オレゴンの生産者に差し迫る熱波
オレゴン州のウィラメット・ヴァレーは、7月26日に観測史上最も暑い日を記録し、オレゴン州の州都であるセイラム市の気温は47度に達しました。これは太平洋岸北西部で頻発しているヒートドーム現象(熱波の一種)の一部です。
このような気温はカリフォルニア州のワイン産地では時々起こりますが、大衆ワインの生産地であるサン・ホアキン・ヴァレーが猛暑を記録してもさほどニュースになりません。しかしこれまで想像できなかったような気温を記録するようになると、ピノ・ノワールは生産者に前例のないような課題を与えることになるでしょう。
カリフォルニア大学デービス校でブドウ栽培と植物生物学の教授を務めるMegan Kathleen Bartlettは次のように説明します。「ピノ・ノワールの熱耐性に対する問題にはいくつかの側面があります。1つ目はスタイルの問題です。人々はピノ・ノワールに少ないタンニンと果実中の低いpH指数、低い糖度とアルコール度数を求めます。これらの全ての要素は熱による影響を受けます。熱は酸を破壊し、ブドウ樹が果実へ送り込む糖度の量も増加させます。さらに果実からの水分蒸発も活発になります。果皮が薄い品種のため水分が蒸発しやすく、しなびたり、日焼けしたりしやすいのです」
幸いなことに、熱波が襲来した7月下旬というのはブドウ樹が最も暑さをしのげる時期かもしれません。ワイナリーWillamette Valley VineyardsのCEOであるJim Bernauによると、ウィラメット・ヴァレーでは7月上旬に通常の2倍の降雨があったため、地面はある程度の湿度を保ち、またブドウ樹はヴェレゾン(色づき)のプロセスを経ていないため、果実はまだ小さく、緑色で硬い状態だそうです。
「ブドウにとって最も害の少ない時期を選ぶとしたら、7月下旬の今の時期でしょう。すでに開化と結実を終え、湿度の高い6月のおかげで樹冠は成長しています。房は樹冠によって保護され、小粒の果実が葉に守られている状態です」と、Bernauは説明します。
ブドウの葉には気孔があり、通常その気孔から二酸化炭素を取り込み、酸素と水蒸気を排出します。猛暑の環境下では、気候は水分を溜め込むために閉口することでブドウ樹全体を守ります。しかし気孔が閉じた状態では、ブドウの成熟と日照からの保護の役目を担う葉は枯れてしまうとBartlettは述べています。
人間と同様、日焼けはブドウにとっても脅威です。特にその影響は白ブドウではより顕著で、日焼けにより部分的に茶色く変色してしまいますが、黒ブドウも例外ではありません。カリフォルニア大学デービス校では布地を用いてブドウ樹のシェルターを作る研究をしていますが、果実を保護するための大きな葉を確保することが最適だそうです。
ウィラメット・ヴァレーに位置するリンフィールド大学の気候学者であるGregory Jonesは、ワイン業界では気候と地球温暖化の専門家として知られています。
「このような熱波による最大の課題は、熱波が発生する前後で平均気温が高くなってしまうことです。太平洋岸北西部が冷涼気候向けのブドウ栽培に適している理由は、通常このような事態が起こらないからです。この時期はほとんどの樹冠が成長のピークを迎えており、影を確保して果実を涼しく保つには十分な成長でしょう。しかし収量に問題が出てくるのではないかという懸念があります」と、Jonesは語ります。
水の問題
ワイナリーThe Eyrie Vineyards のオーナーであるJason Lettは次のように述べています。「ヴィニフェラ種はウィラメット・ヴァレーよりも過酷な環境にある、太陽が照り付ける火山の斜面で進化を遂げてきました。ブドウ樹はこの熱波を難なく乗り越えることが出来るでしょう。実際に今日のブドウ樹は素晴らしい状態でした。葉はしおれることなく、蔓はよく成長し、そして活力が溢れていました。そして何より、暑さはウドンコ病を撃退してくれるのです」
樹齢の高いブドウ樹の根は、より深層部にある冷涼で湿った土壌まで到達することができます。しかし比較的最近植樹された樹齢の若い樹は、灌漑をしなければ枯れてしまうリスクが高まります。そして樹齢の高い樹であっても、長期的には害が少ないかもしれませんが、その年の収穫量には影響がある場合もあります。
並行して、熱波がヨーロッパ全体の気温を上昇させた2003年のブルゴーニュを見てみましょう。この年、ブルゴーニュの生産者たちは多くのワインを造り、確かにそれは飲みやすいものでしたが、通常より高いアルコールと低い酸度が指摘されました。ヨーロッパの一部ではこの熱波がプラスに働いたエリアもありますが、少なくともこの年のブルゴーニュ・ワインは多くの人が高級ピノ・ノワールに求める出来ではありませんでした。
オレゴンワイン委員会の広報担当を務めるSally Murdochは別の問題を指摘します。「私はブドウよりも人間を心配しています。実は、ポートランドとシアトルは米国でエアコン付きの邸宅の割合が最も少ないエリアです。これらの都市には、午後になると人々が涼みに訪れることのできるクーリングセンターを常設しています。除葉や枝の管理など、今がブドウ畑における労働のピーク時ですが、このような猛暑が続けばフルタイムで作業することが困難になるので、ブドウ樹の繁栄時に作業が遅くなってしまいます。」
気候学者のJonesによると、気候変動の影響は熱波が発生しているという事実ではなく、その規模の大きさに表れているといいます。「今回のような規模のヒートドーム現象は、地球温暖化の気候で予想されることなのです」
Willamette Valley VineyardsのBernauは、今回のヒートドーム現象が2020~2021年に訪れる最後の困難であることを願っています。
「人生の困難は付き物です。1つ目の困難はコロナウイルスによるパンデミック、2つ目は2020年の豪雨でウィラメット・ヴァレーの収量が激減したこと、3つ目は山火事による煙害です。そして今回の熱波が4つ目です。これが最後であることを祈るばかりです」
引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2021/06/heat-the-burning-issue-for-oregon-winemakers
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