンやロットゲンがある。

 

 全ての偉大なモーゼルワインはリースリングから造られるが、モーゼルのリースリングは理想的なエリアでしか完璧に熟すことはなく、どこでもよいというわけではない。

 冷涼な大陸性気候のこの地でリースリングがそのポテンシャルを最大限に発揮するには三つの条件が揃わなくてはならない。それは「川沿い×南向き斜面×濃色スレート」である。川沿いの地理的メリットはなんといっても川からの反射光をしっかりと受けることができることである。また、蛇行する川沿いでは畑の向きは東西南北それぞれ異なるが、一番日当たりがいいのは南向きというのは北半球で万国共通ルールである。

 また、平地でなく川を望む斜面であることも太陽光が分散せずに畑をしっかり温めてくれる重要な要素となる。

最後にスレートだが、これは粘板岩と呼ばれる変成岩の一種である。屋根の瓦や墨汁を入れる硯を思い出すとイメージしやすい。色は濃色であるため太陽光をより吸収しやすく、蓄熱・放熱の作用によって畑を暖かく保ってくれるのだ。モーゼルのような北の産地では日射の強度や保熱が品質を左右する決定的な要素となる。

■味わいの特徴

 モーゼルのリースリングのスタイルは極めて幅広く、背筋がピンと伸びるような辛口から世界三大貴腐ワインに数えられる極甘口(トロッケンベーレンアウスレーゼ)まである。エゴン・ミュラーのような世界最高峰の造り手から生まれる極甘口は世界で最も高価なワインの1つとして取引され、ブルゴーニュの超一流生産者が造るグラン・クリュにも引けを取らない。その他のブドウ品種に関してはミュラー・トゥルガウやピノ・ノワールなどが見られる。

 冷涼エリアではあるが太陽の恩恵をしっかりと受ける畑では、ブドウがじっくりと長い時間をかけて生育する。ブルゴーニュでは温暖化の影響で開花から90日前後で収穫するという非常に早いケースも見られるが、例えばモーゼルのヘイマン・レーヴェンシュタインでは最大で160日も収穫を引き延ばすことがある。このためアロマを作る芳香成分も非常にゆっくりと成長し、その結果、一粒一粒が持つアロマは大変力強く表現力に富む。

 一方、冷涼な気候は酸を高いまま保持してくれるので、糖度が高くても見事な味わいのバランスを保ってくれる。この奇跡のバランスこそがモーゼルの魅力である。特にカビネットやシュペートレーゼなどのほんのり甘いワインでは、まさに極上のレモネードとも呼べる味わいで、シトラス系フルーツに蜜の甘みが伴い、フレッシュな酸と細かい粒状のミネラルが弾け、心地よい刺激となって口いっぱいに広がる。ワインが苦手でもこの味わいなら飲めるという人が多いのも頷ける。

テラッセンモーゼルのウィニンゲン村にあるHeymann-Lowenstein

 辛口の特徴はスレート抜きには語れないだろう。川沿いの斜面に広がる畑の多くは表土が薄くスレートがむき出しになっているが、モーゼルのブドウはこれを貫通して根を下ろしていく。スレートに由来するクリスタルのような気品あるミネラル感こそ辛口モーゼルを楽しむ醍醐味の1つと言えるだろう。

ただこのミネラル感は果実味を押しのけて前に出すぎてもいけない。なぜなら、味わいが硬く飲みにくくなってしまうからだ。近年地球温暖化の影響からモーゼルの気候も暖かくなってきたとはいえ、冷たい東風の吹く上流ザールの辛口は依然として果実味がタイトで酸とミネラルが強調されるスタイルだ。冷涼感、直線的、鋼っぽさというキーワードが目立ってしまい、万人を寄せ付けない無愛想なキャラクターとなっている。誰が飲んでもわかりやすくおいしいという点では、より気候の穏やかな中流~下流エリアに目を向けるべきではないだろうか。

完熟リンゴやピーチといったジューシーな果実味が近づきやすさを与えてくれ、同時に煌びやかな酸とミネラル感も楽しめる。この奇跡のバランスが味わえる産地こそがリースリング界の頂点に君臨するモーゼルなのである。

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