Barossa Valley(バロッサ・バレー)
PenfoldsやTorbreckの本拠地バロッサ・バレー 世界を代表するシラーズの銘醸地であり 超高樹齢×接ぎ木なしが生み出す究極の味わいが堪能できる
カリフォルニア州はアメリカにおけるワイン産業の中心地であるが、オーストラリアのそれはサウス・オーストラリア州と言っても差し支えないだろう。州都アデレードの周辺に広がる著名な畑の数々に加え南部のライムストーンコーストを含むこのエリアは、オーストラリアを代表するワイン産地といえる。サウス・オーストラリア州の中でも特に重要なのがバロッサ・バレーであり、パワフルなシラーズと聞けば誰もがこの地をイメージするだろう。プレミアムな産地として国際的にも広く受け入れられており、オーストラリア最古の畑やワイナリーも見られる。PenfoldsやTorbreckといった誰もが知る大人気ブランドの本拠地があるのもバロッサ・バレーの魅力だ。
目次
■テロワール
アデレードから北東に55kmほど進むと見えてくるバロッサ・バレーは、西側は低い丘、東側は標高の高いイーデン・バレー、南はアデレード・ヒルズに囲まれている。丘陵が作る谷間の平地にはノース・パラ川が流れておりバロッサ・バレーのブドウ畑はこの川沿い約30kmに広がっている。平地がメインだが丘陵の斜面にも一部畑が見られ、高いところでは白ブドウ品種も栽培されている。ブドウ生育期は暑く乾燥しており、特に平地の夏場では35℃を超える。この気候がブドウに水分ストレスを与え、また夜は比較的涼しいため日較差(昼夜の気温差)も相まって凝縮したフレーバーを持つブドウが生まれる。
しかし、こうした気候条件自体はそこまで珍しいものではなく、他産地でも見ることができる。ではなぜバロッサ・バレーが他とは違う唯一無二の個性を放つことができたのか。その秘密は2つあり、1つは超高樹齢のブドウ木の存在である。世界を見渡すと生産者たちのプレステージ・キュヴェにはしばしばヴィエイユ・ヴィーニュ(V.V.)を冠した高樹齢ブドウ使用のマークが付くが、こうしたV.V.がつくのは限られた小さな畑のみ。ところが、ここバロッサ・バレーでは約80haという規模に渡って樹齢100年を超すブドウが見られる。こうしたブドウは収量こそ低いものの、その分フレーバーと色素がこれでもかというほどギュッと詰まっている。もう1つはフィロキセラの被害を受けていないことだ。ブドウの初植樹は1840年代だが、この地に根付く厳しい検疫法のおかげでフィロキセラの被害を受けずに済み、バロッサ・バレーは世界で最も古いシラーズやグルナッシュ(樹齢なんと170年超)の一部を所有している。これはすなわち接ぎ木をしていないということであり、ブドウの複雑さやエネルギーが桁違いなのだ。
さらに見逃せないのが、ドライ・ファーミング(無灌漑農法)である。バロッサは暑く乾燥しており降雨量が非常に少ないので基本的に灌漑が必須となるが、地中深くまで伸びた根を持つ高樹齢ブドウであれば、無灌漑も不可能ではない。水分ストレスによるギリギリの生育環境下において、ブドウ自らの力のみで作る凝縮した味わいは世界中の飲み手を魅了してやまないのだ。
■味わいの特徴
バロッサ・バレーは高品質なシラーズ、グルナッシュ、ムールヴェードルのメッカであり、単一品種としてもブレンドとしても人気があるが、フラッグシップはやはりシラーズと言える。味わいの特徴を一言で言うならばシャイとは真逆の性格。リッチでフルボディ、高アルコールに完熟した柔らかいタンニンが豊富で、チョコレートの風味をまとった完熟黒系果実がこれでもかと押し寄せてくる。これだけ聞くとバロッサ・バレーはパワフル好きな人のための産地と思うかもしれないが、この地の魅力はスタイルが多様なところにもある。前述したどっしり系ワインの多くは暑い谷間の平地から作られるが、生産者たちの中にはあえて涼しい丘の斜面にブドウを植えたり、早摘みをすることでテロワールの個性を表現しようとするモダンなスタイルも見られる。一昔前まではアメリカンオークの新樽で寝かせるのが主流だったが、近年ではフレンチオークの使用も増えており、エレガントさやフレッシュさにこだわる生産者も少なくない。平地と斜面のブドウをブレンドすることでバロッサ・バレーの特徴を活かしつつも見事なバランスを持ったワインもあり、多様なスタイルを通して新たな発見を見つけることができるのだ。
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