Maule Valley（マウレ・ヴァレー）

セントラル・ヴァレーの南端に位置するマウレ・ヴァレーはチリで最大の畑面積(約30000ha)を誇る。

伝統的にこの地は大量生産の安ワイン産地として知られていた。現在でもこうしたワインは中央部の温暖で肥沃な畑から生産されているが、一部では驚くほど高品質な赤ワインが造られており、そのポテンシャルに大きな注目が集まっている。

マウレ・ヴァレーはチリで初めてブドウが植えられた場所の一つに数えられ、ブドウ栽培の歴史はスペインによる植民地時代にまで遡る。この地はチリで最も成功したバルク産地の一つといっても過言ではなく、その証拠に今でも多くのパイス(Pais)が植わっており、その名残が見られる。一方で、この流れは変わってきており、ここ20年ほどの間でマウレの生産者たちは品質向上に向けて動き出した。大量生産のバルクワイン用のパイスは、カベルネ・ソーヴィニヨン、カルメネールやマルベックなどの品種に一部植え替えられ、またモダンな設備が取り入れられたことでより丁寧なワイン造りが可能となった。

また、Vignoもマウレ高品質化に一役買っている。2010年に創立されたこのグループは、自発的な生産者たちの非公式な集まりで、マウレの古樹のカリニャンのポテンシャルを世に示すべく創立された。メンバーは様々で大手ではウンドラーガ(Undurraga)やコンチャ・イ・トロ(Concha y Toro)から小規模なギルモア(Gillmore)やメリ(Meli)など。彼らの尽力もあって、現在マウレ西部の高樹齢・無灌漑のカリニャンへの注目がひときわ高くなっている。

テロワール

セントラル・ヴァレーのスター産地といえばマイポ・ヴァレーやコルチャグア・ヴァレーだが、マウレ・ヴァレーはそれらのはるか南に位置しているため、気候はわずかに涼しく年間降雨量も多い。このおかげで、ブドウはなんとか夏を生き抜くことができ、生産者は多くの畑で無灌漑栽培に踏み切ることができる。水分ストレスによって収量こそ下がるものの、より凝縮した高品質なブドウが取れるからである。日射しは他エリア同様に強烈で日中は暑くなるが、夜は冷える。この気温差がブドウの生育期間を引き伸ばし、完熟フレーバーと酸の見事なバランスを生む。

アンデスから太平洋へと東西に流れるマウレ川の存在も忘れてはいけない。川はこの地に沖積土をもたらし、場所によっては花崗岩、赤粘土、ローム、砂利など多様な土壌が見られる。山脈付近は斜面の土壌の水はけがよく、川岸のような低地の土壌はより肥沃で大量生産に向く。

味わいの特徴

マウレ・ヴァレーはチリで最も歴史あるワイン産地の一つであるため、数多くの高樹齢・株仕立てのパイスやマスカット・オブ・アレクサンドリアが残っており、その多くは100-200歳である。こうしたブドウは伝統的には地元消費用の安ワインに用いられていた。しかし、近年こうしたブドウに対する注目が高まり、現在とりわけパイスから目をみはるような品質のワインが生まれている。

こうしたワインは、色調は淡く、ミディアムボディにミディアムの酸を持ち、ストロベリー、ラズベリーのアロマにしばしばスパイスやハーブのノートが混ざる。タンニン量は通常低めだが、ざらつくこともあるため、そのため抽出は優しく行うか、あるいはカーボニック・マセラシオンといったテクニックがしばしば用いられる。

また、マウレはチリのどこよりも多くのカリニャンを持ち、多くは高樹齢の株仕立てで、この地に初めて植えられた1940年代のものが多い。現在このワインに対するリバイバルが起こっているが、これはVignoによる功績が大きい。彼らは高樹齢の無灌漑カリニャンを推しており、とりわけマウレの南西部海岸寄りのカウケネス(Cauquenes)から素晴らしいカリニャンが生み出されている。このワインはラズベリー、チェリー、ブラックプラムなどのフルーツにしばしばスパイスを伴い、高めの酸とタンニンを持つ。

品質は高く小売価格で6000円を超えるような本格的なものもある。他方、スペインの巨匠ミゲル・トーレス(Miguel Torres)はマウレ西部のエンペドラド(Empedrado)にあるスレート主体の畑に植わるピノ・ノワールに大きく投資をしており、このワインのポテンシャルに非常に期待している。