South West (フランス・南西地方)

ボルドーの影に隠れた地場品種の宝庫

国際品種があふれかえる現代において

独自の個性がキラリと光る

南西地方はフランス南西部を広大にカバーするワイン産地である。地理的にはボルドーもフランス南西部にあるが、ご存知の通りボルドーは存在感が非常に強く単体で独立している。このため、南西地方はその影に隠れた産地と言う人もいる。しかし、国際品種からの同じようなワインがあふれかえる現代において、南西地方のワインは極めてユニークであり、地場品種と個性の宝庫と言える。

エリアが広いために全体感が捉えづらいが、ざっくりと二つのエリアに大別できる。一つはボルドー近郊エリアで、ベルジュラックやモンバジャック、さらに東のカオールが入る。もう一つはスペインとの国境付近、ピレネー山脈の麓エリアで、マディランやジュランソン、イルレギーが入る。

 

テロワール & 味わいの特徴

Bergerac & Monbazillac

ベルジュラックはボルドーからさらに東の内陸に位置する。気候はやや大陸性となり、より温暖で乾燥している。粘土、石灰岩、一部で砂利が見られる土壌を持つためボルドー系品種がよく育つ。

ベルジュラックの最大収量はボルドーAOCと同程度(赤で60hl/ha白で67hl/ha)であるため一部のワインは味わいが薄いものもある。こうしたワインは基本的にステンレスタンクか古い大樽で熟成しリリースの早いカジュアルワインとして売られる。

一方、より品質の高いワイン、例えばコート・ド・ベルジュラックでは最大収量は50hl/haまで下がり、一部の生産者はオークで熟成させる。ベルジュラックの赤のほとんどはメルローが主体となる。

ベルジュラック内にはいくつもの独立したアペラシオンがあるが、中でも有名なのがモンバジャックである。モンバジャックは、1993年以降、機械収穫ではなく手摘みによる選果の収穫が支持されるようになってから品質が大きく向上した。SO2の使用量が大幅に減り、補糖も禁止されるようになった。モンバジャックはソーテルヌと同じ様に、支川がドルドーニュ川に合流するスポットのちょうど東に位置しているため、湿度が高い。晩夏と初秋の太陽はこの湿った空気を消散させ、貴腐菌に理想的な環境を生み出してくれる。

貴腐または遅摘みブドウから甘口白ワインを生むモンバジャックでは、ソーヴィニヨン・ブラン、ソーヴィニヨン・グリ、、ミュスカデルが主要な品種となっている。ソーテルヌほど新樽を用いた樽発酵は一般的ではないため、モンバジャックのワインの方が比較的リーズナブルな価格で楽しめる。

味わいに関しては、若い内はソーテルヌよりも豊満でキビキビとした活発の良さがあるのが特徴。重要な生産者はシャトー・ティルキュ・ラ・グラヴィエール(Chateau Tirecul La Graviere)など。


Cahors

ベルジュラックよりもさらに東に位置するカオールは、大西洋から250kmも離れているものの、一部で大西洋気候の影響を受ける。とはいえ、気候はボルドーよりも温暖で乾燥しており、年間降水量もボルドーの平均950mmよりも200mm程少ない。このためコット(マルベック)は花ぶるいやカビのリスクが低く、より安定して完熟することができる。

畑はロット川のそばに広がっており、川沿いの低地では肥沃な沖積土壌から高収量のカジュアルなワインが生まれる。一方、川から少し離れた丘陵の斜面中腹では痩せた土壌から凝縮感のあるワインが生まれる。標高350m付近の高地エリアが最上とみなされており、栄養分の少ない痩せたシレックス土壌から低収量の高品質ワインが生まれる。一般的にはこのような2エリアで品質の高低が語られるが、例えば生産者が果実味全開のフルーツ爆弾系のワインを求める場合は、沖積土の方が適しているということもある。標高の高さやシレックス土壌に由来するフレッシュさや引き締めよりも沖積土のボリューム感を低収量で更にブーストし、果実味を全面に出すというアプローチでも実に興味深い品質のワインができる。

カオールは最低70%のコットが必要で、残りはメルローやタナが使用される。最上級ワインはほとんどがコット単一またはほぼ単一の比率となる。未熟な茎からの粗いタンニンを避けるために除梗が義務となる。もともとは南西の田舎で生まれた地元用ワインで、粗野でタンニンが強く癖があるため一般受けする味ではなかった。しかしここ20年でアルゼンチンのフルーティーでアプローチしやすいマルベックが流行し、南西の多くの生産者がこのトレンドにインスパイアされた。一昔前のイメージとは異なり、果実味を全面に出すスタイルに移行している様子が今のカオールからは見て取れる。

ワインのスタイルは幅広く、ブレンドにメルローを用いて早飲みを意図し、7-10日程度のマセラシオンで軽めの抽出をするものから、長期の瓶熟を意図して15-25日の長いマセラシオンによってフレーバーとタンニンを最大限引き出すものがある。いわゆる伝統的な後者のスタイルでは濃く深い色調、力強いバイオレットやブラックプラムのフレーバを持ち、やや高めの酸と豊富なタンニンが特徴的となる。しばしば樽由来のヴァニラやスイートスパイスのニュアンスを伴う。ボルドーよりもフルボディとなる傾向があり、やや粗野な部分もあるものの、活力に溢れた味わいとなる。今日では、バリックよりも大きなフードルを好み、よりゆっくりと酸素を供給すること、そして過度なオークのフレーバーをつけないことを重視する生産者もいる。重要な生産者はシャトー・デュ・セードル(Ch. Du Cedre)やシャトー・ド・シャンベール(Ch. De Chambert)など。

カオールにあるFamille Vigourouxの畑

Madiran

マディランはボルドーの南部にある産地。カオールなどの東部エリアよりも南部の方が平坦な地形のため、大西洋の影響がより内陸まで入り込んでくる。このため雨が多く、年間降水量は1000mmとなる。温暖な夏と乾燥した秋に加えて、南のピレネー山脈からの乾いた熱風(フェーン現象)も受けるため、ほとんどの年でタナが安定して完熟する。マディランの地形は南北に伸びる複数の尾根が見られ、西向きの急な斜面を持つ。斜面の土壌は粘土と石灰岩で水はけがよく、長熟に向くタンニンの豊富なワインを生み出す。一方、平地では粘土と粘土質ローム土壌が主体となり、ワインはタンニンが控えめの早飲みスタイルとなる。

マディランでは60-80%のタナにカベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨンなどがブレンドされる。過度なタンニンの抽出を避けるために除梗が義務付けられており、強烈なタンニンを和らげるために短時間のマセラシオン、樽熟成、リリース前の瓶熟などが取り入れられている。マディランは深い色調を持ち、ブラックベリーやブラックカラントなどの力強いフレーバーにオークのニュアンスが混ざる。豊富なタンニンと高い酸を持ち、アルコール度数の高いフルボディのワインとなる。最近はより近づきやすいスタイルも出てきており、完熟ブドウを優しくプレスしマイクロ・オキシジェネレーションを使用してタンニンを和らげ、早飲み用に仕上げたワインも見られる。重要な生産者はアラン・ブリュモン(Alain Brumont)やシャトー・ダイディ(Ch. d’Aydie)など。


Jurancon

マディランよりもさらに南に位置するジュランソンは、穏やかで多湿な気候を持ち、年間降水量は約1200mmと比較的多い。一年中雨が降るため開花や結実、収穫時に影響を受けることもある。しかし水はけの良い斜面の畑ではこうしたリスクは回避できる。最上の畑は日当たりの良い南―南東向きとされている。土壌は石灰岩、砂、粘土と砂利の混ざったものが見られる。また、ジュランソンはピレネー山脈の麓にあるため、フェーン現象の影響を強く受ける。この暑く乾燥した風は、キャノピーの風通しを良くし、気温を上昇させる。この熱風がグロ・マンサンとプティ・マンサンを完熟させる。

ジュランソンはプティ・マンサンやグロ・マンサンなどから幅広いスタイルのワインを生産している。生産の70%が中甘〜甘口スタイルで残りが辛口となる。より小粒で果皮の厚いプティ・マンサンは11~12月頃まで木に残され甘口に使用される。高品質な甘口では樽発酵が取り入れられ、その後の熟成は12-18ヶ月と長い。基本的には古樽が使用されるが一部で新樽を使う生産者もいる。酸が非常に高いため通常MLFは起こらず、レモンやマンゴーなどの力強い第一アロマがきれいに保たれる。一方、グロ・マンサンを早摘みして辛口を作る生産者も増えてきている。基本的にはステンレスタンク発酵で澱と共に熟成が行われる。重要な生産者はドメーヌ・コアペ(Domaine Cauhape)など。


Irouleguy

イルレギーはボルドーから200km南西にある小さな産地で、スペイン国境付近のフランス領バスク地方に位置する。大西洋から約40km東に位置し、南西エリアでは最も海に近いエリアとなる。気候は海洋性だが、すぐ南に迫るピレネー山脈からの乾いた熱風(フェーン現象)の影響も大きく受ける。フランス最西端にあるこの地は粗野な丘陵地帯が広がり、ピレネー山脈直下にあるために複雑な地形と多様な土壌が見られる。多くの畑がある丘陵の斜面では砂岩と石灰岩がメインとなり、一部でシストも見られる。斜面下部や谷底エリアでは砂岩を含む赤い粘土が見られる。最上のエリアはやや低地の南向き斜面に見られ、寒い北風を避けつつもたっぷりと太陽の光を浴びることができる。

イルレギーは果実味溢れるタンニン豊富な赤ワインとフルボディでピリッとした酸の白ワインを生む。赤ワインはカベルネ・フランとタナから作られ、近年カベルネ・ソーヴィニヨンも進出してきているがまだ割合は少ない。果実味が全面に出たフルーティーさがある一方、タンニンが非常に強いので飲みやすくなるまでには数年は寝かせる必要がある。最上のものは10年以上の瓶熟に耐え、柔らかくなったタンニンと円熟感が楽しめる。白ワインは地場品種であるクルビュ、プティ・クルビュに加えてグロ・マンサン、プティ・マンサンのブレンドから作られる。トロピカルフルーツのアロマを持つフルボディで、それをしっかりと支えるキビキビとした酸が特徴となる。熟成するとスパイシーで土っぽいニュアンスを帯び、若い内に感じられるごわつきが柔らかくなる。

マディランやジュランソンなどの近隣産地と比較すると、イルレギーのワインは完熟感がありながらも酸がよりフレッシュでキビキビしている。これは海に一番近いためで、冷気の影響が一番大きいからである。今日では協同組合カーヴ・ド・イルレギー(Cave d’Irouleguy)が生産の大半を占めるが、 少数の独立したドメーヌも存在し、ドメーヌ・ブラナ(Domaine Brana)、 ドメーヌ・アレチェア(Domaine Arretxea)やドメーヌ・イラリア(Domaine Illaria)などから上質なワインが味わえる。

 

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