スペインのスパークリングワイン革命
- 2026.03.15
- ワインニュース
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スペインで泡の反乱を起こすワイン醸造者たちは、真の革命を引き起こすのだろうか?
何世代にもわたり、スペインのスパークリングワインと言えばカヴァで、シノニムになっていたほどです。安価で洗練され高品質、高級品の気軽な代用品として売り出され、消費者はガロン単位でガブ飲みしていました。ガブ飲み傾向がなくなるまでは。
近年、この伝統的製法ワインへの熱狂は驚くほど静まりました。シャンパンの代替品として意識的に位置付けられてきたこのワイン(アパレルで言えば手が届く価格のブランドQuince と高級ブランド Bottega Veneta, Saint Laurentなどの構図)は、その地位を危うくしているのです。
スペイン産スパークリングワインの売上は2009年から2025年にかけて22%増加しました。一見好調に見えますが、イタリア産(276%増)やフランス産(74%増)と比較すると見劣りします。スペイン産ワインの価値は相対的に低い状態が続いています。2025年時点で、フランス産スパークリングワインの平均価格は1ℓあたり$22.57であったのに対し、イタリア産は$5.36、スペイン産はわずか$3.76でした。
もちろん留意すべきは、カヴァがより時間とコストを要する伝統的製法(シャンパンと同じ製法だがブドウ品種が異なる)で生産されるのに対し、プロセッコは瓶内二次発酵ではなく加圧タンクで二次発酵を行う点です。さらに掘り下げると、2025年9月時点でカヴァの輸出額は6.1%、輸出量は13%減少したのです。
しかしカヴァ産地には新たな挑戦者が現れています。より透明性が高く厳格な栽培・製造基準を導入した、より大胆なスパークリングワインです。正確には、新たに登場したのは2つの大胆なスパークリングワインです。DOカヴァの元メンバーたちが手掛けたもので、彼らは価格と販売量の下降傾向を憂慮し、方向性を失ったブランドとの差別化を図る唯一の手段として、品質を維持し、自ら新たなワインカテゴリーを立ち上げる以外に選択肢がないと考えたのです。
「これらの新たな呼称は主に生産者主導で生まれた。多くの消費者がミモザやカクテル・ブレンドといった‟安価で気軽に楽しめる“用途と結びつけるカヴァ・ブランドとは明確に差別化し、真剣に土地に根ざしたスペインのスパークリングワインとして位置付けたいという思いから生まれたのだ」と、ワシントンD.C.のDCANTER Wine Shop共同創設者Michelle Lim Warnerは語ります。「この動きを牽引する人々は品質に深くこだわり、有機栽培、土着品種、長期澱熟成、原料調達と生産工程の透明性向上に取り組んでいる。プロセッコとの比較は不公平かもしれない。プロセッコは大量生産戦略の副産物だから。カテゴリーを明確にする言葉と枠組みを提供しない限り、消費者がそのニュアンスを捉えることは難しい」。
かつて強大なカテゴリーだったものが崩壊しつつある現状に、理想主義と正義感に燃えるこれらの新参者たちは、専門家や一般消費者に対し、自分たちのワインの方が高価値だと説得できるのでしょうか?
反逆者、内部関係者、そして傍観者に話を聞きました。
旧勢力vs新勢力
まずはカヴァと、新たに参入したクラシック・ペネデス、コルピナットの違いを解き明かしましょう。いずれも瓶内二次発酵による伝統的製法で生産されます。
1986年に正式に原産地呼称(DO)となったカヴァの大部分はカタルーニャで生産され、その大半はペネデス産です。しかし技術的には、ラ・リオハやバレンシアなど、全く異なるテロワールを持つ他の地域でも栽培・生産が可能です。最高格付けのワインは有機栽培で生産され、チャレッロ、マカベオ、パレリャーダといったスペイン品種が使用される一方、シャルドネやピノ・ノワールなどの国際品種を含む複数の品種が認可され頻繁に用いられています。18ヶ月以上の熟成が義務付けられるのは上位格付け(グアルダ・スペリオール)のみです。
クラシック・ペネデスは2013年にDOペネデス内に設立されました。ブドウとワインはDOペネデス産に限定され、有機栽培が必須です。生産者はカヴァと同様に地元品種を用いますが、国際品種なども使用可能です。ワインは15ヶ月以上の熟成が義務付けられています。
コルピナットはDOではなく、EU公認の共同ブランドです。2019年にDOカヴァを離脱した生産者によって設立されました。ブドウはペネデスの39自治体内で有機農法により栽培され、全てのワインは生産者のワイナリーで醸造されることが規定されています。ブレンドの90%はチャレッロ、マカベオ、パレリャーダ、マルヴァジアといった伝統的な土着品種で構成され、ワインは澱の上で最低18ヶ月間熟成されます。
反逆の叫び
「クラシック・ペネデスとコルピナットは、DOカヴァ内で起きた事態を正すために生まれた」と語るのは、コルピナット創設メンバーの一人であるHuguet 家Can Feixesの Jacob Pryce i Huguetです。「DOの伝統的概念は、特定のテロワール、気候、地域に結びついている。カヴァの領域が広すぎると我々は考える。ペネデスでも生産されるが、ペネデスのテロワールとほとんど共通点のない他の地域でも生産されるのだ」。
Huguetは、両方の動きは、広範で定義の曖昧なアイデンティティから、より厳格な枠組みを定めた世界への移行を意図していたと言います。
「我々は非常に真剣な取り組みが必要だと考え、DOとの決別を通じて、スペイン産スパークリングワインの名誉を回復すべきだと確信していた」とHuguet は語ります。「シャンパーニュの生産者が行うのと同じ方法で醸造されるカヴァの醸造にかかる時間と費用を見るといい。店頭に並ぶ1本あたりの価格と比較すると、純粋に経済的な観点だけから言えば、カヴァが歩んでいる道は持続可能ではないことがはっきりとわかる」。
フィラデルフィアの Jet Wine BarのオーナーJill Weberは、考古学者としての知見があり、そういった視点から新しい分類を見ているので、これらの反逆者たちの主張は正当だと考えています。
「考古学における類型論では、『一括分類』と『細分分類』を区別する」とWeberは言います。「ワインも物質文化と同様、この 2 つはそれぞれ異なる層の人々に向けられる。以前は、『一括分類』は一般の人々に、『細分分類』は専門家に適していると考えられていた。しかし、カヴァの事例によって、その考えは変わった」。
Weberは、歴史あるスパークリングワインの生産者であり、コルピナットの共同創設者の一人であるBodegas Gramonaが、「分割」が成功した完璧な例だと指摘します。
「専門家は、その土地の耕作方法と生産方法を見れば、他の生産者よりも高価であることがわかる」とWeberは言います。「しかし、一般の消費者にとっては、『コルピナット』という言葉で、視覚的に簡単に認知されることが必要だ」。
Lim Warner は、クラシック・ペネデスとコルピナットの生産者が、土着品種を有機栽培し、「ワインを澱の上で長期熟成させ、原料調達と生産工程の透明性を高める」という取り組みにより、これらのカテゴリーがカヴァよりも販売しやすくなっていると言います。
「ワインショップDCANTERでは、小規模生産者による有機栽培、ビオディナミ、サステイナブルなワインに焦点を当て、新しい発見を重視しています。ユニークな品種、未開拓の産地、ストーリーのあるワインです」とLim Warnerは説明します。「コルピナットとクラシック・ペネデスの生産者はこれらの価値観と完全に合致するので、好奇心や知識欲旺盛なお客様にこれらのワインを紹介するのはとても自然なことだ」。
Huguetは、カヴァの細分化が最終的にはカヴァ自体にとって有益だと確信しています。
「公的には、私たちが指摘した問題点の是正に向けた動きが見られる」とHuguetは語ります。「彼らはブランド刷新と構造変革を行い、特定のグレードにおける品質向上に注力している。例えばパラヘは、非常に厳格な生産規則のもと単一畑で造られたワインを認定する制度だ」。
内部からの変革
一方で、ほぼ同一地域から全く新しい2つのスパークリングワインカテゴリーが誕生することで、消費者に混乱が生じるのではないかと懸念する声もあります。
Barcelona Wine Weekの会長Javier Pagésは、カヴァのうちグアルダ・スペリオール(より長い熟成期間と有機栽培を要求する上位格付け)に分類されるのは約10%ほどだと認めています。彼は3つのカテゴリーが独自の理念を持ち、発信していると思っていますが、特にスペイン国外における消費者の認識が依然として低いことに懸念を示しています。
「同じ地域でみんな伝統的製法によるワインを生産しているので、3つのカテゴリーは消費者を混乱させる可能性がある」とPagésは指摘します。「互いを差別化するのではなく、協力する方が有益ではないだろうか」。
Tom Colicchioの旗艦店Craftの飲料ディレクターCheron Cowanもこの新しい分類の浸透に疑問を呈しています。
「プロである私でさえ、この新しい分類は少々複雑に感じる」とCowanは言います。「15ヶ月熟成のクラシック・ペネデスと18ヶ月熟成のコルピナットの違いは何か?私の店のリストにはカヴァとコルピナットの両方があるが、コルピナットについて尋ねてくる客は一人もいない。オーストリアのスパークリング・ゼクトについては質問されるのに、コルピナットを知っている人はいないようだ」。
しかし、Cowanが指摘するように、ワインの世界はゆっくりと動いていきます。新たなカテゴリーを消費者に浸透させるには、往々にして10年以上を要するのです。
「クラシク・ペネデスとコルピナットは、統一よりも分断を生んでいるのでは」と彼女は言います。「特にコルピナットは、他のカテゴリーに比べて非常に高価だ。小売価格が$28から$48となると、ほとんどの消費者は購入前に商品の情報を求めるだろう。現時点ではどちらも店員が直接勧める必要がある。個人的に店頭では、スペインワインへの関心が大きく高まっているのを実感しているが、それはまだカタルーニャには及んでいない」。
Pere Ventura Family Wine EstatesのオーナーPere Venturaは、収穫量の減少や価格上昇など複数の課題が「困難な状況」を生み出し、アペレーション全体と生産者に長期戦略の見直しを迫っていると指摘します。
しかしVenturaは、DOを離脱するよりも、内部で変革を起こす方が長期的に効果的な戦略だと確信しています。グアルダ・スペリオールの創設や、パラヘ・カリフィカードの確立といった取り組みを例に挙げ、コルピナットやクラシック・ペネデスが目指した目標の多くを、内部から達成していることを示しました。(Pere Venturaは現在までにパラヘの呼称を取得した7ワイナリーの1つ)。
「業界の同僚たちが行ったあらゆる取り組みや戦略的決断を尊重しつつも、Pere Venturaは1991年の創業以来、自社ワインをカヴァ原産地呼称のハイエンドに位置づける道を選択してきた。DOカヴァの価格主導型のアプローチを避けてきたのだ」と彼は語ります。「私の曽祖父は1891年という早い時期からカヴァ生産に携わり、コドーニュで醸造責任者を務めていた。家族とそのルーツを尊重するため、Pere Ventura はDOカヴァに留まり、この呼称の価値を積極的に擁護している。Pere Ventura ブランドの強化こそが、我々が消費者に提供できる最も確かなものであり資産なのだ」。
次なる展開は?
より一層の手売り販売です。
「正直なところ、カヴァのようなマーケティング予算はない。そのため、理想とは異なり、認知度向上は手売りに頼らざるを得ない状況だ」とHuguet は言います。「しかし、一度私たちのコルピナットを試飲し、房ごと手摘みする手間や最高品質を追求する姿勢、有機栽培への取り組み、従業員への市場相場の3倍の賃金支払いを知り、実際に味わえば、顧客は納得してくれる」。
反応は全体的に好意的だと彼は続けます。
「コルピナットへの変更後、売上は10%増加した」とHuguetは言います。
Cowanは、ボトルに込められた哲学と最高品質の製品だということがわかれば、喜んで受け入れてくれるスペインワイン愛好家たちに、自ら店頭でコルピナットを販売してきた経験から、段階的な啓蒙こそが唯一の有効な道だと同意します。
「消費者、特に若い世代はサステイナブルを非常に重視している」とCowanは語ります。「DOペネデスが完全オーガニック化した事は、大きなセールスポイントになった。地域やカテゴリーの認知度がない場合、商品を動かすものは理念だと実感しているので、コルピナットの哲学を簡潔にまとめた説明文をメニューに掲載することを検討している」。
事態は深刻です。
「私たちがこの産業構造を立て直し、生産者やサプライチェーン下流の関係者を支援しなければ、この地でのワイン造りは経済的に持続不可能になる」とHuguet は語ります。
スペインのワイン産業は、国内経済に推定$230億の貢献を果たし、スペイン国内だけで35万人以上の雇用を支えています。カヴァ生産が主要産業であるカタルーニャでは、$32億規模の経済活動が生み出され、1万500人が直接雇用されています。
もし…この‟もし“がこの文で最も重要な言葉かもしれませんが、新たな格付け制度がこうした経済効果を拡大できれば、地域全体の活性化につながるのでしょう。
引用元:Spain’s Sparkling Wine Revolution
この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
文責はFiradisに帰属します。
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