Stellenbosch(ステレンボッシュ)

南アフリカを代表する産地で、カリフォルニアでいうナパ的な存在

フランスの一流シャトーをも惚れさせたテロワールのポテンシャルは計り知れない

ステレンボッシュは南アフリカで最も有名なワイン産地である。ウエスタン・ケープ州の沿岸エリア、ケープタウンの東に位置するこの地は、南アフリカを代表する著名なワイナリーたちが軒を連ねる。南アフリカの中でも歴史ある産地で、ブドウの植樹が始まったのは、移民によって開拓された17世紀後半。現在では、全体の約20%のブドウがこの地に植えられており、産業の中心地として機能している。カリフォルニアで言うところのナパのような存在だ。

 

ステレンボッシュは海と山に囲まれた産地だ。南へ20kmほど行くと海(False Bay)があり、東には広大な山々(Hottentott Hollands Mountains)がそびえ、北には別の山(Simonsberg Mountains)が隣接する産地パールとの境界線となっている。畑はこうした丘陵地帯と西側の平地に広がっており、山々が作る段々畑は標高や畑の向きがそれぞれ異なる。土壌も実に多様で、丘の斜面は粘土を豊富に含む花崗岩が見られ、平地では砂や沖積土が見られる。こうした環境では様々なブドウが栽培でき、海から離れた内陸は暑く乾燥しているため黒ブドウがメイン、海に近いエリアでは涼しい影響を受けるため白ブドウが多く見られる。

このようにステレンボッシュはテロワールの個性が実に多様であり、ワインのスタイルも非常に幅広い。このため気候や土壌を分析・調査して7つの公式なサブ・リージョンが定められている。しかしながら、現在においてこうした名前がラベル上に現れることはほとんどなく、生産者はシンプルにステレンボッシュと名乗ることが多い。なぜなら、この方が消費者がより認知しやすく、これはナパの生産者がオークヴィルやヨーントヴィルといったサブAVAではなくシンプルにナパ・バレーとだけ名乗るのと似ている。

多様なテロワールを持つステレンボッシュだが、最も素晴らしいワインを生み出すのは南の海に向けて開いた土地で、かつ十分な標高のある丘の斜面の畑だ。こうした条件ではブドウの成長はゆっくりと進み、酸を失うことなく糖度を上げ、アロマの成熟を促すことができるからである。

■味わいの特徴

ステレンボッシュといえば黒ブドウ、とりわけカベルネ・ソーヴィニヨンとボルドーブレンドが有名だ。ニューワールドであるにも関わらず、カリフォルニアのようなフルーツ全開とは異なった方向性を持っているのが特徴。あえて言うならば、ボルドーなどにみられる旨味や複雑さを感じられる味わいで、ニューワールドとオールドワールドのちょうど中間に位置するような絶妙なバランスである。ステレンボッシュとボルドー品種のポテンシャルに惚れ込んだシャトー・ピション・ラランドの元オーナー、メイ・エレーヌ・ドゥ・ランクザン夫人が情熱を注ぎ込むGlenelly(グレネリー)はご存じの方も多いだろう。また、シラーにも旨味が感じられ、標高の高い涼しいエリアではペッパー系のニュアンスが漂う。ステレンボッシュの東隣フランシュフックにあるBoekenhoutskloof(ブーケンハーツ)が作るシラーなどには北ローヌを彷彿とさせる味わいが楽しめる。最後に、忘れてはならないのが南アフリカの地場品種であるピノタージュ。ピノ・ノワールとサンソーの交配品種であるこのブドウは、単一としてもカベルネなどとのブレンド(ケープブレンド)としても親しまれている。この地にワイナリーを構えるKanonkop(カノンコップ)はピノタージュの王様の異名を持ち、世界的にも人気が高い。

ステレンボッシュのワインは、オールドワールドに通ずる方向性を持ちながらも、価格はニューワールドよりでお手頃感があるため、飲み慣れた人にとっては味わいの満足度が非常に高いお値打ち産地なのである。

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