酸が支配するヨーロッパの2024年ヴィンテージ

酸が支配するヨーロッパの2024年ヴィンテージ

ヨーロッパにおける近年のヴィンテージは困難続きでしたが、それは酸という旧友の帰還を告げるものでもありました。


普段は堅物のワインメーカーでも、収穫期を迎えると美しい詩の世界に浸るようになります。 例えば、Inter Rhône代表の Philippe Pellatonは2024年11月、2024年のヴィンテージを「ホメロス」と表現しました。

 

彼は、Demeterの知恵とZeusの力を備えたワインメーカーだけが、ヴェレゾンの間に起こった「大雨、カビ病、季節外れの寒冷な天候」に対処できると主張しました。

 

しかし、このPellatonの言動は決して突飛なものではありません。2024年は極端な年であり、生産者を限界まで追い詰めたヴィンテージだったというのが、ヨーロッパ全体の意見です。

 

「主に春と夏の終わりに集中する頻繁な雨があった2024ヴィンテージは、過去を彷彿とさせるシーズンだった」と、トスカーナのGrattamacco とPoggio di Sotto のチーフ・ワインメーカー、Luca Marroneは言います。

 

「頻繁な雨によって常に高い湿度だったので、春から真夏にかけて病害、特にベト病が多発した。その後、9月の雨がボトリティスと白カビ病の発生を助長し、特に畑の斜面下部や樹勢の強い区画で発生した」。

 

一方、ロワール渓谷の生産者たちは、「ここ数十年で最も試練の年」のひとつであり、まともな収穫をするためには 「回復力、粘り強さ、献身 」が必要な天候であったとしています。

 

Centre-Loire Winesの技術部門を担当するSICAVACの François Dalは、「メヌトゥ・サロンは最悪の被害を受け、プイィ・フュメはベト病による大損失を被った。その結果、歴史的な低収量となったが、悲惨な2021年ヴィンテージよりは若干ましだった」と語ります。

 

明るい面も

しかし、またもやジェットコースターのようなヴィンテージによる苦難と収量減にもかかわらず、生産者たちは概して落ち込んではいません。2024年は人々が切望する 「正常な状態への回帰」になるという話もあります。

 

さて、本当にそうなのでしょうか?例えば、1990年代のボルドーのヴィンテージについて、本当に良い時代だったと言えるのでしょうか?1991年4月、サンテミリオンとポムロールでは、厳しい霜が潜在収量の70%減にまで達しました。1992年はオフ・ヴィンテージとなりました。薄いワインと青臭いタンニン。そして、バイヤーの話では1993年はそれほど良くなく、メドック地区の多くのブドウ畑では、カベルネを成熟させるのに苦労したということです。

 

一方ブルゴーニュでは、20世紀にはブドウの糖度に関係なく、シャプタリゼーションはほぼ必須と考えられていました。しかし、2024年12月の時点で私が話をしたワインメーカーの多くは、成熟が抑制された状態を切望していたのです。

 

もちろん、これは非常に暑かったヴィンテージの反動でもあります。2018年と2022年の気温は、いくつかののアペラシオンで記録更新となりました。しかし、かつてJancis Robinson MWが指摘したように、ワインの第一の役目はリフレッシュすることです。生産者は、気候変動に照らして、糖分、風味の熟度、アルコールレベルのバランスをとることがますます難しくなっていることに気づいています。

 

Grupo La Rioja Alta S.Aの栽培ディレクターRoberto Fríasは「過去10年、そして過去20年の間に、リオハ、リベラ・デル・ドゥエロ、リアス・バイシャス全域のブドウ畑で大きな変化があった。芽吹きと収穫の時期が早まり、ブドウ畑のライフサイクルが全体的に短くなり、過度の暑さが糖分濃度を上昇させ、アルコール度数が高くなり、酸味が低下するという新たな常識が生まれた」と、述べています。

 

「黒ブドウの場合、高いアルコール度数は、必ずしも適度なフェノール熟成によってバランスが取れるとは限らない。同様に、白ブドウも糖分、酸味、アロマのバランスが崩れる」。

 

これはワイン生産者を非常に悩ませていることです。彼らは、熟した果実の重要な対極要素である、適正レベルの酸を何よりも切望しています。シャンパーニュ地方では、ワインが口中をリフレッシュさせ、見事な複雑性を持つように熟成させるためには、高い酸が非常に重要であると考えられてきました。酸はソーテルヌのくどさを和らげ、アルバリーニョを生き生きとさせるのです。

 

「フレッシュさとバランスがヴィンテージ2024の主な特徴だ」と、Luca Marroneは賛同します。

 

「酸味は2024年のワインにおいて重要であり、例年より低いアルコール度数によってさらに引き立てられています。1980年代から1990年代初頭の収穫を彷彿させる 『オールド・クラシック・スタイル』のヴィンテージで、過去20年多くのヴィンテージで特徴的だった力強い果実味とアルコール感のある『ニュー・クラシック・スタイル』とは対照的です」。

 

Sassicaiaのゼネラル・マネージャーCarlo Paoliも、過去に敬意を表し、トスカーナの典型的な赤ワインスタイルの復活可能性について実に熱心に思いを寄せています。

 

「このヴィンテージは、気候条件と農学的管理がいかにワインの品質にポジティブな影響を与えるかを示す好例だ」と彼は言います。「実際、生産工程では、フレッシュさ、ストラクチャー、エレガンスを確保するための重要なパラメーターであるバランスの良い酸を保つことに重点を置きました。安定した酸味は、時間の経過に伴うポジティブな進化も保証します」。

 

ボルゲリの今シーズンについて、Paoliは、(昼夜の)気温の大きな変動がアロマを高め、長命で複雑なワインの特徴である最適な酸度を保ったことを強調しました。

 

「Tenuta San Guidoの2024年産ワインは、1ℓあたり5.80~5.90gの酸度で、そのバランスとアロマのフィネスが際立っている。2024年は、我々のワイナリーとボルゲリ地域全般において、間違いなく高いレベルの酸によって定義されるヴィンテージだと思う」。

 

Tenuta di Trinoroのワインメーカー、Lorenzo FornainiもPaoliの意見に同感で、特に「重要な成熟期間中の豊富な降雨量と低温のため、アルコール度数の低い軽めのワインになった」と言います。その結果、ワインの酸味などのしっかりとした要素がより際立つようになったと強調します。

 

概して、高い酸の復活は、トスカーナだけでなく、世界中のセラーで祝福されたのです。

 

イングランドのBlack Chalkでワインメーカーを務めるZoë Driverは、彼女のチームが「ブドウの完熟度を求めて、勇気を出して例年より遅めに収穫する必要があった」と話してくれました。このワイナリーはイングランドでも最高級のスパークリングワインを生産しており、2024年は頭痛の種であったにもかかわらず、酸味の高いワインを好む人々への良き贈り物となりました。

 

「Black Chalk では、全てのワインにおいて酸を非常に大切にしています。私たちはMLFをするとしてもごくわずかで、酸に重きを置いている」とDriverは明かしました。

 

得られたもの

しかし、これから市場に出てくる2024年のワインのスタイルについては、若干の懸念があります。Ornellaiaで技術ディレクターを務めるMarco Balsimelliは、「凝縮感は他のヴィンテージよりも低い」と認めています。と言いながらも、彼は今シーズンの 「フレッシュでエレガント」な特徴について叙情的に語ります。

 

San Leonardoを率いるAnselmo Guerrieri Gonzagaは、このヴィンテージを 「興味深い」と語ります。非常に寒冷な天候と大量の雨で始まり、潜在収量を大幅に減少させました。

 

「夏はかなり良い調子だったが、難しい収穫で、雨の日が多く、収穫を中止せざるを得なかった」と彼は言います。「イタリアの多くの地域では、確かに厳しい年だった。しかし、アルコール度数は13%前後で、中には12.5%以下のものもある。一般的には、フレッシュで飲みやすいヴィンテージになるだろう。しかし、おそらく複雑性の高いものにはならないでしょう」。

 

サセックスにあるWiston Estateのヴィンヤード・マネージャーTravis Salisburyによると、「生育期に雨が降り続いたことで、ブドウの生育に影響が出た。開花期の天候不順と気温の低下で受粉が遅れ、成熟にムラが生じた。全体的に酸が高く、タフな年だった。品質については時間と共に明らかになってくるだろうし、より長く滓とともに熟成させる方がこのヴィンテージにとっては良いだろう」ということです。

 

実際、ヨーロッパでは(全体的に)暑い気候による熟したワインへのシフトを肯定的な傾向とみなす声もあります。数年前、私はLafiteのかつてのCEO Jean-Guillaume Pratsと活発な議論を楽しみました。

 

「昔はレインコートを着て収穫していたが、今はTシャツと日よけの帽子が必要だ。過去15年間は素晴らしいヴィンテージがいくつもあったので、そういう意味では地球温暖化は非常にプラスに働いている」と彼は言います。

 

「Lagrange は温暖化の悪影響を受けていない。正直なところ、2007年以来、カベルネ・ソーヴィニヨンをより多くブレンドすることもできるようになり、温暖化の恩恵を受けているのだ」と、Matthieu Bordesは付け加え、温暖化がボルドーにとって有害であるという意見に反論しました。

 

「20~30年前と比べると、左岸全体の気温上昇の主な影響は、カベルネ・ソーヴィニヨンが毎年良い成熟度に達することだと言える。また、我々のテロワールは暑く乾燥したヴィンテージに対して非常に良い反応をする。Lagrangeの2018年ヴィンテージのpHは3.53だ」。

 

しかし、2024年にそうなる可能性は低そうです。左岸のあるブドウ栽培者は、カベルネ・ソーヴィニヨンは「いつものように熟さず苦労した。厳しい年だった、品質の低いワインには青っぽさが出るだろう」。

 

別の者は、このヴィンテージは「長い間、相当な困難が続いた。2024年からは、重量感、凝縮感、力強さは期待できない」と言います。

 

しかし、サンテミリオンのChâteau Petit Val のワインメーカーであるDavid Lioritは、もっと楽観的な公言をしています。

 

「このヴィンテージは、降雨量、病害、献身、勇気といった点で 『記録的なヴィンテージ』と言えるでしょう」と彼は言います。

 

「天候はワイン生産者たちの神経を逆なでし、夜は短く、波乱に満ちたものとなった。それは、今年の高い病害リスクのために、スタッフが常に待機していなければならないことを意味するものだった。雨が頻繁に降ったため、ブドウ木への病害プレッシャーがかかっただけでなく、畑への介入は非常に短時間で行われた。

 

「しかし、Château Petit Valでは、卓越した品質を保証するために、ブドウの成熟を促し、畑での選別からセラーでの密度測定まで、徹底的な選果を行った。その結果、傑出したヴィンテージとなり、素晴らしい熟度と卓越したフレッシュさが、酸味とアルコールの見事なバランスと結びついた」。

 

祝賀の理由

昨年の12月上旬、ラングドックのワイン生産者たちに話を聞いたところ、彼らは皆、2023年のアルジェリアのような暑さから解放されたことを喜んでいました。

 

「2024年は酸のレベルが高く、気温が上がるとワインが熟しすぎて肉厚になりすぎるこの地域では、それは間違いなく良いことだ。生き生きしたという表現は少し強すぎるかもしれないが、平均以上であることは間違いない。夜の冷え込みが果実を守り、このフレッシュさとバランスを保ったと考えている」と、Domaine de Sainte Roseの共同オーナーRuth Simpsonは言います。

 

「私たちが住むラングドック地方にとっては、本当に良い年でした。シーズンの始まりは涼しく、我々が非常に欲している雨は、少なくともここ5年間では最も多く、年間平均600mmに迫る勢いでした。このため、生育期を通じて水分補給ができ、7月末から8月初旬にかけての最も暑い時期に土壌に水分を蓄えることができた。気温は40℃まで上がったが、過去数年とは異なり、一晩で20℃半ばまで下がり、成熟期間が延び、酸と糖の発達のバランスが保たれた」。

 

過去10年間、ヨーロッパのワイン生産者たちは、猛暑と豊かなタンニンのヴィンテージか、湿潤で病害に見舞われ、それでも適度なアルコールと生き生きとした酸のワインかという、不運な二者択一に取り組んできました。

 

バランス的には、後者を好む人が多いようです。

 

引用元:Acid Reigns in Europe’s 2024 Vintage

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