土壌を守る日陰の役目

土壌を守る日陰の役目

巧みなキャノピー・マネジメントやその他の技術は、貴重な土壌を保護する上で極めて重要です。


ブドウ畑でブドウを遮光することは、特に地球温暖化と気候変動の観点から、目新しい現象ではありません。しかし、世界中のワイン生産者は現在、さらに一歩進んで、同時に土壌を保護することの重要性を強調しています。水分の維持から酸化の防止まで、ヨーロッパ中の5人のワインメーカーが、なぜ土壌の遮光が重要なのか、その実践的なノウハウを紹介します。

 

土壌の遮光:その理由

Domaine Gassier(南フランス)のワインメーカー、Michel Gassierは、地上の状況ばかりを考えがちな人間とは異なり、植物は地下でも同じように生きており、「地下の気候」も植物の生命力にとって同様に重要であると述べます。「土壌の微気候が涼しいと、酸度が保たれ、ブドウの木のストレスが軽減され、土壌の活性と自然の肥沃度が保たれます」と彼は言い、遮光はこの目的を達成する素晴らしい方法だと断言します。

 

アブルッツォに本拠を置くEmidio Pepeの3代目ワインメーカー、Chiara De Iulis Pepeは、土壌から人体に至るまで、乾燥しているものはエネルギーや生命の循環を維持することができず、全ての微生物は光と湿気に大きく依存していると説明します。「全てに関して、相互作用と栄養素の交換のために湿り気のある媒体が必要なのです」と彼女は説明します。Pepeは、土壌を遮光することは同時に土壌の温度を低く保ち、水分の蒸発を減少させるのに役立つと述べています。

 

日除けの方法

ブドウの木を日陰にする方法について、Pepeはまず、植物の葉から自然な日陰を提供する伝統的なペルゴラ仕立てに注目します。Famiglia De Cerchio Wine GroupのオーナーであるFederico De Cerchioも同様の剪定を行っています。モンテプルチアーノのブドウは光と熱にとても敏感で、垣根仕立てよりも、土壌とブドウに日陰を保証する “アブルッツォ・ペルゴラ”の方が良いのです」と彼は説明します。

 

しかし、Pepeはペルゴラの上にさらに日陰を作ろうとしています。ペルゴラは葉がない時には日陰を作れないので、土壌を覆う面積を広げるためです。Gassier は、カバークロップを密植することを、土を覆う優れた手段として挙げています。また、木陰になるようにブドウ木を生垣で囲むことで、ブドウの木の周囲に涼しい微気候を作り出すこともできます。「冬の終わりに密植されたカバークロップは、土壌温度と蒸発を制限するマルチ(根覆い)となります」と彼は言い、この技術は密植度や仕立て形態に関係なくブドウ畑に使用できると説明します。

 

Ornellaiaで生産責任者を務めるMarco Balsimelliは、常に日陰を保つために、ドメーヌの土壌は常に草で覆われていると話します。「その年の気候に適応させます。雨が多ければ、草を多めに残します。乾燥した年であれば、ブドウ木と草の競合をなくすために土壌を耕します」。Domaine Bott (コート・ロティ)のオーナーでワインメーカーのGraeme Bottは、土壌を耕す、むしろ、耕さないという考え方について詳しく語ります。「日陰の土壌に関しては、耕さないという大きな動きがあり、土壌構造を尊重するという点では非常に好ましいことです」と彼は言います。それぞれの区画の土壌の深さや水量は独特であり、最終的にはそれぞれの土地に応じてどのような作業を行うかを決めることになる、とBottは強調します。Bottは妻のJulieと共に、ブドウ木のトリミングをやめ、日陰を作るだけでなく、ブドウ木をアーチ型に整えたそうです。より自然な樹液の動きを尊重し、生育期間中にブドウ木を傷つけないようにするのです。

 

日陰の土壌とそうでない土壌の違い

Pepeは、日陰の土壌は湿度が高く、色が濃いことが多いと指摘します。「草も日陰の土の方が長期間生えているので、緑が濃くなる傾向があります」と彼女は言います。Gassier は、一般的に日陰土壌の方がミミズや菌類、バクテリアが多くいると言います。「このバクテリアは有機物を消化し、それを土の成分と結合させることで、土の構造を良くし(圧縮されにくくなり)、水の浸透を良くし、保水力を高め、全体的な肥沃度を良好にします」と彼は断言します。

 

De Cerchioは、垣根仕立てとペルゴラの両方の仕立てを起用しているTorre Zambraでの実例を紹介します。垣根仕立てでは、1haあたりの収量は25%ほど低くなるが、品質は落ちる」と言い、これらのブドウはロゼの生産に使うと述べます。「おかしな話です。通常は、量が少ない=品質が高いと考えるでしょうが、ここではそうではないのです」。このため、De Cerchioは畑の大部分を根こそぎ撤去し、アブルッツォのペルゴラに仕立て直しました。「この仕立ての下で、ブドウは光と熱から守られた環境で育ち、ブドウ木は[異なる]”微気候”の中で生育する」と彼は言い、最終的に、より高品質の果実が収穫できたのです。

 

酸化した土壌と水分の維持

Pepeは、有機物は乾燥したり酸化したりする可能性があり、土壌に含まれる有機物も例外ではないと指摘します。「私が考えるに、土壌は、ワインやケアが必要な生物によく似ています。セラーでワインのタンクが開いているのを見たら気になるのに、なぜ田舎で耕された土壌を見ても心配にならないのでしょうか」。と思いを巡らせます。Gassier は、耕された土壌はより暖かく、より乾燥し、より通気性が良いため、酸化反応が促進されると述べます。「しかし、土壌の肥沃度に最も大きな影響を与えるのは、土壌生物(菌類、バクテリア、ミミズ、昆虫)への悪影響なのです」と彼は言い、Gassierで採用している再生農業は、こうした悪影響を抑えるために不耕起栽培やカバークロップを推進するものであり、健康で生きた肥沃な土壌を促進するものであると述べます。

 

Balsimelli は、カバークロップが乾燥する可能性があるが、その代わりに植物がマルチ(根覆い)のようなものを作り、直射日光から土壌を保護すると述べています。「土壌の微生物は、太陽の影響を直接受けることが分かっているため、土壌を十分に日陰にすることは非常に重要です」と彼は言い、土壌に生命が存在しない場合、有機物の無機化速度が変化し、酸化が急速に進む可能性があることを確認しました。「過度の土壌耕作は、土壌に含まれる有機物の酸化を引き起こす可能性がある。理想的には、土壌が適切に機能するためには、常に日陰で湿った状態を保つことです」と彼は断言します。

 

最終的な製品として

土壌の遮光は最終的にワインにどのような影響を与えるのでしょうか?Gassierは、カバークロップで遮光された土壌では、ブドウ木が生育期全体を通して必要なものを自然に見つけることができると考えています。「水と養分の供給はゆっくりと継続的に行われ、外部からのインプットは制限的になるか、必要がなくなる。その結果、よりバランスの取れたワイン、よりフレッシュでエネルギーに溢れたワイン、そしてより豊かなテロワールの表現になる」と彼は言います。Pepeは、加熱されていない土壌は、ブドウの成熟期間を長くし、その結果、最終的なワインにより複雑なフェノールを与え、酸を保持するという直感について語りました。

 

Bottは、太陽の光を浴びる量がより少ない白ブドウは、フレッシュなアロマとミネラルを持ったワインになり、彼らが求めているものはまさにそれだと言います。Balsimelliはこう言い切ります。「よく機能する土壌は、健康でバランスのとれた植物に生命を与え、それがより高品質のブドウ、そして素晴らしいワインを生み出すのです」。

 

 

引用元: The Shady Business of Shielding Soils

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