Yarra Valley(ヤラ・バレー)
- オーストラリア
- アメリカ, カベルネ・ソーヴィニヨン, シャルドネ, シャンパーニュ, シラー, テロワール, ピノ・ノワール, ブルゴーニュ, ワイナリー, 樽, 生産者, 発酵, 赤ワイン, 香り
一般的なオーストラリアのイメージとは真逆のスタイル 極めて冷涼な気候からワールドクラスのシャルドネとピノ・ノワールが生まれる
ビクトリア州の州都メルボルンの北東に位置するヤラ・バレーは、「暑くて乾燥したシラーの産地」というオーストラリアのイメージとは全く異なり、極めて冷涼な産地である。エレガントで複雑なピノ・ノワールとシャルドネを生むヤラ・バレーでは、世界中から多くの愛好家が訪れてくるため、ワイナリー観光も重要な産業となっている。
ブドウが初めて植えられたのは1838年で、そこから50年は急速に成長し1880年代に入るまでにピークを記録した。一方ちょうどその頃、アメリカから入ってきたフィロキセラがヨーロッパのほとんどの畑を食い散らかし始めた。ヨーロッパからオーストラリアへ移り住む人々も多く、当時フィロキセラの侵攻は不可避と思われたが、ヤラ・バレーでは奇跡的にほぼ無傷でその被害を逃れることができた。しかしこうした幸運もつかの間、世のワイントレンドの変化によってヤラ・バレーは衰退の憂き目に合うことになる。20世紀初頭、世界はオーストラリアに酒精強化ワインとバロッサ・バレーのシラーズのようなパワフルな赤ワインを求めたのだ。ヤラ・バレーの繊細で軽やかなスタイルのワインは競争に勝つことができず、多くのブドウが引き抜かれより利益の出る他の作物に植え替えられた。この流れはしばらく続き、ようやく復興の兆しが現れ始めたのは1960年後半から70年初頭にかけてのことだった。Yarra Yering、Mount Mary、 Serville Estateら先人たちの努力が実り、ヤラ・バレーは徐々に注目されるようになった。この地は再びブドウ畑で覆われるようになり、1990年代にはかつてないほどまでにブドウ畑が広がっていった。
■テロワール
ヤラ・バレーはオーストラリアで最も冷涼な気候のひとつと言っても過言ではない。モエ・シャンドンがオーストラリアでシャンパーニュに代わるスパークリングを作ると決めた際、ワイナリーをこの地に建設したことからもその気候特性が伺える。冷涼を作る要素は主に2つあり、南西にあるポート・フィリップ湾と500mまである標高の高さだ。地形は、丘陵が作る斜面と谷底が波を打つように連なっており、畑は東西南北あらゆる方向を向いて存在している。
ヤラ・バレーは大きく2つのエリア-アッパー(Upper)とローワー(Lower)-に分けることができる。アッパーはヤラ・バレーの南東に位置し、標高が高いことからより涼しい気候を持つ。土壌は表土が厚く肥沃な火山性土壌で無灌漑農法(ドライ・ファーミング)が可能。一方、ローワーは北西に位置し、標高が低いためより暖かい。土壌はローム質粘土で、痩せていて排水性が良く、基本的には灌漑が必要となる。
■味わいの特徴
ヤラ・バレーといえばワールドクラスのピノ・ノワールとシャルドネだ。この地は度々ブルゴーニュを引き合いに出されるが、その理由はブドウ品種が同じであるだけでなく、冷涼な気候や丘陵の連なりが作る地形など共通項が多いためである。
ピノ・ノワールの味わいに関しては、標高の高い冷涼な畑からはより繊細でライトなスタイルが生まれる。ストロベリー、レッドチェリーなど果実の香り高さを出す目的で全房発酵を取り入れるところが増えてきている。一方、暖かいエリアからはより完熟感のあるミディアムボディが生まれる。樽はバリックよりもサイズの大きい500Lや場合によってはフードルを用いる人が増えてきており、よりエレガント志向が伺える。
シャルドネは白桃、グレープフルーツ、メロンといった果実味が典型的な特徴だ。フルボディ&オーク&トロピカルフルーツといった一昔前に支配的だったオーストラリアのステレオタイプからいち早く離れたのもこのヤラ・バレーであった。当初は多くの生産者が、早摘み、古樽使用、MLFなしといった極めて線の細いスタイルに夢中になっていたが、現在はそこまで極端ではなくバランス重視型だ。酸は依然として高いものの、暖かいエリアでは白桃やグレープフルーツの果実がより前に出るようになってきている。新樽も古樽もどちらも用いられ、サイズはより大きいものがトレンドだ。澱との接触も積極的に取り入れ、還元的な薫香などを狙ってフレーバーに幅をもたせる場合もある。
その他の品種では、カベルネ・ソーヴィニヨンも人気があり、はっきりとしたハーバルな個性を持つエレガントなスタイルだ。シラーズに関してもバロッサ・バレーのそれとはスタイルが全く異なり、フレッシュなブラックベリーやラズベリー、プラムの中にしっかりとセイボリーやスパイシーな要素が感じられる。