Sonoma Coast（ソノマ・コースト）

ソノマ郡で最大規模を誇るソノマ・コーストは、太平洋に沿って北はメンドシーノ、南はサン・パブロ湾まで伸びている。AVAは約200,000haの土地をカバーするが、ブドウの植樹エリアはごく一部で、ピノ・ノワールとシャルドネが主要な品種となっている。こうした冷涼品種のクオリティは全米トップクラスで、数多くのプレミアムワインがここから生まれる。

エリア内には複数のAVAが含まれており、まず北部の海沿いあるのがフォート・ロス・シーヴュー。中央部はロシアン・リバー・ヴァレーのほぼ全域を含み、南部はペタルマ・ギャップとカーネロスの一部が見られる。

テロワール

太平洋の影響を強く受けるソノマ・コーストは、ソノマの内陸産地よりも冷涼で多湿となる。海までの距離が近いことに加え、南部のペタルマ・ギャップでは海岸山脈が途切れているため冷たい霧が侵入し気温を下げるからである。このため、ドライで温暖な内陸と比べてソノマ・コーストではブルゴーニュ品種が支配的となり、ピノ・ノワールとシャルドネが全生産量の75%以上を占める。その他にはピノ・グリやシラーなども見られる。

エリア西部の畑は海岸からわずか数キロの位置にあるため、冷たい海風や霧の影響が最も強い。生育期を通して気温は涼しく、霧によって日照時間も制限される。また、こうした影響はブドウの結実を妨げることもあり収量は基本的に低い。これが早熟なピノ・ノワールとシャルドネにとりわけ酸を与え、緊張感を持った気品溢れるワインが生まれる。マーカッシン(Marcassin)、オーベール(Aubert)やオクシデンタル(Occidental)といった造り手たちのワインがそのポテンシャルを世界に証明している。

西部の中でもやや北に位置する標高280m以上のエリアはフォート・ロス・シーヴューと呼ばれている。2012年にAVA認定された比較的新しい産地である。この標高は霧がかかる層よりも高い位置にあるため、より長い日照時間が得られ温暖な気候を生む。霧のかかるエリアと比べると、ワインはフレッシュ感がありながらも果実により完熟感と甘さが生まれる。土壌は多様で、ロシアン・リバー・ヴァレーにみられるゴールドリッジ(砂をメインに粘土やロームが混ざる柔らかい土壌)に堆積岩、火成岩、変成岩の混合したものが見られる。

一方、南部にあるのがペタルマ・ギャップで、ここは海岸山脈の南端の切れ目とサン・パブロ湾の間に位置する比較的新しいAVA(2017年認定)である。シェルターの役割を果たす海岸山脈がなく太平洋に対して開けているため、エリア全域に強い海風が吹き込む。AVAの境界はこの風の速度によって定義され、生育期に最低でも時速約13kmの風がコンスタントに吹き続けているかどうかで判断される。海風は気温を下げ、またブドウの葉の気孔を閉じさせるほど強いため、ブドウ木の呼吸と光合成のスピードが遅くなる。こうして生まれる小粒なブドウには、高い酸と成熟したフェノールがしっかりと備わる。土壌は海岸沿いでは粘土が一般的で、内陸に入るとより多くの砂利が見られる。

味わいの特徴

西部のフォート・ロス・シーヴューは、線の細いスタイルのピノ・ノワールとなり、チェリーやすみれなどのフローラルなニュアンスを伴うアロマを持ち、チョーキーなミネラル感が感じられる。よりブルゴーニュ的な味わいと言える。多くのワイナリーが全房発酵を行い、スパイスのノートが感じられるより複雑なフレーバーと熟成ポテンシャルの高さが特徴となる。シャルドネも引き締まった気品溢れる仕上がりとなり、抑制されたフレッシュな果実味と高い酸が直線的な口当たりを生み出し、樽熟成と澱とのコンタクトによる上質なテクスチャーが味わえる。このエリアには泣く子も黙るマーカッシン(Marcassin)を筆頭に、フラワーズ(Flowers)やハーシュ(Hirsch)といった優良生産者がワイナリーを構えている。AVAを名乗れる栽培エリアの面積が約220haと非常に小さいため、そもそもの生産本数が少なく希少価値が高い。このため南部のペタルマ・ギャップと比べると全体的に価格は高く、小売価格でも1万円を超えるものが多い。

南部のペタルマ・ギャップは約75%がピノ・ノワールとなっている。冷涼でとりわけ風が強いため、内陸部よりもアルコール度数が低く、酸が高いフレッシュな赤系果実主体の味わいとなる。一部で全房発酵も見られ、タンニンや独特な苦味を加えることで熟成ポテンシャルに寄与している。ペタルマ・ギャップは比較的価格が安めで、ほとんどが小売価格1万円以内に収まる。