Tenuta Tignanello(テヌータ・ティニャネロ)

既成の枠にとらわれない型破りなワインで世を魅了するテヌータ・ティニャネロは、誰もが認めるキアンティ地区のスーパースターである。

 

歴史

ボルゲリのサッシカイアが市場デビューした1970年代初期、キアンティではアンティノリ家が独自のブレンドに取り組んでいた。サンジョヴェーゼに少量のカベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランを加えたこのワインは、様々な点において「異端」であった。なぜなら、当時のキアンティ・クラシコ規定では国際品種の使用が許可されていないだけでなく、白ブドウ(マルヴァジアやトレッビアーノ)のブレンドも義務付けられていたからだ。さらに、熟成には伝統的な大樽ではなくフレンチオークのバリックが用いられていた。規定と伝統をことごとく無視したこの「異端児」がキアンティ・クラシコを名乗ることは当然できず、このワインは格下のテーブルワイン「ヴィーノ・ダ・ターヴォラ」としてリリースされた。かくしてティニャネロは市場デビューを果たしたが、最初のヴィンテージ(1971年)が1974年にリリースされるとすぐに世間の注目が集まり、どのキアンティ・クラッシコよりも高い価格で取引されるようになった。

ティニャネロの成功が世界的な広がりを見せる中、アンティノリ家にはさらなる偶然の幸運が訪れる。1978年の収穫期、カベルネ・ソーヴィニヨンが驚異的な豊作を記録し、ティニャネロへのブレンド分を差し引いても十分に余ってしまう状況となった。当時のアンティノリ家の当主ピエロと伝説のエノロゴ・ジャコモ・タキスは、この行き場のない高品質なカベルネだけで、別のワインを作ってみてはどうだろうか?と考えた。これがソライアを生んだのである。当時イタリアで最も影響力のあったルイジ・ヴェロネッリはデビュー直後のソライアを試飲し、その並外れた品質を絶賛した。

ティニャネロとソライアの成功によって、ワイナリーはカルト的な地位を築いたが、その成功の真の偉大さは、産地の概念と法律を変えてしまったことにあるだろう。1990年代、キアンティ・クラッシコ協会はトスカーナのために新しい「IGT」という呼称を創設し、生産者により大きな自由と柔軟性を与えた。白ブドウ品種の義務付けは段階的に廃止され、ボルドー品種の最大20%までの使用が許可された。これが意味するのは、「異端」だったティニャネロの成功とその影響によって、新たな「常識」が作られたということである。

その後、1992年にジャコモ・タキスがアンティノリを引退すると、ワイン造りのバトンは現在CEOを務めるレンツォ・コタレッラに引き継がれた。

 

130haの広大な畑は、キアンティ・クラッシコの北部に広がっている。ティニャネロとソライアを生む2つの畑はともに、海抜300m-450mに位置しており、グレーヴェ川とペーザ川の間のなだらかにうねる丘陵地にある。土壌はアルバレーゼ(硬い石灰岩)とガレストロ(薄く層状に割れる泥灰岩)が混在している。両者はともに排水性に優れ、豊富なミネラルを含んでいる。

両者の違いを詳しくみてみると、ティニャネロの畑は57haと広く、地形がより複雑で畑の向きも多岐にわたっている。土壌はアルベレーゼに加え、ガレストロが風化した粘土の割合がわずかに高く、土に深さがある。この粘土がもたらす適度な保水力が、極端な乾燥を嫌うサンジョヴェーゼにプラスに働いている。一方、ソライアの畑は20haと小さく、最も日当たりの良い南西向きとなっている。土壌はこの丘陵エリアの中で最もアルベレーゼの露出が激しく、土というよりもむしろ「白い石の海」というべき場所もあり、石がちで非常に痩せている。この日当たりの良さと石の多さによる熱蓄積の相乗効果は、フェノールの成熟に時間がかかる晩熟のカベルネ・ソーヴィニヨンに好都合となっている。

 

栽培

テヌータ・ティニャネロでは、かつて日当たりの良さと豊潤さが求められていた。しかし気候変動の影響を受け、現在はよりモダンでフィネスに富む味わいに重きが置かれている。このスタイル変遷の過程において、畑では様々な施策が行われてきた。

まず、植樹密度が下がった。「30〜40年前の植え方は、今日の天候には適していません」というピエロ・アンティノリ。その理由は、ブドウ木同士の競争を高める高密度には、水分ストレスを助長する側面があり、高温・干ばつといった現在の気候においてはマイナスに作用しするからである。

次に、畑の向きも変化した。30年前はできるだけ多くの日照量を得るために「太陽を向く」ことが優先されたが、現在は逆にできるだけ「太陽に背を向ける」ように植えることで、強烈な日差しからブドウを保護するようにしている。

さらに、この土地ならではの施策もみられる。ガレストロやアルバレーゼを砕いてとれた

白い石を各ブドウ木の幹の周囲に散布するのである。通常ブドウ木の内部に日を当てるためには除葉して光の通り道を作る必要があるが、葉を取ると直射日光で果実が日焼けするリスクがある。そこで砕いた白い石を使うことで、房周辺に葉を残して日焼け防止をしながらも、反射光を使用して太陽熱を内部へ届けて果実を完熟に導くことができる。これは特にサンジョヴェーゼに効果的で、ブドウはより早く、そして糖分とフェノールの熟成が同時に起こることで、より均一に熟すようになった。

 

醸造

ティニャネロもソライアも発酵は円錐形の木製発酵槽で行われる。「サンジョヴェーゼは、扱い方次第で、エネルギッシュにもヒステリックにもなり得ます」とコタレッラは言い、このブドウの高い酸度とタンニンについて指摘する。適切に扱えば、「垂直的な感覚」を与えてくれるが、管理を誤ればワインは攻撃的になり、飲みにくいものになってしまう。したがって、優しい抽出(主にルモンタージュ)が鍵となる。マセラシオンの期間は年によって異なるがおおよそ20日前後となる。

熟成ではオーク樽が使用されるが、テヌータ・ティニャネロでは、樽を注文するタイミングにまでこだわっている。かつては事前オーダーが慣例だったが、現在は収穫後にその年のワインの特性を把握したうえで、木材の種類、多孔性、トーストのレベルを選んで注文している。ワインとタンニンの個性がより明確になるまで選択肢を残しておくことで、その後の工程におけるタンニン管理の精度が向上するからである。「赤ワインの品質は、タンニンの扱いによって決まる」とコタレッラはいう。「樽の選択を後にずらすことで、そのヴィンテージ、ブドウ品種、そしてテロワールを最良の形で表現できる」。

それぞれのワインの熟成をみてみると、ティニャネロは以前バリックのみを使用していたが、2019年頃からより大きなトノー(中樽)を導入。また、オーク材のシーズニング(乾燥)をより長めに取り、トーストレベルを下げる方向にシフトしている。新樽率は約50%だが、オークの産地はフランスだけでなく香気が控えめでニュ―トラルなハンガリーも含まれている。一方、ソライアはフレンチオークバリックのみ(新樽100%)で熟成させる。

 

味わい

ティニャネロとソライアはどちらもアンティノリ家の最高傑作であり、同じ丘で同じブドウ品種を用いて作られる兄弟のようなワインである。しかし、その性格は異なる。コタレッラはティニャネロを「垂直方向への上昇感(リフト感)とエネルギーを備えたワイン」とし、ソライアを「持続的なパワーを持つワイン」と表現している。

サンジョヴェーゼ主体のティニャネロは、鮮やかな赤系果実(チェリー)にバルサミコのニュアンスを持つ。タンニンはチョーキーできめ細かく、繊細で洗練された味わい。サンジョヴェーゼの純粋な果実味を守るために用いられる大きめなトノーとニュートラルなハンガリー産オークによって甘やかな樽感は抑えられている。一方、カベルネ主体のソライアは、日当たりが最も良い区画であるため、よりダークな黒系果実の凝縮感が強くでている。強固なタンニンを持ち、その骨格は新樽100%のバリックによってさらに強化されている。またソライアの方が樽の影響が強いため、よりクリーミーで甘やかなフレーバーが感じられる。

どちらのワインにも共通して言えるのは、時代とともにそのスタイルが変化しているということである。1980年代はクラシカルなボルドーにインスパイアされたものであり、1990年代は、当時の世界的な潮流がそうであったように、熟度と凝縮感が強調されたカリフォルニア・インスパイアの味わいであった。そして2000年代に入ると、収穫が早まり、力強さよりも土地を想起させるフィネスとバランスにフォーカスがシフトしていった。いわゆるブルゴーニュ・インスパイアである。そして現在、熟度の高いブドウにバランスを与えるために、カベルネ・フランのブレンド比率を上げている。これによってフレッシュさが増加し、またフラン由来の甘く柔らかいタンニンが、カベルネ・ソーヴィニヨンとサンジョヴェーゼの収斂性を見事に和らげ、質感の滑らかさが向上した。

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