コトー・シャンプノワの未来
シャンパーニュの大手メゾンLouis RoedererやCharles Heidsieckがシャンパーニュでスティルワインのリリースを始めると聞いたら、あなたはシャンパーニュが変動期にあることを悟るでしょう。
変動期の要因はもちろんその気候にあります。シャンパーニュが傑出したスパークリングワインを生産できる理由は、シャンパーニュが良質なスティルワインの生産には不向きだとされてきたからです。シャンパーニュ製法(瓶内二次発酵を用いたスパークリングワイン製法の一つ)を用いて最高品質のスパークリングワインを生み出すためには、酸度が高く無駄を削ぎ落としたベースワインが必須ですが、このベースワインは醸造を経て非常にリッチなスパークリングワインへと生まれ変わり、その集大成は自然が生み出すものよりも偉大なものになるのです。
しかしLouis Roedererは2種類のコトー・シャンプノワ”Camille”をリリースし、Charles Heidsieckは2019年に初めてリリースしたスティルワインに加えて更に3種類のキュヴェをリリースしています。他にもRene Geoffroy やEgly Ourietなど、レコルタン・マニュピュランの生産者を中心に多くの生産者がスティルワインを造っていますが、それには理由があります。
温暖な夏の恩恵を受けて、レコルタン・マニュピュランの生産者たちは単一畑によるシャンパーニュの生産を先導してきました。彼らは特定のワインのために特定の区画を用意するだけの十分なポテンシャルがあり、それが必要であると信じていたからです。そして今、まさに彼らはコトー・シャンプノワの生産を先導していますが、大手メゾンが彼らの取り組みを模倣しだすと大きな注目を受け始めるのが典型的なパターンだと感じるかもしれません。
しかしながら、多くのメゾンがリリースこそしていないものの、何十年も前からコトー・シャンプノワを小規模生産してきたのも事実です。偉大なコトー・シャンプノワは常に造られていましたが希少性が高く、一部の区画から優良年のみ造られ、そしてそれは今でも続いています。
コトー・シャンプノワの問題点はどうしてもヴァン・クレールのような味わいに仕上がってしまうことです。ヴァン・クレールとは、シャンパーニュの生産者がブレンドを決定するために、毎年2月にテイスティング・ルームに並べるスティルワインのことで、良いヴィンテージでは非常に良質なものですが、それでも”ヴァン・クレール”の味わい止まりになります。コトー・シャンプノワはそのレベルを上回らなければならず、シャンパーニュ製法がシャンパーニュのワインを別のレベルに引き上げるように、コトー・シャンプノワも”泡のないシャンパーニュ”のレベルを上回る必要があります。
市場に出回るコトー・シャンプノワがどれだけこのレベルを実現できているでしょうか?ほとんど少数でしょう。これは単なるブドウの熟度の問題ではなく、ブドウが持つ個性の問題でもあるのです。人々の記憶に残るようなコトー・シャンプノワを造るためには、その区画が卓越した個性を持ち合わせなければなりません。また、スパークリング用ではなく、あくまでスティルワイン用に栽培されたものでなければなりません。
Bollingerはコトー・シャンプノワ” La Cote aux Enfants”を長年造っているので、その4ヘクタールの区画を徹底的に理解しており、シャンパーニュでは考えられないような強烈な果実味を備えたピノ・ノワールが生まれます。彼らはこの畑をシャンパーニュ用ではなく、赤ワイン用として栽培を続けてきました。
Louis Roedererは赤白ともに造っていますが、どうしてもヴァン・クレールのような味わいになってしまうという問題があるので、白ワインを造るほうが難しいと語ります。「ピノ・ノワールは究極の探求です。我々の畑には豊富な石灰がありますが、十分なタンニンとストラクチャーを備えたリッチなピノ・ノワールのためには粘土が必要です」そこで彼らは1990年代後半に分析を行い、十分な粘土を備えた6つの区画にスティルワイン用のピノ・ノワールを植え替えました。樹冠の密度を高めて影を作る代わりに、それらをオープンにすることでフェノールと茎の熟度を高め、種子と皮、茎といった“通常は取り入れないようなテロワールの全ての要素”を浸漬することを可能にしています。
Louis Roedererの試みについて話しましょう。Louis Roedererの醸造責任者Jean-Baptiste Lecaillonは2014年に最初の赤ワインを仕込みましたが、満足のいくものではありませんでした。収穫を遅くする必要があると踏んでいたのですが、タイミングが遅すぎたのです。2015年は改善されたものの、彼は100%除梗すべきという考えにとらわれていたので、彼が求めているような十分なタンニンが欠けていました。2016年は一部全房で醸造したところ、これは正しい方向性でしたが今度はオークが強すぎました。そして2017年は腐敗に見舞われました。
そして2018年は彼にとってようやく完璧な年となりました。スパークリング用ブドウよりも収穫日を3日遅め、樹冠を高めてトリミングは行いませんでした。全房率を約40%程度にし、非常に軽い抽出を行い、そしてオーク樽を適度に取り入れました。非常に繊細でライトなトーストのオーク樽と、1年使用のオーク樽、そしてオーク樽と同レベルの酸素透過性を持ちながら樽香のない石灰質のアンフォラの併用がその答えでした。
しかし白ワインの最適解までは長い道のりでした。コート・デ・ブランの偉大な村であるアヴィーズとクラマンが最適な出発地点のように思われましたが、仕上がったワインは泡のないCristalのような味わいで納得いきませんでした。そして、ある日セラーから発掘した1961年のメニル・シュール・オジェが答えを導き出してくれたのです。Louis Roedererはメニル・シュール・オジェに2区画を所有しており、Lecaillonは1961年のワインはバランスの良い区画から造られていると確信しました。
Charles Heidsieckはシャンパーニュ南部に位置するモングー村とモンターニュ・ド・ランス東部に位置するヴィレール・マルムリ村から白ワインの醸造をスタートし、更にアイ村の白ワインとアンボネイの赤ワインもラインナップに加わっています。彼もまた、クラシックを超越した白ワインの個性を探求していました。モングー村の白ワインは良い熟度を持っているので、ワインは適度な筋肉質を備え、複雑でエキゾチックな味わいになるのです。
コトー・シャンプノワにはまだ微調整が必要です。Lecaillonは、Louis Roedererが細部まで整えるにはもう1世代かかるだろうと考えています。「シャンパーニュの生産には冷涼な気候向けの栽培が必要ですが、コトー・シャンプノワの栽培には日照量が必要です」とLecaillonは説明し、Charles HeidsieckのBrunはこう付け加えています。「コトー・シャンプノワは毎年の生産が出来ません。特定の区画に突然変異が起き、完璧なバランスを手にした時に少量のみ造ることができます。」
それ以外の年には、まだ泡のシャンパーニュが重宝しそうです。
引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2021/07/still-life-in-coteaux-champenois
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