2023年9月より始まったフランスの収穫

2023年9月より始まったフランスの収穫

労働者の苦悩、干ばつ、、雨、…様々な問題が畑を取りまいていますが、9月上旬よりフランス全土で収穫が開始されました。


収穫に至るまでの数ヶ月の間、フランス全土で悪いニュースが続きましたが、9月上旬より各地でとうとう収穫が始まりました。今回はフランス各地のワイン産地からの最新レポートをご紹介します。

 

シャンパーニュ

まず最初に、シャンパーニュ地方では8月下旬より主に南部オーブ地区から収穫が始まり、他のエリアも9月上旬よりそれに続きました。ですが、2023年がどのような年になるかは、誰に聞くか、何を読むかで異なります。

 

シャンパーニュ委員会(CIVC)によると、2023年は生産量において記録的な年となりそうです。生産者団体Union des Maisons de Champagneの代表であり、CIVCの共同会長であるDavid Chatillonは、2023年のブドウ一房の重量は220グラムを記録し、前回の記録である2005年の一房175グラムを大幅に上回っていると語ります。
ですが、全てがバラ色という訳ではありません。8月下旬にCIVCが発表した成熟度レポートによると、直近の数週間での果粒の肥大化(房の重量の増加と密接に関係)は、果粒の“潜在的な酸味の希釈”をもたらしました。

 

すぐに収穫をすればそれほど心配することはありませんが、この時点ではブドウの成熟度がまだ十分ではないことは明らかです。

 

さらに、8月下旬から9月上旬にかけての天候は、8月に確認されたボトリティスの打開を助長するには至りませんでした。シャンパーニュ全体のブドウ畑の11%がこの菌の被害を受けていると公式発表されていますが、直近の蒸し暑い天候(特に8月末)は問題の解決を促してはくれませんでした。9月上旬時点で、中旬には乾燥した暑い天候が予想されていますが、ブドウ栽培者が、酸が下がり続け、成熟度が高まる中、どれだけボトリティスが乾くのを待てるのかは誰にも分かりません。

 

成熟度については、公式の数字では、この地域全体の潜在アルコール度数は7-8度です。公式には、腐敗の危険性にもよりますが、潜在アルコール度数が9-10度になった畑から最も早く収穫が許可されていきます。

 

従って、収量は高水準を維持し、公式では2023年を“高品質”で高収量の年と期待していますが、ヴィンテージがどのようになるかはまだ未知数です。

ボジョレー

2023年に病害による大きな打撃を受けなかった数少ないフランスのブドウ栽培地域の一つであるボジョレーでは、9月1日からガメイの収穫が始まりました。(シャルドネは8月28日から)
地方紙Le Progrèsのレポートによると、ある生産者は雹により収穫の20%を失ったようですが、ヴィンテージは質、量ともに良いものが期待できそうです。

 

この地域のワイン業界団体、Inter Beaujolaisの副会長であるDaniel Bulliatは、フランスのワインニュースサイトVitisphereにこう語っています。“8月最後の2週間は暑い日が続き日照量が多かったため、ブドウの成熟が進みました。生産量は過去5年の平均を僅かに上回るでしょう”

 

ですが、多くの地域で問題となっている収穫期の労働者不足は、他の地域同様、ボジョレーのワイン生産者にとっても物流上の頭痛の種となっています。とはいえInter Beaujolaisは今シーズンは約2万人の労働者がこの地の収穫に参加することを予測しています。

ローヌ

9月上旬の時点でローヌ北部とコトー・デュ・リヨネの一部の地域では既に収穫作業が行われています。コート・ロティの中心部であるアンピュイは、ブドウの成熟が早かった直近の数シーズンとは違い、2023年は収穫日がほぼ平年並みに戻り、比較的平穏な年となりそうです。

 

とはいえ、ボジョレーでの8月下旬の日照はこの地でも見られたためブドウの成熟を早めました。地方紙Le Progrèsが8月中旬に発表していた9月10日という暫定的な収穫開始日より前に収穫が開始される事は間違いありません。

 

さらに南下し、ローヌの北と南のほぼ中間に位置するアルデッシュでは、シャルドネの収穫を8月15日に開始して以来、収穫が続いています。ここでもべと病が問題となっており、一部の畑では最大15%が被害を受けていますが、地方テレビ局France 3は、収穫量は前年比15%増になるだろうとしています。

 

今年の暑さはシャトーヌフ・デュ・パプでも収穫日を早めており、8月23日より主にルーサンヌとグルナッシュ・ブランから収穫が開始されました。地方紙La Provenceによると、2023年は”質と量の両方“が約束されている、と言います。

 

ここでも8月の熱波とその前の猛暑が収穫日を早めています。Château Les Fines RochesのFrédéric Mailletは8月に「(この暑さによりブドウの成熟が急激に進んだため)スタッフの何人かを休暇から呼び戻さなければならなかった」とLa Provenceに語っています。

 

近隣のコート・デュ・ローヌでも同様のことが起こっており、この地の大規模協同組合であるMaison Sinnae、Cave de Chusclanでは白ワイン用ブドウの収穫開始は8月19日からと早かったものの、赤ワイン用ブドウの収穫は9月中旬までずれ込んでいます。

フランス南部

地中海沿岸のワイン生産者は今年、生育期の最初から最後までほとんど干ばつに見舞われましたが、東はプロヴァンスから西はルーションまでの南フランスもここでフランス南部としてまとめているので、後者にとっては少し不公平に感じるかもしれません。

 

プロヴァンス地方のラ・モット(カンヌから西に50km)にあるDomaine de l’Eouveのオーガニックワイン生産者、Sébastien Ramellaは、地方テレビ局の取材に対し、“干ばつと雹により生産量が約30%減少した“と語りました。それにも関わらず、9月頭に降った雨のおかげで高品質なブドウの収穫が期待できるといいます。
「果実はドライで凝縮しています。この雨はアルコール度数を少し下げるのに役立つでしょう。現時点では潜在アルコール度数が14度なので、13度まで下がれば上出来です」

 

南部全域の傾向を反映したものですが、今年のDomaine de l’Eouveの収穫は簡単なものではありませんでした。「幾つかの区画は旱魃と熱波で停滞していました」とRamellaは振り返ります。

 

ワイン生産者組合、Coteaux d’Aix-en-Provenceの会長であるOlivier Naslesは、地方紙La Marseillaisに、“収量は昨年より減るが、品質は期待できるだろう”と語りました。ボー・ド・プロヴァンスのアペラシオンを率いるCaroline Missoffeは、ブドウは“収穫に向けて完璧な健康状態である”とその品質を強調しています。

 

干ばつが常態化してきている西部でも、最近の傾向として夏の終わりの熱波が見られるようになっています。Vitisphereによると、モンペリエから西に60km程進んだエロー県のほぼ全域で水の利用可能量が”歴史的な低水準“に近づいているといいます。

 

干ばつはブドウの生育期に影響を与えるだけでなく、ワイナリーの衛生面にも影響を及ぼしており、多くのワイナリーは清掃などに使用する水の使用量を減らすよう迫られています。

 

地方紙La Tribuneによれば、干ばつによって収穫量が50%減少する地域もあれば、水不足でブドウ木の活動が完全に止まってしまった地域もあるといいます。

 

品質については、このような中でも出来上がるワインは良いものになると予想されており、量としては2022年の収量と同程度になる見込みです。カルカッソンヌに近いオード県、マルセイユから東に進んだヴァール県では畑を維持するのに十分な雨が降ったと報告されており、灌漑設備を持つ生産者たちも良い収穫を期待しています。

 

レディニャン(地名)の協同組合のセラー責任者であるAnthony Bafoilは、La Tribune紙にこう語っています。

 

「白ワインの収穫は8月中旬から開始しました。ブドウはとても香り高く、バランスも良いです。ですが、8月20日~23日にかけての凄まじい暑さにより、収量が減ってしまいました。また、ブドウの成熟が急激に早まったため、収穫スケジュールを変更せざるを得ませんでした」

 

さらに西のピレネー・オリエンタル地区(Côtes du Roussillon, Maury, Rivesaltes, Banyuls, Collioureのアペラシオン)では、干ばつの影響を大きく受け、収量が20%以上減少すると報じられています。

ボルドー&南西部

今年のボルドーとべと病との長期にわたる戦いは既に何度も報じられてきました。この地域が大きな打撃を受けている事は明らかですが、その被害がどれほどのものかはもう少し時間が経たないと分かりません。

 

ボルドー市長のPierre Hurmicは、“この悲惨な夏の後、ワイン部門との連帯を示す”ために、8月下旬にオーガニックワイン生産者のPierre-Henri Cosynsのブドウ畑を訪れました。

 

ボルドーワイン委員会(CIVB)のBernard Farges副会長は、フランスのニュース番組20 Minutesの取材に対し、2023年については“予測することができない”と話し、「幾つかの地域のブドウ畑はべと病によって深刻な影響を受けており、ある地域ではほぼ全てのブドウ木が破壊されたが、被害を免れた地域もある」と報じられています。

 

Farges副会長は、メルローの収穫量についてしか言及していませんが、この地域全体の主要な赤ワイン品種で、全栽培の60%を占めるメルローの収量は“大きな影響を受けるはずだ”と述べています。

 

質の面では、Farges副会長は明るい表情を維持し、“べと病が破壊したものは品質には影響を与えない”と語りました。実際、2023年は良いヴィンテージになると彼は付け加えています。

 

一方、南西部では、ボルドーにおけるべと病被害と同時期にここでもべと病による被害が見出しを飾りました。ベルジュラックからイルレギーまでべと病の被害が大きかったことは間違いありませんが、どの程度深刻なのかは報道から読み取る事は難しい状況です。

 

ボルドーの東に位置するドルドーニュ地方の生産者、Jean-Marie Briauは、地方紙Sud-Ouestの取材に対し、「黒ブドウについては、べと病の影響で収量は多くありません。白ブドウについては、昨年より少し良くなりそうですが、直近の4年間は、霜、雹、病害によって良いものだったとは言えません」と語っています。

 

南西部のトゥルサンの収穫レポートによると、メルロー(そしてカベルネ・ソーヴィニヨンもある程度)が南西部全域に広がるべと病によって最も大きな打撃を受けており、トゥルサンで収量の最大潜在能力を発揮できなかった理由の一つはべと病によるものとしています。

 

「特にメルローとカベルネ・ソーヴィニヨンに被害が出ており、タナとグロ・マンサンは良く持ちこたえました」
トゥルソーの生産者団体のトップを務めるRégis Laporteはこう話します。ただ、ボルドーのFarges副会長と同様、Laporteもワインの品質については楽観的です。

 

フランスのワインのウェブサイト、Terre de Vinsによると、さらに南にあるカオールでは1000~1500haの畑がべと病に侵されているとのことです。

 

一方、特にアペラシオンの北西部では被害が5%以下で済んだところもあります。しかし全体的には収量が大幅に減少し、特に低平地では平年の半分程度の収量になりそうです。「今年は全く収穫が出来なかった生産者もいます」とChâteau EugénieのJérôme Coutureは話します。しかし、収量減にも関わらず、話を聞いたどの生産者も良質なワインが生産できると考えているようです。

ロワール

北に位置するロワールは、生育期の天候不順にも関わらず豊作を享受できそうです。実際、この地域の2023ヴィンテージは良いものになると確実視されています。

 

トゥーレーヌ地方とロワール中央部の見通しに水を差したのは今のところ8月末の降雨だけです。地方紙La Nouvelle Républiqueによると、9月8日の現時点では、9月上旬から下旬にかけての天候が2023年ヴィンテージの結果を決めると報じています。

 

一方、西部のミュスカデではワイン生産者達は良いヴィンテージを確実視しています。

 

「ブドウの健康状態は良好で、特に、涼しく雨が降った後に暑い気温が続いたここ数週間の天候は理想的だった」と地方ラジオのFrance Bleuで報告されています。

 

今年のサンセールからのニュースは少ないですが、2022年に見られた9月上旬の雹が今年は繰り返されないことを期待しましょう。

ブルゴーニュ

ブルゴーニュでは、9月上旬の時点で多くの生産者がすでに収穫を始めており、困難な気象条件、病害のプレッシャー、高温、労働者不足など、他の地域での問題が組み合わさったような状況下にあります。
「干ばつが続いた後、雨が降ったことでブドウ木に水が与えられ、畑は再び活気を取り戻すことができました。ブドウ木にとっては良いことで、水分の蓄えが出来たので、ブドウはきれいに熟すことができたのです」
マルサネにあるDomaine Collotteを率いるIsabelle Collotteは、8月に地方ラジオのFrance Bleuにこう語りました。

 

全体として、2023ヴィンテージがどのようになるかは9月上旬の現時点では決まっておらず、ほとんどのドメーヌで9月中旬から収穫が本格的に開始される予定です。

アルザス

アルザスについては、これまでの数少ない報道を信じるとすれば、2023年の最悪な気候条件を概ね回避しているようです。クレマン・ダルザスの収穫は8月23日に始まり、9月頭のFrance Bleuの放送によると、リースリングとゲヴュルツトラミネールの一部の区画は9月第一週に収穫を迎えています。

 

アルザスの生産者組合の会長、Francis Backertは8月に地方テレビ局のBFMTVに「あまりにも時期尚早ではあるが、品質は良いものが期待できるだろう」と語りました。

 

今年もまた、気温の高さによって収穫時期が前倒しとなり、収穫期に労働力が不足していることが多くの報道で協調されています。その一因は、より厳しくなった労働法の適用とその責任問題にあります。

 

ある生産者はBFMTVの取材に対しこう話しています。
「私たちの顧客の中には収穫期間中ずっととは限りませんが、Facebookなどを通じて手を貸す準備は出来ている、と連絡をくれた人もいました。ですが、ボランティアや単なるお手伝いは、もはや不可能なのです」

ジュラ&サヴォワ

9月頭にサヴォワのさらに南で発生した雹を含んだ悪天候を免れたジュラでも似たような問題が起きています。ジュラでは9月第一週の時点で主にスパークリング用のシャルドネから収穫が始まりましたが、ここでも聞かれる生産者からの主な不満は労働力不足です。

 

2022年に比べて今年の収穫が遅いことは必ずしも悪い事ではありませんが、収穫労働者の不足は深刻です。

 

地元の労働力供給業者であるRomain Maryは、地方紙La Voix du Juraに「学生たちは収穫が終わる前に授業に戻ってしまっているでしょう。これにより収穫者の数は減り、収穫期の緊張が高まる可能性が高いです」と語ります。

 

とはいえ、この地域のブドウ品質は良好です。

 

「9月上旬の時点では、昨年よりも干ばつが少なく、かなりの量のブドウがあります。ブドウ粒も膨らんでおり、豊作になる見込みですが、多少の労働力が必要でしょう」とMaryは言います。

 

より南のサヴォワでは、9月上旬の時点で収穫はまだ数週間先の見込みです。7月下旬にこの地方を雹が襲ったという報告以降、ほとんど音沙汰がありません。

 

2023年については、今後の各地からの報告に期待しましょう。

 

 

引用元: And They’re Off: 2023 French Harvest Begins
この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
    文責はFiradisに帰属します。

 

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