Adelaide Hills(アデレード・ヒルズ)
マクラーレンより標高が高いアデレード・ヒルズは 冷涼品種のメッカであり、エレガントなスタイルが楽しめる
アデレード・ヒルズは、サウス・オーストラリア州の州都アデレードの東に位置するワイン産地である。南はフルリオ半島とマクラーレン・ヴェイルまで、北はバロッサ・バレーとイーデン・バレーまで広がる。
国内で最も歴史あるワイン産地の一つと数えられるが、先人たちはこの地の冷涼な気候を難しいと考え、1930年代までにほとんどのブドウが引き抜かれてしまった。北部のやや温かいエリアに再びブドウ栽培が戻ってきたのは1970年代初頭で、そこから南部への植樹も広まっていった。1980年代にはこの地を代表するペタルマ(Petaluma)らが、軽やかなテーブルワインやスパークリングワインの時代が来るだろうと予想し、積極的に植樹を進めていった。州都アデレードまで車で30分というアクセスの良さや、観光業界の盛り上がりが相まってブドウの植樹は1990年代頃まで促進された。
悲しいことに2019年の後半にアデレード・ヒルズは山火事によって重大な被害を受けた。ブドウ栽培面積約3,300haのうち1/3にあたる1,100haあまりが炎によって焼き尽くされワイン産業界に甚大な被害をもたらした。
■テロワール
州都アデレードの東約25kmに位置するこの地は、渓谷と丘陵によってその特徴がつくられ、畑には様々な向き、地形、土壌タイプが存在する。気候は冷涼から温和で、標高(主に400-500m)によって気温が変わる。北部にある低地の西向き斜面では、フルボディの赤ワインを造るのに十分な暖かさが確保できる。一方でエリアの中心にある標高の高い畑では気温が低く早熟品種であるソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ピノ・ノワールが成功する。こうした日較差の大きなエリアではブドウは酸をしっかりと保持してくれる。
アデレード・ヒルズは海洋性気候のため、雨は比較的多く生育期の平均は280-320mm。雨の多くは冬と春に降り、稀に結実に影響を与えるような時期に降る場合もある。また雨が多いことは湿度が高いことを意味するためカビや病害菌のリスクは低くない。
■味わいの特徴
アデレード・ヒルズはバロッサよりも冷涼なため、白ワインの生産がメインで赤ワインもエレガント系でよりセイボリーなフレーバーを持つものが多い。白ブドウ品種が約64%を占め、そのうちソーヴィニヨン・ブランが約28%を占める。アデレード・ヒルズのソーヴィニヨン・ブランは、マールボロに見られるような草本植物の香りというよりは、完熟果実のニュアンスが強く、そこに高い酸とミディアムなアルコールが折り重なる。品質は高く、価格はミディアムクラスのものが多い。シャルドネもかなりの量が作られており、スティル、スパークリングと両方ある。スティルワインはしばしば高い酸とミディアムなボディを持つが、強い日照のおかげで完熟した有核果実のフレーバーが特徴となる。MLF、樽熟成、シュール・リーの全てがよく用いられ、素晴らしいテクスチャーと複雑さを生み出している。シャルドネもクオリティは極めて高く小売価格で一万円を超すようなワインもある。
黒ブドウ品種で最も植樹されているのはピノ・ノワール。大部分がスパークリング用であるが、品質の高いスティルワインも生産されており、小売価格で六千円を超えてくるような本格的なものある。高めの酸にミディアムなボディ、中程度のアルコールと赤系果実のフレーバーを持つ。デリケート&フローラル系からスパイシー系まで幅広く、どのスタイルであってもビクトリア州のピノ・ノワールよりもやや引き締まった硬めのタンニンを持つ。シラーズはそこまで多く植えられておらず、冷涼エリアのものはミディアムボディ、ミディアム+のアルコール、上質なタンニンを持ちスパイシー、ペッパー系の特徴がある。ヴィオニエとブレンドされることもあり、北ローヌスタイルのワインも生まれる。一方、北部の暖かいエリアのものは、よりフルボディで果実味が強いスタイルとなる。
アデレード・ヒルズでは様々な品種を植える実験的な取り組みも盛んで、グリューナー・フェルトリーナー、ブラウフレンキッシュ、アルネイス、フィアーノ、サンジョベーゼにネッビオーロなどが見られる。
主要な生産者はショウ&スミス(Shaw + Smith)、ネペンス( Nepenthe)、ザ・レーン(The Lane)などである。
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