接ぎ木していないブドウ木について率直に語る

接ぎ木していないブドウ木について率直に語る

接ぎ木をしていないブドウの木を普及させようという動きが強まっていますが、一体どういう事なのでしょうか?


フィロキセラは、19世紀にヨーロッパのブドウ園で発見されて以来、世界中のブドウ園に悪影響を与え、おそらく他のどの害虫や病気よりも大きな被害をもたらしたと思われます。

 

(Phylloxera vastatrix, Phylloxera vitifoliae, Dactylasphaera vitifoliae)は、根を食害する小型の昆虫です。接ぎ木という形で、ヴィティス・ヴィニフェラのブドウ木を別の台木(最も一般的なのはアメリカのヴィティス系統)に接続するという解決策が世界中で採用されていますが、この技術を避けているブドウ園もわずかにあり、通常は接ぎ木なしで、franc de pied、 pie franco、pe franco(、ピエ・フランコ、ペ・フランコ)と呼ばれています。

 

自根のブドウ畑は世界中の様々な場所にあり、その存続と繁栄には、土壌成分、土壌の起源、水の利用可能性、位置関係など様々な要因が絡んでいます。
シャンパーニュ、ブルゴーニュ、ボルドー、モーゼル、カンパーニャ、サントリーニ、カナリア諸島などの有名ワイン産地を含む接ぎ木なしのブドウ畑は、実に多様な場所に広がっています。さて、いくつかの疑問が湧き上がります。

 

接ぎ木されていないブドウ畑には何か共通の特徴があるのか、また、現代のブドウ栽培とワイン生産における役割は何なのでしょうか?これらのブドウ畑は危機に瀕しており、国際的な文化財として保護されるべきでしょうか?ウイルス感染や気候変動による死滅被害など、ブドウ栽培における現在の問題に対する解決策を模索しながら、その独特な特徴から利益を得ることは可能でしょうか?我々は、大規模に普及した台木の使用状況から脱却できるのか、また、フィロキセラのリスクはまだ高いのでしょうか?そして最後に、接ぎ木をしていないブドウ木のワインは本当に美味しいのでしょうか?

 

Wine-Searcherは先日、モナコの海洋博物館で開催されたLes Francs de Pied(レ・フラン・ド・ピエ)主催のディナーに出席し、その答えを探りました。

 

Les Francs de Piedとは?

Les Francs de Piedは生産者団体で、接ぎ木をしていない原産地固有品種のブドウ畑を所有しワインを生産している、ブドウ栽培者とワイン生産者を結びつける役割をもっています。主な目的は、生産者の結束、接ぎ木をしていない畑の保護、数世紀にわたるノウハウや遺産の継承、そして古代品種の再植を促進することです。

 

ボルドーのLiber PaterのLoïc Pasquetが会長を務め、シャンパーニュのNicolas Maillart、ブルゴーニュのThibault Liger-BelairとPhilippe Charlopin、ナウサのKostis Dalamaras、サントリーニのParis Sigalas、モーゼルのEgon MüllerとKatharina Prüm、カンパーニアのFeudi di San Gregorio のAntonio Capaldoら著名な生産者が名を連ね、その活動は広がっています。また、ブドウ品種の原産地と親品種に関する世界的権威であるJosé Vouillamozをはじめとする科学的な支援も受けており、モナコ公Albert 2世より政治的な支援も受けています。彼は、壮大で印象的なモナコ海洋博物館で開催された晩餐会にも出席しました。
ディナーに先立ち、午後には生産者の総会が開かれ、組織の次のステップ、新ラベルの進捗状況、ユネスコの認定に向けた任務について話し合われました。

 

ブドウ畑で起きる事

接ぎ木されていないブドウの木について語る時、当然のことながら、すべては土壌から始まります。フィロキセラは粘土質が含まれる土壌を好みますが、砂の多い土壌、風化した土壌、火山性の土壌は、この厄介な虫に不利に働きます。シャンパーニュ地方のエキュイユで、Nicolas Maillartは、1973年に植えられた0.5haのfranc de piedの畑の手入れをしていますが、ここは白い石灰質の土壌で有名なこの地方では珍しく、砂質土壌です。この区画は、彼の父と祖父が植えたマサル・セレクションのピノ・ノワールで、家族の遺産となっています。

 

Maillartは、15mの砂質表土が害虫から守ってくれると信じています。しかし、フィロキセラは常に心配の種であり、新しいブドウ畑を作るときには決して油断はできない、と彼は言います。
「たとえ土壌が砂地であっても、生産量の100%をfranc de piedに転換することはないでしょう。害虫襲来の影響は10年から15年で現れ被害が出てきます」

 

しかし、それでも彼は、接ぎ木をしていないブドウの木の実験を続けることを止めません。同じ地域にある接ぎ木されたクローン選抜の区画と比較すると、成熟中の糖分の蓄積が遅く、伝統的な高品質スパークリングのスタイルを追求する上で重要なファクターであることがわかります。

 

一方、ブルゴーニュのPhilippe Charlopinは、マルサネにある0.21haの接ぎ木していない区画でフィロキセラと闘っています。フィロキセラ以前の本物の味を持つワインを造る事に魅了され、彼は2001年に一部砂質の混ざる粘土石灰土壌に自根のピノ・ノワールを植えました。砂地のブドウの木はよく育ちますが、害虫のために毎年10%ほどが枯れてしまい、それを段階的に植え替えていることを認めています。

 

Charlopinによると、生育サイクルと味の違いは顕著です。
「接ぎ木されたピノ・ノワールは、台木に支えられて、より力強く、より大きなブドウができます。接ぎ木していないピノ・ノワールでは、ブドウは小さく、品質も良く、味も良いです。全体的にpHは高く、酸は低く、リンゴ酸は驚くほど低く、暑い年のヴィンテージでも非常に安定したアルコール度数を保っています」

 

彼は、2021年のような特に雨の多いコンディションで、豊富な水量が害虫を溺れさせたことが、ブドウの木に恩恵を与えたと示唆しています。さらに、ブドウ畑のフィロキセラを完全に根絶するための解決策を模索し、ブドウの苗木業者のロビー活動を止めさせ、添加物もフィルターも使わない、土壌から直接生まれる「本物の」ワインを取り戻すための運動を起こすべき時だと、意欲的に付け加えています。

 

接ぎ木されていないブドウ畑のもう一つの重要な点は、比較的小規模であることが多く、非常に古いブドウ木であることが多いため、慎重な取り扱いが必要で、比較的少ない収量しか得られないということです。ギリシャのナウサにあるKostis Dalamarasは、1920年代に植えられた接ぎ木なしのブドウ畑から、ヴィエイユ・ヴィーニュ・クシノマヴロという素晴らしいワインを作っています(ナウサには1928年にフィロキセラが到来しました)。
接ぎ木されていないブドウの木は、彼のブドウ畑の面積の10%未満ですが、その量は生産量の1%未満にすぎません。クシノマヴロは栽培が簡単な品種ではありません。比較的高い潜在アルコールで望ましいフェノール類の成熟に達することが多く、ワインは通常、非常に骨格のしっかりした高いタンニンをもち、慎重な取り扱いを必要とします。驚くべき事に、Kostisは接ぎ木していないブドウ木は、より低い糖度で望ましいフェノールレベルを達成し、潜在アルコールが13〜13.5%、時にはそれ以下であることを確認しています。また、接ぎ木のプレミアム・キュヴェと比較して、色の抽出とタンニンの管理が容易なため、よりエレガントで素晴らしい凝縮感のあるワインを造ることができるとも述べています。

 

さらに、土壌微生物、使用した台木や元のヴィティス・ヴィニフェラ根との関係をさらに研究することで、接ぎ木と接ぎ木でないブドウ木の機能を説明できる可能性があります。Marc-André Selosse教授が示唆するように、土壌の上のブドウ木で何が起こっているのか、また接ぎ木と接ぎ木でないワインのテイスティングの特徴の違いの一貫性について、より多くの答えが得られる可能性があるのです。

 

franc de piedの生産者は、自根のブドウ畑がたくさんの魅力的な特徴をもっているので、接ぎ木をしていないブドウ木とそれが生み出すワインの科学的な理解を深めたいと願っているようです。彼らは、世界的に適切な台木を使用しない栽培の限界を認識していますが、可能性について心を開くよう他の人々を鼓舞しようとしています。同じテロワールに新しく植えた自根と接ぎ木のブドウ木を比較しながら、科学的な観察と分析を行う実験をさらに進めることが、協会によって奨励・計画されています。しかし、これからの研究には、強力な資金と相当数の科学者の参加が必要であり、実現には長い時間がかかるでしょう。

 

新たな認証が視野に

Les Francs de Pied協会は現在、次のステップを設定する段階にあり、モナコでの総会ではその一部が話し合われました。重要な要素は、接ぎ木されていないブドウ畑の真正性の証明と検査で、近い将来、生産者の費用負担で、植物と根の組織のサンプルを採取し、DNA検査に回す事になる予定です。

 

また、生産者たちは、協会に参加していることを証明するために、ボトルに貼るFranc de piedのステッカーを作成することの重要性についても議論しました。認知を高め、それぞれ異なる原産地の生産者をまとめるために望ましい事であるとの意見に大多数が同意していますが、公約に対する留保も挙げられています。特に、ドイツのように接ぎ木をしない栽培が法律で禁止されている国では、接ぎ木なしの状態を長期的に維持することができるかどうかという点です。

 

Liber PaterのLoïc Pasquetに、用語としてはフランス語と英語のどちらが良いかという挑発的な質問をしたところ、ワイン言語はフランス語であることを親切に教えてくれました。「“ungrafted”という言葉を使えば、最初の認知度は上がりますが、長期的に見れば、“Francs de Pied”の方が適しています。Ungrafted=接木をしないというのは、現実を単純化したものです。一方、Francs de Piedは、豊かな文化遺産であり自然の産物としてのワインの本質を包含しています。また、大衆に認知されるというよりも、生産者のポートフォリオの中で “高域”を認知させるという目的も果たしています」。

 

ユネスコ登録の重要性

この先、もう一つの大きな節目が予定されています。それは、国連教育科学文化機関であるユネスコの登録組織となることです。ユネスコは、第二次世界大戦後、国際協力と文化遺産の保護による平和構築を目的に設立されました。当初は歴史的建造物を対象としていましたが、自然遺産にも着目し、ワインの世界ではシャンパーニュ地方の丘陵地、メゾン、カーヴ、ブルゴーニュ地方のクリマやテロワールなど11の事例があります。その後、無形文化遺産(フランスの食文化、アルピニズム、イタリアの鷹狩りやトリュフ狩りなどのコンセプトも含む)が開発され、Les Francs de Piedにとって最もふさわしい選択肢ができたのです。

 

このプロセスでは、まず国家レベルで生産者をリストアップし、その提案を技術委員会が評価し、その後、再度評価を行って資格を承認するというもので、これも今後の課題となっています。提案書は2年ごとに提出することができますが、複数の国で提案する場合はこの条件がなくなります。しかし、これは困難で時間のかかるプロジェクトかもしれません。

 

Franc de piedの生産者は、この取り組みとユネスコ認定の重要性を認識しているようです。彼らは、ユネスコの認定が自分たちの活動を発展させ、この問題にスポットライトを当てる手助けになると考えています。また、今日の世界において、歴史的規範の維持と多様性の保全の重要性が強調されました。さらに、サントリーニ島のように、接ぎ木されていないブドウ木が常に脅威にさらされている地域だけでなく、現在、自根のブドウ栽培の法的制約に直面している国でも、Franc de piedのケースとしてサポートする事ができるかもしれないのです。当局は、このような非常に独特な場所を保護しようと努力していますが、Paris Sigalasは、この動きはあまりにも遅く、観光産業は始終、歴史的で独特なブドウ畑の区画と衝突していると指摘します。Les Francs de Piedの関与とユネスコの認定は、この生きたブドウ畑博物館の存続にとって非常に重要です。Sigalasは「人類は決して自分たちのルーツを失いたくないのだ」と述べています。

 

証明はグラスの中に

こうして考えてみると、接ぎ木をしていないワインの方が本当においしいのだろうかと疑問に思うかもしれません。また、よく訓練されたテイスターなら、ブラインドで試飲したときに、その違いを見分けることができるでしょうか。

 

接ぎ木されていないワインと接ぎ木されたワインを飲み比べてみると、私のディナーテーブルにいたゲストの間では、接ぎ木されていないワインの方が好まれていると気づきました。また、私にはこんな疑問もありました。我々は過去数十年にわたるマサル・セレクションにより選抜された血統の単一畑の古木のワインと、より一般的な地域のより高い収量と若いブドウ木を比較しているのかもしれないという事です。このような素晴らしいイベントに参加すると、先入観を持ってしまうのかもしれませんが、私はfranc de pied のワインが非常に複雑で、アロマが完璧に調和して、それぞれの部分が合わさると全体にもっと優れた成果を出す事に気づかされました。

 

接ぎ木されていない赤ワインは、タンニンのフィネスが素晴らしく、比較的若いうちに飲まれたとしても、驚くほど素晴らしい出来栄えでした。一方、接ぎ木の赤ワインは、より果実味を強調した表現で、タンニンが落ち着くまで時間がかかり、樽香がより際立っているように感じられました。傑出したリースリングのペアは、同じアルコール度数で注目されましたが、Alte Rebenのワインはさらに深みがありました。このラインナップの中で特に優れていたのは、同じ日の午後の早い時間にデキャンタージュされたLiber Pater 2018でした。驚くほど型破りでありながら、同時に親しみやすい味わいでした。まとめると、franc de piedのワインは全体的にフィネスとエレガンスがあり、多くのケースでミネラルの質が際立っていることが示されました。

 

引用元: Talking Frankly about Ungrafted Vines

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