カリフォルニアのワイン用ブドウは鳥の餌に
今年の収穫、質は素晴らしいが、量は過去40年で最小となる可能性もあります。
ワインのヴィンテージに関する疑問は単純で、品質はどうなのか?という点です。
2025年のカリフォルニア、9月第3週時点でのワイン用ブドウの生育状況は良好です。ここはカリフォルニアなので、つまり品質はほぼ常に優れていると言えます。そして、主な疑問はもう品質についてではなくなりました。
代わりに、2つの問題が浮上しています。販売する市場がないために収穫されないブドウはどれほどあるのか?そして、移民関税執行局(ICE)が全国で注目を集める強制送還作戦を展開する中、ブドウを収穫する農業労働者は確保できるのか?という疑問です。
後者については朗報があります。薮蛇は避けたいので、誰もこの件については触れたくないようですが、ICEは収穫作業に干渉していないようです。
実際、多くのブドウ畑が手入れされず放棄されているため、今年の夏には常勤スタッフを抱えるブドウ畑管理会社が、追加の仕事を求めてあちこちに電話をかけていた時期さえあったのです。
これは、カリフォルニア州が50年以上で最小規模の収穫期を迎えているためです。
昨年、カリフォルニア州のブドウ収穫量はわずか296万tで、1996年以来の低水準でした。推計で、州内のブドウの30%が未収穫のまま残されたのです。
カリフォルニア州農業食品局が2026年初頭に年次『California Grape Crush Report 』を発表するまで、2025年の収穫量は確定しません。しかしブドウ栽培者連合会長のJeff Bitterは、業界の一部では今年の収穫量が200万tに達するかどうかさえ疑問視されていると述べました。カリフォルニア州の収穫量が250万tを下回ったのは1987年以来のことです。そして、200万tを下回ったのは1972年以来です。しかも現在のカリフォルニア州のブドウの栽培面積は1987年当時より80%も拡大しているのです。
天候が原因ではありません。夏は比較的涼しく、おおよそ乾燥していました。海岸部の霧の濃い地域でカビ病の問題が報告され、ナパ郡北東部では煙害の懸念もあります。しかしこれらは州内のごく一部における比較的軽微な懸念事項です。
エルドラド郡にあるStarfield Vineyardsの共同オーナーTom Sintonは、2024年の収穫量80t、2023年の166tに対し、今年はわずか36tの収穫を計画していると述べました。
カリフォルニアワイン産業を長年取材してきましたが、このような事態は前代未聞です。Starfieldのような自社畑のワイナリーは全てのブドウを収穫し販売契約を結んだり、もしくは後のワイン販売について心配していました。
収穫量を減らす
「2022年と2023年はブドウを収穫しすぎた。これは業界全体に言えることだ」とSinton は語りました。「在庫が大量にある。今年は生産計画を立て、列に印をつけた。収穫しないブドウは早期に果実を落とした。その一環として、ブドウ畑の栽培コスト削減の意図もあった」
Sintonによれば、売れ残った在庫の大半は赤ワインであり、一定期間熟成が可能です。2025年はロゼワインの生産は行わないそうです。
「嵐を乗り切れると確信する経営計画を策定した」とSintonは言います。「この危機の深刻さを人々は理解していない。栽培コストは想像以上に高く、0.4haあたり$8000にも達する。今後の計画として、2026年はロゼと白ワイン数種類、赤ワイン1種類を生産する」
パンデミック後のワイン販売減が一過性のものと思われた時期、多くの生産者は収穫したブドウをバルクワインに加工しました。生ブドウと異なり、バルクワインは買い手が見つかるまで倉庫で保管できます。つまり、いつまでも放置される可能性があるのです。
「バルク市場は飽和状態だ」とレイク郡のHawk and Horse Vineyards で栽培・醸造を担当するMitch Hawkinsは語ります。「今は4ℓあたり$2になっている。それで生計は立てられないが、人々は単に保管スペースを空けるために売っているのだ」
ローカルフードガイド『Edible Monterey Bay』のLaura Ness が9月第二週に報じた記事はカリフォルニアのワイン業界に衝撃を与えました。Paraiso Vineyards のオーナーJason Smithは最近まで1200haのブドウ畑を管理していましたが、Nessに対し、今年は耕作面積が65haまで縮小し、来年は完全に撤退する計画だと明かしたのです。取材した栽培者全員がこの話をしていました。
「Paraiso Vineyards のブドウは良質だった」とSintonは言います。「今回の危機はカリフォルニアの多くのブドウ畑にとって存続をかけた危機になるだろう。先日ソノマ郡になにかビジネスのアイデアになるようなものを探しに行ったが、収穫されないままになっていたブドウがたくさんあった」。
消費者にとっては、ワインの品質面では良い知らせとなるかもしれません。2025年、栽培者がワイナリーに良質なブドウの引き取りを懇願している状況で、平凡なブドウからワインを造る理由はどこにもないからです。
「ここまでのところ、品質は並外れて高い」と、メンドシーノのワイナリーBarraの所有者Martha Barraは言います。
「特に涼しい季節で、初期に一度だけ長引く暑さがあったものの、ブドウ木が酷暑で生育停止する事態は発生しなかった。何トンのブドウが木に残っているかは推測が難しいが、大半の白ワイン用ブドウは収穫されると見ている。既にバルクワイン市場に出回っている量や契約済みブドウの不足分から考えると、ジンファンデルとカベルネ・ソーヴィニヨンが検討対象となるだろう。カベルネの収穫を行うか行わないかについては詳細なコスト分析を行なったが、最終判断は追い詰められた状況で下すことになる」
ナパ・バレーは州内の他の地域とは少し異なり、ナパ産ワインの市場が堅調なため、収穫されるブドウの割合がはるかに高くなるでしょう。また、カベルネは晩熟品種の一つであり、天候や火災の危機がまだ起こり得るため、ナパの品質を判断するには時期尚早です。
「品質は極めて良好な傾向を示しているが、収穫時期は平均より7~14日ほど遅れている」とCK Mondaviの醸造責任者Randy Herronは述べます。「古参のブドウ畑では収量が25~30%減少している。ソーヴィニヨン・ブランとピノ・グリは全量収穫済みで、鮮やかな酸味、華やかなアロマ、フェノール類の発達という素晴らしいバランスを示している。メルロも収穫済みで、濃い色調で凝縮した風味がある」。
Peter Vellenoは、観光客に人気のシンデレラ城風ワイナリーCastello di Amorosaの醸造責任者です。2025年、収穫量を確保する鍵は水や労働力の有無ではありません。顧客の有無なのです。
「自社畑のブドウは全て収穫する計画だ」とVellenoは語ります。「発酵が完了したものはまだないので、品質判断は時期尚早だが、あらゆる兆候が素晴らしい年になることを示している」。
引用元:California Wine Grapes Left for the Birds
この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
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