崖っぷちから復活するヨーロッパのマルベック

崖っぷちから復活するヨーロッパのマルベック

マルベックはアルゼンチンの代名詞ですが、気候の温暖化に伴い、ヨーロッパで再び台頭しつつあります。


アルゼンチン産マルベックの台頭は、ここ最近で最も驚くべきニュースのひとつです。南米のワインメーカーたちは、大胆にも文化を逆輸入し、ボルドーの伝統的な品種を取り入れ、品種の風味を高め、自分たちのものにしたのです。

 

今日、濃厚なマルベックを求めるアメリカの消費者で、カオールのいわゆる「黒ワイン」を聞いたことがある人は比較的少ないでしょう。しかし、メンドーサのマルベックは、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランに匹敵する国際的な商品であり続けています。新世界のマルベックが一歩リードしている状況です。

 

そんな中、ボルドーではプレミアム・フレンチ・コットと呼ばれるマルベックの生産量は、長い中断を経て再び上昇しています。
Hugh Johnsonの『The Story of Wine』によれば、マルベックはかつてChâteau Lafiteの主要な赤ワイン品種でした。さらに、19世紀初頭にはボルドーの総栽培面積の約60%を占め、メドック地区ではかなりの支持を得ていました。

 

残念なことに、1800年代後半にフィロキセラがこの地域のブドウ畑を荒廃させた後、マルベックはあっという間に廃れてしまったのです。20世紀に利用可能だったクローンが貧弱だったこともその一因です。高収量のブドウ木は、特大サイズで中身が貧弱な実を成らせました。その結果マルベックは、メドックとサンテミリオンから追い出されましたが、ジロンド河口の右岸にあるブライとブールの地域では、いくつかの区画が生き残ったのです。

 

気候変動が後押し

これは、コート・ド・ブールとブライのトップワインへの最近の進出と関係しています。 コート・ド・ボルドーの、非常に暖かかった2018年と2016年を含むヴィンテージの一部を試飲したところ、マルベックのスパイシーでダムソンプラムの香りがする特徴がブレンドの重要な部分であることが明らかになりました。ブライやブールの生産者がグラン・ヴァンに少量のマルベックを使用しているという話は、ほとんどニュースにはなりませんが、私はその割合に驚きました。45%も使用する事があるというのです。しかし、これは暑い時期がもたらした偶然なのか、それともこれから起こることの前兆なのでしょうか?

 

「マルベックはメルローよりも果実味が豊かでタンニンが柔らかく、低収量だと素晴らしい深みがあります。良質のマルベックは、私たちのテロワールに非常によく適応します。上質な粘土質の土地では非常に力強いワインになり、石灰岩質の土地では驚くほどフレッシュで洗練されたワインになります」と、ブライのChâteau Bonnange のオーナー、Franck Benoitは説明します。「だから私たちは、赤い粘土から硬い石灰岩まで、優れた土壌にマルベックを植え替えたのです。その結果、マルベックの栽培面積はまもなく40%を占めるようになるでしょう」。

 

Château Monconseil Gazinでも似たような事があります。このシャトーにおけるマルベックのシェアは、1990年代の初めには5%程度にまで落ち込んでいましたが、今では16%以上、そしてシャトーのグラン・ヴァンの少なくとも25~30%を占めています。この新しい熱狂的な状況は、地球温暖化が一因となっています。マルベックはメルローよりも強健で、暑さや干ばつに強い品種とされています。

 

「マルベックはボルドーの気候変動に対する非常に良い答えです。マルベックは水不足に対するストレスに強いです。そして、葉の大きいキャノピーがブドウを日差しから守るため、高温によく耐えることができます」と、Vignobles Carreauの共同経営者、Nicolas Carreauは同意します。
Château Bel-Air La Royèreのワインメーカー、Corinne Chevrierもこう語ります。「忘れていたブドウ品種があることに気づきました。当時、INRA(フランス国立農学研究所)の技術者たちにとって、マルベックはワイン界が求めているものではなかったのです」。

 

しかし、マルベックは現在、ブライとブールにおいてますます重要な役割を果たしています。陽に焼けてアルコールが高くなったメルロにフレッシュさをもたらす役割だけではないのです。この品種への信頼が高まるにつれ、メンドーサ産マルベックに対抗できる単一品種のワインをリリースするワイナリーも増えています。例えば、Château Bel-Air La Royèreは、樹齢75年以上の2つの小さな区画を巧みに利用し、100%マルベックというワインを造り販売しています。

 

一方、サンテミリオンのChâteau Petit Valは、マルベックワインの第一号であるValentinaをとても誇りに思っています。砂質粘土土壌で栽培されたブドウを使用し、アンフォラで発酵・熟成させるValentinaは、ボルドーのマルベックを非常にエレガントで洗練された形で表現しています。隣人たちの成功や気候の変化に後押しされ、Petit Valに続く右岸のワイナリーは増えていくでしょう。

 

「2015年から単一品種ラベルを作り始めました。その年に生産されたマルベックの品質から、マルベック単独のボトリングが正当化されたのです。同時に、輸出市場の開拓にも取り組んでいたので、新しい市場でもわかりやすく、品種によるワイン購入の手がかりとなるような、単一品種のワインを提供するのは興味深いことでした」とNicolas Carreauは言います。

 

Benoitによれば、ブライとブールでは、マルベックを単一品種のスタイルとして比較的簡単に販売でき、複数品種のブレンドの中に「隠す」ことを嫌う傾向が強まっているという事です。

 

「ほんの数滴ブレンドに加えるだけで、まろやかでフルーティーなタッチが加わり、とても満足しています。私たちはむしろ、優れた区画やマルベックの特別な側面を表現するために、ヴァラエタル・ワインに土地を使いたいのです」と彼は言います。

 

Château Bonnangeのマルベックとノワールも同様です。ノワールというキュヴェは「上質な赤い粘土土壌が生む低収量のマルベックを、ストッキンガー樽で熟成させた凝縮感のあるワイン」をベースにしています。限られた生産量ではありますが、1930年代に遡る区画を使用しています。「私たちはこのマルベックのラベルで評判を築き始めました。一流レストランにも入っていますし、批評家たちからも良い反応、そして点数をもらっています」と彼は付け加え、最高96点という点数についても言及しました。

 

否定派

ボルドーで最も歴史あるテロワールから生まれるマルベックの復活を観察するのは、とてもエキサイティングな事です。最近のヴィンテージは、熟した果実味、十分なフレッシュさ、絹のような複雑味を示し、カオールよりも格下の品質のワインにあるような田舎っぽさが感じられません。メドックにおけるこの品種の将来を推測することさえできるでしょう。結局のところ、ブライやブールの生産者がこの品種を成功させることができるのなら、マルゴーやポイヤックのブドウ栽培者たちが成功しないわけがないのです。

 

ところが、このようにBenoitはマルベックを「気候変動に対する最も有望な地元の解決策」と見なすべきだと考えているのに対して、左岸ではマルベックに対する無関心が依然として強いのです。

 

私の記憶では、マルベックを使用した格付けシャトーのワインは1つしか試飲したことがありません。 Château Gruaud-Laroseです。残念なことに、試飲してみたところ、3%未満のブレンドだったのですが、明らかな影響は感じられなかったのです。また、テクニカル・ディレクターのVirginie Salletteは、この区画をつぶしてカベルネ・ソーヴィニヨンに植え替えたのです。
これがメドック人なのです。この地域のワイン生産者たちに話を聞いたところ、その反応は多かれ少なかれ同じでした。メルロー(気温の上昇で苦しんでいることは否定できない)の代わりに、はるかに優れたカベルネ・ソーヴィニヨンを植えることができるのに、なぜマルベックを植えるのか?という事です。

 

匿名希望のある人物は、「まだ先の話ではあるが、メドックではマルベックよりもトゥリガ・ナショナルの方が将来有望だ。暑さにも強く、私の見解でははるかに優れたワインを生み出す」と述べます。

 

トスカーナより愛をこめて

もちろん、誰もが同じように感じているわけではなく、各地色々な意見があります。ラングドックで造られる高品質のマルベックの量は年々増加しています。Domaine Astrucのビロードのように滑らかなd’A Malbecは強くお勧めできます。

 

また、マルベックはイタリアの生産者たちにも注目されていますが、これは間違いなくこの品種の世界的な人気が衰えていないことが影響しています。マルベックはアブルッツォ、フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア、、シチリア、ウンブリアの畑で以前から栽培されていましたが、単独のブドウとして瓶詰めされることはほとんどありませんでした。しかし、 Castello di Vicarello のオーナーは、典型的なイタリア人らしく、「なぜそうしないのか?」と考えたのです。

 

「マルベックを植えるというアイデアは、アルゼンチンのマルベックに惚れ込んだ私の父が、その情熱をトスカーナに持ち込もうとしたことから生まれました」とオーナーのBrando Baccheschi Bertiは言います。こうして彼は2002年、ワイナリーのポッジョ・ヴィコの丘にブドウ木を植えました。海を見渡せる、日当たりと風通しが良い場所です。しかし、ポッジョ・ヴィコのワインは昨年まで市販されていませんでした。このワインは、たっぷりと豊かな凝縮した果実味を持つ素晴らしい赤ワインです。また、プーリア州の魅惑的なワインもいくつか味わいましたが、特にTerre di Santo Vito’s Tintoは素晴らしいです。

 

「このブドウには暖かさが必要で、できれば南向きか西向きの地形が望ましい。気候の観点からは、ブドウ畑は風通しがよく、昼夜の温度差が大きいことも必要です」とBaccheschi Bertiは明かします。

 

「現在のところ、生産は750mlと1500mlの2サイズで最大2500本に制限されています。しかし、今後数年のうちに畑の面積を拡大する計画があり、生産量を増やすためにマルベックをもっと植えることは間違ありません」。

 

アルゼンチンは、自国を代表するブドウに対するヨーロッパからの関心の高まりを心配すべきなのでしょうか?とんでもないです。ほとんどの消費者は、今でもメンドーサをマルベックの唯一の産地とみなしています。メンドーサは銘醸地であり、生産量も多く地位を確立しています。一方で、地中海の収穫が真夏に行われることが多くなった昨今、この強健な品種はワイン生産者に多くの恩恵をもたらします。もちろん、メドックのケースは別として。

 

多様性を愛する愛好家なら、アルゼンチン以外の選択肢はもはや片手の指の数に限られていると不満を言うことはできないでしょう。今日では、ブライ、ブール、カオール、、プーリア、そしてトスカーナのなだらかな丘陵地帯から、お好きなマルベックのワインを選ぶことができます。

 

引用元: European Malbec Back from the Brink
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