ロワール地方、テロワールの危機

ロワール地方、テロワールの危機

官僚たちが、ロワール地方のワイン生産者たちの苦境に追い打ちをかける形で、彼らにとって貴重な地理的表示の使用を禁止しています。


ワイン界の注目を集めるペイ・ナンテ、アンジュー、トゥーレーヌ、そしてオーヴェルニュの高地に至るまで、近年のロワール地方のワインの知名度向上には、意欲的なワイン生産者たちが大きく貢献してきました。より洗練されたワインで、長期熟成型、オーガニックやビオディナミの単一畑ワインに重点が置かれるようになっています。

 

フランス高級ワインの潮流の変化を反映し、かつてはロワールワインを鼻で笑っていたワイン商たちも、過去6年間にわたり、フランス最長の川沿いをくまなく探し回り、ライバルとなる他のフランス産ワインよりも一般的に低価格で販売されるワインを確保しようと躍起になっています。

 

例えば、アンジュー地方のショーム丘陵にある名だたるブドウ畑の生産者たちは、11世紀のRonceray修道院に由来する「Ronceray」という名称を用いることで、8年間にわたり高品質なシュナン・ブランの評判を築き上げ、そのワインは世界中で販売されてきました。

 

しかし、フランスの規制機関である国立原産地名称研究所()が、2025年以降、辛口シュナン・ブランワインへの「Ronceray」という名称の使用を禁止し、彼らの取り組みに打撃を与えました。

 

この禁止措置は、INAOが最近、ミュスカデのクリュ・コミュナル10村について、ワインラベル、ウェブサイト、そしてワインバーやレストランを含む販促資料における「クリュ」の表記を禁止したことに続くものです。INAOが2011年に最初の3つのミュスカデのクリュを承認して以来、ワイン生産者たちが「クリュ」という言葉をずっと使用してきたにもかかわらず、行われた措置です。

 

この禁止措置は、「クリュ」を活用してペイ・ナンテを高級ワインの産地として世に知らしめてきた生産者たちにとって大きな打撃です。大西洋の影響を受けるペイ・ナンテの生産者たちは、地元のライバル産地から主役の座を奪ってきました。この地では、より軽やかでフレッシュなワインを造ることができるだけでなく、ガメイ、ピノ・ノワール、シラーといったブドウ品種において、潜在アルコール度数が高くなりすぎることなく、適切なフェノール類の成熟を得ることができるからです。ペイ・ナンテのブドウ畑面積は過去10年間で劇的に減少し、2025年には5400haとなりましたが、生産者たちは安価なワインではなく、量よりも品質を重視するようになっています。

 

アンジューにあるDomaine BelargusのオーナーIvan Massonnatは、このようなINAOの最近の動きは、全体的な傾向の象徴だと言います。つまり、INAOの官僚たちは、テロワールを重視したワインの世界的な認知度向上と価格上昇のために懸命に努力してきた生産者たちを犠牲にして、「衰退しつつある大手生産者の世界」を優遇しているというのです。

 

Massonnatは、ロワール地方で唯一のグラン・クリュであり、減少傾向にある甘口ワイン生産に限定されたアペラシオンであるカーム・ド・ショームの生産者協会の会長も務めています。Massonnatは、辛口のシュナン・ブランワインにクリュの地位を認めさせるべく長きにわたる闘いを繰り広げてきました。地元の生産者たちは、クリュ認定されるという見込みで、辛口ワインを宣伝するために「Ronceray」という名称を使ってきました。

 

2025年に行われたワイン生産者との会合で、INAOは、「Roncerary」という名称は、ショームの丘陵地帯で7ヴィンテージにわたって使用されてきたにもかかわらず、アンジューの別の場所にある無名のブドウ畑の名称であると述べました。

 

Massonnatは、生産者を代表する会長としての自身の立場について、現在検討中であると語りました。

 

「『ノー』と言うことしかできない官僚たちと向き合わなければならないなら、もう意味がない。辞任を検討している」と、Massonnaは語りました。

 

一方、ナントワイン連盟(FVN)の関係者は、INAOがミュスカデワインへの「クリュ」という名称の使用を禁止したのは、2025年秋にINAOがペイ・ナンテを視察した際、官僚たちが、ワインリスト、販促活動、ウェブサイト、そして現地で見たボトルにおいて、「クリュ」という言葉が過度に目立つ形で使用されていると不満を述べたことがきっかけだと語りました。

 

フランス国内および国際的に初めて承認され広く使用されてから約15年を経て、INAOは突然、クリュ・ワインがまだクリュの地位に完全には達していないと主張したのです。さらに事態を混乱させるように、INAOは「コミュナル(村名)」と称される地域は、格付けされた地域(ミュスカデ全体)に比べて規模が小さいとも付け加えました。そして詳細についてINAOはコメントを拒否しました。

 

この禁止措置により、現時点では「クリュ」の代わりに味気ない「コミュナル」という言葉が使われています。

 

10の「クリュ・コミュナル(村名クリュ)」の村々(Clisson、 Gorges、 Chateau-Theabaud、 Le Pallet、 Monnières Saint-Fiacre、Mouzillon-Tillières、 Goulaine、Vallet、 La Haye Fouassière)は現在、ミュスカデ・セーヴル・エ・メーヌAOCにおける「地理的補足呼称(DGC)」として正式に認定されています。一方、Champtoceauxのクリュは、現在ミュスカデ・コトー・ド・ラ・ロワールのDGCとなっています。

 

過度に中央集権化されたフランス

ある生産者が「テロワールに関する官僚的な恐怖」と表現したように、過度に中央集権化されたフランス国家の深部からINAOが押し付けるこの圧力は、ワイン生産者にとって常態化しつつあります。

 

「今日、フランス行政の規制当局は、衰退しつつある大手生産者たちをかばっている。彼らは『消費者のために簡素化する必要がある』と言う。フランスのスーパーマーケットでワインを買う消費者たちのことだ。そこではワインは平均して€5以下で売られているが、我々の買い手はもっと複雑なワインに興味を持っているのだ」とMassonnat語りました。

 

「(ワイン生産者として)自分たちの運命は自分たちでコントロールできると思うだろう。だが、そうではない。勝つのは官僚たちだ。政治家たちはこの状況には介入してこない。もし我々がテロワールについて言及することさえ許されず、それを誇りに思うこともできないのなら、一体何の意味があるというのか?ワインの世界では二つの潮流が衝突している。一つはただの飲料としてのワインであり、その売上は我々が思う以上に急速に落ち込んでいる。もう一つは文化的な産物としてのワインであり、文化的体験、自然とのつながりを取り戻す手段として、風景を見出し、旅をし、美食と組み合わせる手段として販売されるワインだ。このワインに対するビジョンは明らかに衰える気配を見せていない」。

 

フランスのワイン危機が北部に拡大する中、Pays de La Loire独立生産者連盟のDavid Destoc理事長によると、ロワール地方のワイン生産者は2026年、最大1500haのブドウ畑を撤去する見込みです。

 

フランス政府はワインの需要と供給のギャップを縮小したい考えですが、アンジューのChâteau de Passavantの所有者であり、 Anjou-Saumurワイン連盟の事務局長兼Inter-Loireワイン機構の理事を務めるOlivier Lecomteは、ブドウ畑の撤去に対して1haあたり4000€を生産者に支給する内容を含む、政府の€1億3000万($1億5000万)の支援金は、フランス全土で約3万5000haのブドウ畑の撤去を希望する生産者の需要を満たすには不十分だと述べました。

 

「クレマン・ド・ロワールやスパークリングワインを除いたロワールワインの販売量は、過去3年間で15%減少している。この減少傾向が続けば、大惨事になるだろう」と Lecomteは語りました。

 

財政難によりブドウ栽培者への支払いが遅延する事態に直面し、米国、ベルギー、英国へのクレマン・ド・ロワール最大の輸出業者であるAlliance Loire傘下の協同組合Robert and Marcel は、2026年2月、€1,300万の債務再編について銀行と合意に達したと発表しました。

 

Alliance Loireの輸出担当ディレクターMatthieu Boulasは、クレマン・ド・ロワールの生産量は今年増加し、Robert and Marcel社の総生産量9万hl(1,200万本)の半分を占めるようになると述べました。

 

フランス国内でシュナン・ブランの人気が高まる一方で、ロワール地方のカベルネ・ダンジュやロゼの売上は減少しています。ブルグイユの生産者たちは現在、ロワール地方のカベルネ・フランの伝統的な産地であるブルグイユにおいて、シュナン・ブランの白ワインに原産地呼称(AOC)の認定を得ることを目指しているのです。

 

Domaine Lamé DelisleのオーナーPhilippe Boucardは、2025年のブルグイユ産赤ワインの売上は3%増加しただけですが、ブルグイユ産シュナン・ブランへの需要は供給を上回るペースで伸びていると述べました。INAOについてコメントしたBoucard は、シュナン・ブランのINAO最終承認を得るための手続きにおいて、生産者たちは「ツール・ド・フランスよりも多くの山を乗り越えなければならない」状況にあると語りました。

 

2025年ヴィンテージの品質については広く報じられているものの、気候条件がロワールワインの収量に影響を与えており、プロモーション団体 Inter-Loireによると、2025年の生産量は2024年と比較して全体で11%急減しました。すでに2024年は2023年比で24%減でした。 Domaine Belargusの過去8年間の平均年間収量はわずか20hl/haです。

 

一方、ロワール渓谷のワイン不動産仲介会社AmpelioのマネージングパートナーMarine Boudignonは、売り出し中の単一畑のワイナリーの供給が需要を上回っていると述べました。過去2年間で多くのロワールのワイン生産者が引退したが、子供たちにブドウ畑を継がせていないためだということです。

 

「ロワール地方では、何世代にもわたるワイン生産者がブドウ畑を家族に受け継いできた経済的・文化的・社会的なシステムが終わりを迎えようとしている。12年ぶりに、自分のワイナリーを売却したいと希望するオーナーの依頼を断る方が、引き受ける件数よりも多い状況になっている」。

 

 

引用元:Terroir Terror in the Loire

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