Ch. Haut-Brion(シャトー・オー・ブリオン)

1855年の格付けで1級認定された5つのシャトーのうち、唯一メドックではなくグラーヴに位置する異質な存在。


歴史

オー・ブリオンは5大シャトーで最も古い歴史を持ち、ブドウ栽培はローマ時代にまで遡ると言われているが、現名称(オー・ブリオン)での最初の記録は1521年となっている。1533年にシャトーを購入したジャン・ド・ポンタックから同家所有の時代が始まり、フランス革命時に国に没収されるも、後にポンタック家に返還された。しかし、その後は他者に売却し、19世紀初頭にかけてオー・ブリオンは所有者を転々とした。最終的に1935年に米国投資家のクラレンス・ディロンがシャトーを購入し、同家は1983年に近隣のラ・ミッション・オー・ブリオンも手中に収めた。クラレンスの孫娘にあたるジョアンの結婚相手がルクセンブルク大公国のシャルル王子であったという背景から、現在オー・ブリオンを取り仕切るのは二人の息子にあたるロベール・ド・ルクセンブルク王子となっている。

オー・ブリオンを語る上では、オーナーのディロン家だけでなく醸造家のデルマス家の存在も欠かせない。1923年にオー・ブリオンに就任したワインメーカー、ジョルジュ・デルマスはクラレンスを献身的にサポートし、1960年にジョルジュの跡を継いだ息子ジャン・ベルナールはワインの品質を大きく飛躍させた。彼は1961年に従来の木製発酵槽をステンレスタンクに切り替えたが、これはボルドーのトップシャトーにおいては初の試みであった。タンクはジャン・ベルナール自らがデザインしたもので、背の低い3m四方の立方体型であった。ラトゥールはこの2年後にステンレスタンクを導入しているが、それは背の高い円筒型でオー・ブリオンのものとは全く異なっていた。ジャン・ベルナールが背の低い平底タンクにこだわったのは、果汁と果房の接触面積をできるだけ広く取ることで青みのニュアンスをもたらしうる過度な撹拌を避けられると常に品質を最優先で考えていたからである。2004年からはジャン・ベルナールの息子ジャン・フィリップが継いでおり、デルマス家は3代に渡ってディロン家とオー・ブリオンを支え続けている。

 

5大シャトーの中で最も規模の小さい51haの畑を所有する。48haが黒ブドウで、植樹比率はカベルネ・ソーヴィニヨン45%、メルロー40%、カベルネ・フラン15%となっている。他のメドックのシャトーと比べて圧倒的にメルロー比率が高く、実際のブレンドもメルロー主体というのは珍しくなく、カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランの合計よりも多く使用されるケースもある。一方、白ワイン用の3haにはセミヨンとソーヴィニヨン・ブランが植えられている。

オー・ブリオンは非常に高い標高(27m)に畑を所有しており、土壌は砂と粘土が混じる砂利質土壌となっている。標高のおかげで冷気が流れて霜害リスクが低減され、またボルドー市街地までの距離の近さが郊外の畑よりも平均気温をわずかに高めてくれているため、完熟した健全なブドウが育つ。

オー・ブリオンに隣接するラ・ミッション・オー・ブリオンも非常に品質の高いワインを生むことで知られるが、両者のテロワール的な違いはなんだろうか。かつてジャン・ベルナール・デルマスはデカンター誌のインタビューでその違いをこう答えている。「ラ・ミッションの土壌は腐植土の量が多く、石が少ない。ワインは若いうちによりわかりやすく、より官能的に感じられる。一方でオー・ブリオンの土壌はより痩せている。若いうちは全貌を明らかにすることはなく、フィネスやニュアンスを感じることが難しい。オー・ブリオンのもつ繊細さと奥行きを十分に味わうためには熟成が必要である。しかし全体的に香りはより複雑で、熟成が進むにつれてより上品になる。」

 

醸造

オー・ブリオンでは、アルコール発酵用のステンレスタンクは1階・2階と2層に分けて設置されており、上階で発酵を終えたワインは重力フローで下階に移されマロラクティック発酵へ進むという仕組みになっている。培養酵母は使用せず、マセラシオン期間はヴィンテージと品種によって変わるが、通常20-30日となっている。現在、発酵温度は27℃と控えめに保たれている。熟成は新樽で18~24ヶ月行い、樽は大部分がセガン・モロー社との提携による自社製樽で穏やかなトースト香が特徴となる。加えて補助的な役割としてデントスとタランソーの樽を使用してワインにやや厳格な味わいのニュアンスを加えている。熟成期間中は、四半期ごとに澱引きを行い、卵白による清澄を経て瓶詰めとなる。

 

味わい

オー・ブリオンの味わいは他の5大シャトーとは異なる。その本質的な違いは高比率のメルローにあり、直近5年(2020-2024)におけるブレンド平均は47.2%と圧倒的に高い。このためカベルネ主体のワインに現れるブラックカラントのアロマがやや控えとなる一方で、メルロー由来のソフトなプラム感がでやすい印象がある。また、カベルネ主体のワインと比べるとタンニンの収斂味も穏やかで、酸味もしばしば柔らかい印象がある。つまり、ポイヤックやサン・ジュリアンのワインよりもやや早く飲み頃を迎えてくれるというわけである。

こう聞くと愛嬌があってわかりやすいというイメージを持たれるかもしれないが、実際はそうシンプルではない。オー・ブリオンのスタイルは決してわかりやすいとは言えず、むしろブラインドテイスティングで好印象を与えるタイプではなく、試飲に向くワインでもない。このわかりにくさの理由は、鉱物的なミネラルと大地のニュアンスが作る独特な気品と複雑味に、果実味がすっぽりと覆われてしまっているからである。砕いた岩や鉛筆の芯、あるいは鉄鉱石を感じさせるミネラルが硬さを与え、タバコや西洋スギをまとった土の香りがセイボリーな複雑味を生んでいる。こうした要素がオー・ブリオンのコアともいえる独特なエレガンスを作る一方で、わかりにくさにもつながっている。

ラトゥールよりもパワーは控えめで、ムートンのような派手やかさはなく、ラフィットよりも大地香が強いが、マルゴーほどのフローラルさはない。この絶妙なポジションとバランス感がオー・ブリオンの立ち位置なのである。

 

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