2020年ローヌ:天国からのヴィンテージ
- 2022.06.27
- ワインニュース
- コート・デュ・ローヌ
ボルドーやブルゴーニュが予算オーバーになってしまった人々にとって、ローヌのグレート・ヴィンテージが最適な答えになるかもしれません。
2020年は我々が最初のロックダウンを経験した年でした。
北半球では、誰もが記憶しているほどに輝かしい春が訪れていました。イギリス人達は窓を開け放ち、公園を散歩し、ローヌでは皆が外に出てブドウ木の手入れをしていました。ブドウ畑がこれほどまでに手入れされたことはなかったでしょう。
今、ちょうどその年のワインがリリースされていますが、とても素敵なワインです。しなやかでフレッシュ、そしてシルキーなタンニンを持つこれらのワインは、比較的早く飲み頃を迎えそうですが、中にはしばらくの間寝かせた方が良いものもあります。全体的には若いうちに飲むか、6~8年ほど寝かせて楽しむのが良いでしょう。
この年のローヌを振り返ると、夏場まで好天が続き、干ばつが発生しました。2019年末の大雨で畑は程よく水浸しになっていたとはいえ、夏にはブドウ樹は水不足に苦しんでいました。Chapoutier によると、ヴェレゾンの時点でブドウ樹は過去18年間でも最悪の水分ストレスの兆候を見せていたそうです。しかし、暑い日が続きましたが、気温の急上昇はなく、夜は涼しかったので、成熟感とフレッシュさが両立したブドウに仕上がりました。酸度もほとんどのワイナリーで良好で、低いところは村単位というよりも生産者ごとだったので、恐らく収穫期の見極めによるものだと思われます。
収穫は早く始まり、多くのワイナリーでは休日を削って進められ、9月中旬には終了しました。Domaine Marc Sorrel の Guillaume Sorrel によれば、抽出では、ピジャージュはせず、ルモンタージュのみに留めたといいます。全房発酵を好む生産者にとっては適した年となり、茎まで良く熟していたので Sorrel でも100%全房発酵を行いました。彼らは2018年と2019年も同様に100%全房発酵しましたが、2021年のように雨が多く涼しい年には完全に除梗していると言います。
2020年は各アペラシオンの特徴がそれぞれ綺麗に分かれており、クローズ・エルミタージュでは平野部のよりリッチなワインと、丘陵部のより引き締まったワインの味わいの違いを楽しめます。コルナスは特に良く、クローズ・エルミタージュ、エルミタージュ、サン・ジョセフ、そして南部のシャトーヌフも同様に素晴らしいです。シラー、そしてヴィオニエの当たり年となり、どちらも傑出しています。コンドリューは洗練されており、ベタつきがないのにリッチな仕上がり、マルサンヌとルーサンヌも同様に骨格がありエレガントです。Domaine Raymond Usseglio のピュアなルーサンヌのシャトーヌフ・デュ・パプは、スイカズラとハーブのアロマが漂う素晴らしいワインです。
北か南、どちらが優れているか、という避けられない質問に対する答えは、2020ヴィンテージは「どちらも良い、もしくはどちらも同じくらい良い」という回答になるでしょう。しかし、生産者のスタイルが強く表れているので、生産者選びには注意が必要な年です。Yves Cuilleron の自然体なフィネスが好きであればそちらを、それとも René Rostaing の骨格のあるエレガンスが好みならそちらを選ぶとよいでしょう。どちらも優れたワインです。
全てを味わったわけではないのでお気に入りを挙げるべきではないかもしれませんが、もし私がいくつか挙げるとすれば、この2つのほかには、北部からは André Perret, Domaine Jolivet, Clusel Roch, かなりの品質向上を見せた Paul Jaboulet Aîné, Chapoutier, Marc Sorrel, Domaine Pierre Gaillard, Domaine Vincent Paris。南部からはDomaine du Cayron, Château de Beaucastel, Domaine des Sénéchaux, Domaine du Vieux Télégraphe, Domaine de la Janasse, Domaine Le Clos des Cazaux, Domaine de l’Oratoire Saint Martin, Domaine Feraud et Fils, Domaine la Barroche, Le Bois Pointu…などなど、挙げればキリがないほどの長いリストになります。
バーゲンハンターのための産地
そして、特筆すべきは、ローヌはまだブルゴーニュやボルドーほどの流行りにはなっておらず、需要もこれらのワインほどは高まっていない点です。流通市場では、ローヌのほんの一握りの生産者が有名になっているだけで、それ以外はまだまだだと言えるでしょう。ロンドンにあるワイン商、Justerini & Brooks の Giles Burke-Gaffney は、消費者へのローヌワインの販売価格は、過去5年間のインフレ幅には追い付いていない点を指摘します。価格の乱高下もなく、投資的な動きもありません。
それがいつまで続くかは誰にもわかりません。10年前のブルゴーニュは、今のローヌワインと同じようなポジションにありました。ボルドーに比べればお買い得で、年々価格がそこまで上がっているわけでもないのに品質は向上していました。それが……突然の価格上昇、そして連動するように需要も高まったのです。2020年のブルゴーニュの価格は、時には驚くほどの値付けがされていますが、何の徒労もなく売れています。
ローヌの生産者に価格について尋ねると、私が聞く限り全員が「ワインを飲んでもらいたいから、価格を上げるつもりはないよ」といいます。確かに生産者はそう言うだろうけど……と思われた方もいるでしょうか?たしかに、ブルゴーニュの価格が今後さらに上昇し人々がついていけなくなると、今度はローヌに流れます。そしてローヌも価格が上昇していくでしょう。
今、ローヌのワインを買っているのは誰でしょうか?
「ローヌのコアな顧客です」と Burke-Gaffney は答えます。「あとは、ローヌの価値に気付き始めたボルドーやブルゴーニュの顧客が少しといったところでしょうか」
Berry Bros の Catriona Felstead も彼と同意見です。「人々はボルドーとブルゴーニュに目を向け、それからローヌに目を向けるのです」 事実、ブルゴーニュのバイヤーは南へ向かう事が多くなってきています。「ブルゴーニュのピノ・ノワール、そして北ローヌのシラーにはある種の共通点があります。どちらも香り高く、オープンなアロマ、ミネラル、テロワールのエッセンスを感じさせるのです」
北ローヌのワインの場合、ブルゴーニュワインの愛飲家は特に心地よさを感じるかもしれません。なぜならローヌにはリュー・ディーがそれほど多くなく、よりシンプルだからです。それが、北ローヌがまだ超が付くほどには流行っていない理由の1つだと Felstead は考えています。「人はそれぞれ自分自身が興味を持てる範囲が決まっているので、まだローヌに目もくれない人に興味を持たせて広げていくのは難しいことです」
南ローヌになると、ワインの量は多くなりますが、ボルドーやブルゴーニュの愛飲家にとってはすぐに親しみを感じるような味わいではなくなるかもしれません。グルナッシュ主体で造られるため、ワインはより果実味が強く、アルコール度数も高く、ラベンダーとタフィーのフレーバーはより強まり、シャープさは弱まるからです。「南ローヌのワインは、すでに自身がローヌ好きだと知っている人にとって、より親しみやすいワインだと言えるでしょう」と Felstead は話します。
気候変動は今のところローヌ地方の味方だと言えるでしょうか?
実のところ、あまりそうとは言えません。この地域はこれ以上の暑さを必要としないからです。気候変動はすでにこの地の収量を減らしています。南部では、様々なブドウ品種が認められている、というアドバンテージがあるので、必要に応じてそれを活用することができます。現在シャトーヌフでは早熟でアルコール度数の高いグルナッシュが栽培面積の70%を占めており、次に多く植えられているのがムールヴェードルで、こちらはより酸味が強いのが特徴です。ところが、生産者達は今、この地で認められた他の品種(有名なものが13種類)に目を向けています。まだあまり植えられていない品種の多くは、晩熟でアルコール度数の低いものです。例えば、シャトーヌフの Domaine de Marcoux は、新しい区画に晩熟のクノワーズを植えています。
暑い年に補酸を行うのは南ローヌではすでに常態化しつつありますが、生産者達は気候変動に対する武器をしっかりと持っていると言えるでしょう。そして、まだ時期尚早ですが2021年との比較を知りたい人がいるならば、2021年は、よりオールドなスタイルで、熟度はそこまで高くなく、フレッシュで大柄ではありません。
まとめると、2020年のローヌは迷わず購入すべきヴィンテージです。そして、リリースから8年後、10年後にこれらのワインを飲んだあなたは思わずこう言うでしょう。「ああ。そういえばこの時ロックダウンなんて事を経験したけど覚えている?」
引用元: https://www.wine-searcher.com/m/2022/03/2020-rhone-the-vintage-from-heaven
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