煙の脅威にさらされるボルドー

煙の脅威にさらされるボルドー

ボルドーで火災が続く中、グラーヴのブティック・ワイナリーであり、ボルドーで最も高価なワインを販売するLiber Pater(リベル・パテル)の創設者であるLoïc Pasquet (ロイック・パケ)に、現在起きている出来事について話を聞きました。

 

この夏、ボルドーでは7月12日の最初の火災の発生から12日間で14,000ha以上が焼失しました。それから1ヶ月、ボルドーではランド地方の森で猛威を振るう新たな火災に立ち向かっているところですが、この火災はさまざまなメディアで「怪物的」と表現されています。

 

この火災により、1万人以上の住民が避難を余儀なくされ、2日間で7000haが消失したといいます。いつ沈静化するかは誰にも分かりませんが、Wine-Searcherは、ボルドー原種を使ったワインを生産するLiber Paterの主宰者、Loïc Pasquetに、現在進行中の危機について語ってもらいました。

 

「最初の火災が発生した7月12日から状況は日に日に悪化しています。それは泥炭が燃えているからです。つまり、火は地面を突き抜けて地中を進み、目には見えない穴を地面にあけ、知らないうちに次々と地下を移動し、汚染しているのです」

 

1000~2000人もの消防士が連日炎と闘っていますが、ボルドー地方には猛煙が立ちこめているとPasquetは言います。

 

「8月頭の時点で、Médoc, Graves, Sauternesでは煙の臭いがします。そして3日もしない内にLibourneでも煙の臭いがするようになるでしょう」

 

ワインメーカーにとってこの臭いは致命的なもので、特にヴェレゾン後のブドウに一度でもスモークティント(焦げ臭)が付いてしまうと、ほとんど取り除くことは出来ません。Pasquetの説明はこうです。
「今年の収穫はほぼ絶望的になってきました。ブドウは煙の味を帯びてきており、30分間煙にさらされただけなのか、1日中煙にさらされただけなのかは科学の力でも正確なことは分からないんです」

 

現在、煙は高所に滞留していますが、週末の天気予報では雨が予想されており、雨は南西の風と共に降る傾向があります。この風は、煙をブドウ木に押し付け、果実に染み込ませる可能性を高めます。ブドウに悪影響が出るまでの時間については、まだ解明されていないため、収穫のリスクは非常に高いのです。

 

火災の発端については、近年の火薬箱のようなボルドーの環境と干ばつの悪化が主な原因ですが、放火も一因でしょう。ボルドーでは40度の日が続いており、「サハラ砂漠並みの暑さと湿度がある」とPasquetは例えます。彼は気候学者との最近の会話を引用しながら、このリアルタイムの気候変動に警鐘を鳴らします。「この状況は本当に心配です。地球温暖化が私達の目の前に迫っているんです。気候学者と話したら、今の状況は2042年や2045年に想像していたシナリオだ、と言われました」

 

Pasquetは以前からボルドーの脆弱性を認識していました。「ブドウ畑の準備をしながらも、私はいつかこの森が燃えるだろうと言い続けてきました。それはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)を見るとよくわかるのですが、具体的にいつ発生するかはわからなかったのです」

 

これは、新たな疑問を私達に思い浮かべさせます。
ボルドーは将来訪れる気候の違いに対してどのような準備をしてきたのでしょうか?
「全くしてこなかった」 とPasquetは言います。
「私達は何もしてきませんでした。なぜなら、このような状況が起こるのは2040年頃だと考えていたからです。アメリカやオーストラリアが苦労しているのは見てきましたが、私たちは準備もできていない、手段も講じていない、対策もとってこなかったのです。これは悲惨なことで、すべてが上手くいっているとは言えない中で物語はタイタニック号のように続いていくのです。この物語は、音楽を奏で続けるオーケストラ、しかし船は真っ二つに切断されてしまうというストーリーで、今のボルドーはまさにタイタニック号だと言えます」

 

ボルドーの気候変動を緩和する上で、リーダーシップの欠如は大きな問題の一つであるとPasquetは言います。「ボルドーの存続に関わる話なのに、CIVBやINAOが現場で何が起きているかを見に来ないのは驚きです」

 

壊れてしまった防火帯

森林地帯の管理、特にヨーロッパ最大のランドの森は、管理が不十分だったとPasquetは不満を募らせながら指摘します。
「防火壁が整備されていないんです。さらに道には深さ70cmの穴が開いている。消防士はすべての機材を壊さない限り、高速で車を走らせることができません」
これまでに、約30パーセントの機材が、取り返しのつかないところまで破損しています。
「この森は、ボルドーのブドウ畑と密接な関係があります」
そう語るPasquetですが、防火帯を確保するために、自ら森の一部を切り開かざるを得なかったと言います。
「私は、生物多様性に優れた牧草地を作ったことがあります。ですが、森とブドウ木の間を20〜30メートル離すために、すべてを破壊したのです」

 

干ばつや水不足が深刻化し、地中深くまで水が行き渡らなくなったことも問題になっています。Pasquetは最初の火災の時をこう回想します。
「干ばつや水不足により地下の水分が吸い上げられ、地下水面は5、6メートルも下がりました。火事が終わったのは7月24日頃でしたが、その1週間後にはすべてのオークが枯れていました。水位が下がった事で、地下水面にあった根が、水はけのよい砂利質土壌で突然水を失ってしまったからです」
木々は葉を失い、6月末にもかかわらず冬の休眠に入ったかのように見えましたが、現実はもっと悲惨でした。

 

8月第2週時点で生産者たちはまだ作業を続けており、Pessac-Léognanの白ワイン用ブドウを皮切りに、ほとんどの地域で8月17日頃には収穫が行われる予定ですが、Sauternesではすでに始まっているようです。しかし、Pasquetの場合、Liber Paterの収穫は10月から開始する予定です。

 

(このような決断をしたとはいえ)Pasquetは、ヴィンテージが失われた場合、ワインの規模や価格にかかわらず、どのシャトーにとっても大きな打撃となることを強く認識しています。そのコストは、ボルドーの多くの小規模なブドウ栽培者に特に重くのしかかるでしょう。

 

「ボルドーが煙のためにこのヴィンテージを失うとしたら、その経済的打撃はどれくらいになるか想像してみて下さい。2ユーロ、3ユーロ、4ユーロのワインを造っている人たちは、すべて消えてしまうでしょう」

 

 

引用元: https://www.wine-searcher.com/m/2022/08/smoke-threatens-to-choke-bordeaux

この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
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