Tokaj(トカイ)

世界三大貴腐ワインの一つに数えられるトカイ

辛口でも通を唸らせるフルミントのポテンシャルに

今後ますます目が離せない

世界で最も名誉あるワイン産地の一つであるトカイは、スロヴァキアとの国境に近いハンガリー北東部に位置する。小さい村々からなり、南西から北東まで約40kmに広がるこの地は、ざっくりブルゴーニュのコート・ドールと同程度の規模感と考えてよいだろう。

トカイワインは何世紀にも渡って著名なワインとして知られ、ヨーロッパの貴族階級からの寵愛を受けた。しかし1945年にハンガリーが共産主義体制となった際、ワインの生産目標は質ではなく量に切り替わってしまった。

ハンガリーが幸運だったのは、こうした共産主義体制下においても、他国に比べ個人所有畑が多くあったことである。このため1989年に共産主義が終わりを告げた際、生産者たちは過去の栄光を取り戻すべくすぐに立ち上がることができた。1990年代初頭におけるAXAやVega Sicilia、Hugh Johnsonといった外国資本家たちのおかげでトカイのワインは息を吹き返し、過去25年で品質が大きく向上した。

トカイは温和な大陸性気候を持っており、夏は暑く冬は寒い。広大な三日月型の山に囲まれており、寒い北風を避けることができる。

畑は霜のリスクが少ない斜面に多く見られる。土壌はモザイク状に広がっており、丘陵の高地には火山性の粘土が見られ、低地にはロスなどが見られる。またエリアの東端を流れるボドログ川に近づくにつれて、より砂質が多く見られる。

年間降雨量は500-600mmと比較的低いが、約半数は生育期に降る。トカイは貴腐ブドウにとって理想的なコンディションを持っており、これはまず2つの川(ティサ川とボドログ川)がトカイの街で合流し、水分を含んだ空気が朝霧となって現れる。これが菌の成長を促し、続く午後には乾燥した晴れ間が続くためブドウが萎むのにうってつけとなる。

一方、うどんこ病のリスクはついてまわり、とりわけ湿った年には灰色かび病も脅威となりえるため、適切なキャノピーマネジメントによって空気の循環を確保することが重要となる。

味わいの特徴

トカイで重要なブドウは3種類ある。

この地の顔とも言えるのがフルミントで、全体の約69%を占める。甘口ワインに最適な品種であり、果皮が厚いにもかかわらずボトリティスにかかりやすい。また、完熟しても高い酸を保持できるため、糖度が高くてもしっかりとバランスが取れる。レモン、リンゴ、洋ナシなどのフレーバーが典型的で、熟成に従ってハニーやナッツが現れてくる。貴腐ブドウからはドライ・アプリコットやマンゴーのニュアンスが出る。

次に植樹が多いのがハールシュレヴェリュで、フルミントよりもフルーティーで白桃やオレンジ・ブロッサムなどのアロマがある。

最後がシャールガ・ムシュコタリ(・ブラン・ア・プティ・グラン)で、ブレンドではフローラルなノートを与えてくれる。

トカイのワインには複数のスタイルがあり、それぞれに製法が異なる。

① アスー(Aszu)

トカイを代表するスタイルで貴腐ブドウから作られる甘口ワイン。深いアンバーカラー、高い酸、低いアルコールが特徴で濃密なアロマにはオレンジピール、アプリコット、ハニーの要素がある。最上のものは小売価格で3万円近くにもなる。

貴腐ブドウから効果的に味わいを抽出するために、アスーではマストまたはベースワインに貴腐ブドウを加えてワインを作る。ベースとなる部分のスタイルはどの品種を使うか、またどの程度貴腐がついたブドウを使うかによって変化するが、貴腐ブドウをどの段階で加えるかも出来上がるワインに大きな影響を与える。つまり、タイミングとしては発酵前のマスト、発酵中のマスト、発酵後のワインと3パターン存在し、これによって抽出度合いが変わるのである。発酵前のマストに加える場合、最も軽やかなスタイルとなり、発酵中のマストでは抽出が最も強くなるため最も複雑なスタイルとなる。そして発酵済みのワインに加える場合は、二番目に軽やかなスタイルとなる。

抽出が終わるとプレスされ、樽またはステンレスタンクでアルコール発酵が行われる。スタイルによっては甘さを控えめにするために12-13.5%という比較的高いアルコールを狙う場合もある。一方、甘口では残糖が180g/L以上だと発酵が自然にストップすることが多く、人為的に止める場合は、冷却か澱引きかSO2添加によって発酵を停止させ残糖を残す。

熟成はオークで最低18ヶ月が義務付けられている。伝統的には小さな136Lの樽で熟成されていたが、現在ではほとんどの生産者が300-500Lのより大きなサイズにシフトし、新樽あるいは古樽を用いる。アスーは伝統的な500mlのトカイボトルに瓶詰めされる。

2013年までアスーはプットニョスによって3~6段階の甘さが決まっていたが、2013年の法改正により、アスーの最低残糖度が120g/Lとなった。これによって最低残糖度を満たしていれば3~5プットニョスは自由に名乗ることが可能で、6プットニョスのみ150g/L以上の残糖が必要となる。

② エッセンシア(Eszencia)

貴腐ブドウからしたたるごく少量のフリーランジュースからつくられる。果汁は極めて甘いため発酵には何年もかかることがあり、それでも通常アルコールは5%以下と非常に低い。最低残糖度は450g/Lで、ワインはフルボディで力強い濃厚なフレーバーを持つ。酸が高いため、ワインはフレッシュ感を保つことができ、長期間の熟成にも耐えうる。

エッセンシアは極めて希少価値が高いため、小売価格で5万円超も珍しくなく、最上のものは10万円を超える。

③レイト・ハーヴェスト(Late Harvest)

アスーの生産にかかる多大な時間とコストに対し、近年出現した新たなスタイル。これはレイト・ハーヴェストと呼ばれ、アスーよりも貴腐ブドウの使用量が少ない。

ワインはよりライトボディで、アスーほどの凝縮感はない。最低残糖度は45g/Lだが、実際はほとんどが90-110g/Lの範囲となっている。樽熟成は強制ではないため、多くのワインでステンレスタンクが用いられており、品種の個性を表現したいという生産者の意図が表れている。この結果、レイト・ハーヴェストはアスーよりもかなり早いリリースが可能で、通常収穫後 12-16ヶ月で飲むことができる。

④サモロドニ(Szamorodni)

サモロドニはポーランド語で「ありのまま」を意味し、全房ブドウ(健全なもの、貴腐のついたものを含む)を使用する。

スタイルは甘口もドライもあり、ブドウの完熟度と貴腐の付き具合によって変わる。より一般的なのが甘口スタイルで、最低残糖度は45g/Lだが、ほとんどが90-110g/Lとなる。2016年の法改正によってワインは樽で6ヶ月の熟成が必要となったが、アスーに比べるとかなり短い。一方、辛口スタイルでは薄いフロール(産膜酵母)のもとで最大十年熟成され、この間補酒はしない。フロールはシェリーで見られるものよりもはるかに薄く、ワインにはナッツやグリーンアップルなどのアロマが現れる。

⑤ドライ(Dry)

トカイの歴史における辛口ワインは、ボトリティスがうまく育たなかった時の副産物でしかなかった。しかし、21世紀のトレンドが辛口に大きくシフトした結果、トカイでも高品質な辛口ワインが生み出されるようになり、生産量は過去5年間で3倍に増えた。

生産者は甘口とは異なるアプローチが必要ということを理解しており、例えばボトリティスのない健全なブドウを取るために、霧がかかる畑よりも上部にある風の吹く高地に新しくブドウを植え、よりオープンなキャノピーにすることで貴腐を防いでいる。

また味わいに関しても当初の辛口ワインは、完熟ブドウをMLFし、新樽で長期熟成させていた。しかし、現在生産者たちはアプローチを切り替え、適度な成熟ブドウを用いてステンレス発酵を行い、徐々に介入を減らす手法を取り入れている。こうしてより軽やかなボディのワインを作ることで品種の個性を最大限表現しようとしている。またテロワールの表現へのこだわりも見せており、単一畑のワインもいくつか生産されている。辛口は多くがフルミントから作られているが、ハールシュレヴェリュやシャールガ・ムシュコタリからのものもある。

 

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