Ch. Lafleur(シャトー・ラフルール)
有名だが謎多きシャトーの代表格であるラフルール。生産量の少なさと、ボルドー取引所を通らない限定された流通網によって、市場価格はしばしば5大シャトーをも上回る。
目次
歴史
土地としてのラフルールの歴史は古く、15世紀にはその名が登場する記録が残されている。1872年にこの地を購入したアンリ・グレルーは、所有するシャトー・ル・ゲイと分けて管理するために「ラフルール」を新設した。1915年、アンリの息子シャルルが子孫を残さずに逝去すると、親戚にあたるアンドレ・ロビンがラフルールとル・ゲイを相続した。その後1946年からはアンドレの娘(マリーとテレーズ)がオーナーとなった。姉妹が老いて病弱になると、ブドウ畑と醸造の管理はペトリュスでおなじみのクリスチャン・ムエックスとジャン=クロード・ベローに任されるようになった。1982年からこのタッグがラフルールを手掛けたが、1984年にテレーズが亡くなると、マリーはラフルールの管理を親戚のジャック・ギノドーと妻シルヴィに依頼するようになった。2001年にマリーが逝去すると、夫妻はル・ゲイを売却して得た資金で2002年にラフルールを購入した。2012年からはジャックの息子バティストとパートナーのジュリーがラフルールを引き継いでいる。
ラフルールは2025年にポムロールのアペラシオンからの離脱を発表して業界に衝撃を与えた。シュヴァル・ブランとオーゾンヌによるサン・テミリオン格付けの脱退ニュースがまだ記憶に新しいが、今回のラフルールの決断による影響の範囲ははるかに大きい。なぜなら、それは「格付け」ではなく「AOCそのもの」からの離脱であり、生産されるワインは今後「ヴァン・ド・フランス」を名乗ることになるからである。前代未聞ともいえるこの転換の背景には、気候変動と伝統的ルールによるせめぎあいがあった。温暖化による熱波や長引く干ばつは、ブドウ木に多大な水分ストレスを与え、従来のブドウ栽培の存続を脅かしている。ところが伝統という名のAOCはポムロールにおける灌漑を今まで通りに制限する。「変わらないためには変わるしかない」と決断したラフルールは、ブドウを守るために灌漑を実施した。こうした措置を講じた以上、AOCを離脱する以外に選択肢はなかったのである。規制からの脱却によって、ギノドー家は「ブドウ畑の永続性、ワインの品質とアイデンティティ」を妥協なく自由に追い求めることができるとデカンター誌に語っている。
畑
ラフルールの畑は4.58haと非常に小さく、隣接するペトリュスの半分にも満たない。しかしその小さな規模にもかかわらず、畑には4種類の土壌が複雑に組み合わさっており、お隣の「青い粘土」とは大きく異なる。ほぼ正方形の畑の東側には砂利の多い礫質土壌が見られ、北側と西側では礫が粘土層を覆っており、南側の礫質土壌には砂が混ざっている。4つ目は畑を東西に斜めに横切る帯状区画に見られ、ここだけが典型的なポムロールの土壌、すなわち深い粘土質土壌となっている。礫が優勢な前者の3エリアからはファーストのラフルールが、粘土が優勢な後者からはセカンドが生まれる。
ラフルールのユニークさは礫の多さだけではなく、カベルネ・フランの存在感にもある。畑全体の約半数を占めるこの品種は、「ブーシェ」と呼ばれ一般的なフランとは区別されている。ブーシェとは先代アンドレ・ロビンが育てていたカベルネ・フランの遺伝子を継ぐ「貴重な生き残り」である。1956年にポムロールを襲った霜害は畑に壊滅的なダメージを与え、ほとんどの生産者はメルローに植え替えた。しかし、アンドレの娘たちは畑に手を加えなかったため、カベルネ・フランは畑に残り続けた。この生き残りの遺伝子を守るためにジャックはマッサル・セレクションを行い、そのバトンが「ブーシェ」として現在にまで渡っているのである。醸造責任者のオムリ・ラムは、「真の」ブーシェを保有するのはラフルール、シュヴァル・ブラン、オーゾンヌの三軒のみだと主張する。
栽培
「高品質には低収量が不可欠」という話はよく耳にするが、ラフルールにおいてはその限りではない。「低収量を好むわけではなく、品質に不可欠だとも考えていない。ましてやワインのバランスにとって必須だとは到底思えない」とデカンター誌に語るオムリは、人為的に収穫量を抑えることをせず、自然な収量を尊重する。それでも他のシャトーよりも収量が低くなるのは、「礫の多い土壌の特性」と「古木による自然な抑制」によるものだという。
恵まれたテロワールを持つラフルールであっても、近年の気候変動はかつてないほどの脅威となっている。ブドウの水分ストレスを減らすために畑では様々なアプローチが取られており、例えばキャノピーの高さを減らしてラテラル(側枝)の成長を促進させ、ブドウへの直射日光を遮る「日傘」をつくっている。そして2025年の灌漑もその1つである。こうした対策によりブドウはなんとか生育期を切り抜けているが、それにはAOCの離脱という代償が伴った。しかし、ラフルールはAOCが許可しない手法を用いて気候変動に適応することが、ブドウ畑の将来的な存続につながると信じている。
醸造
アルコール発酵はコンクリートタンクを使用し、ブレンドは収穫翌年の2月頃に行われる。ラフルールは土壌の組成が不均一でかつ二種類のブドウ品種を使用しているため、最終的なブレンドが決定されるまで数多くの試作が行われる。フランとメルローの比率は年によって多少変わるが、ほぼ同率となっている。熟成はダルナジュー社の樽で約18ヶ月行う。新樽率に関しては、以前は約50%だったが、近年は20%前後というボルドー全域の同格シャトーの中でも最低水準となっている。熟成後はステンレスタンクで休ませた後に瓶詰めとなる。
味わい
ラフルールの味わいを一言で表現するとしたら、「左岸とポムロールのハイブリッド」だろう。純粋な粘土質×100%メルローによる強烈でエキゾチックな豊かさを持つペトリュスに対し、粘土に多くの礫が混ざるラフルールには「厳格なミネラル感」がある。そこにカベルネ・フランが加わることでメドックを彷彿とさせる「抑制された優雅さ」が備わる。上品なフローラルさと硬質な口当たりは、隣人のペトリュスよりもむしろシュヴァル・ブランに近いといえる。若いうちは内省的で気難しさもあるラフルールは、大衆受けするタイプではない。実際ポムロールで最も瓶熟成と忍耐が必要なワインの一つと言っても過言ではなく、硬質なストラクチャーがほぐれてフランとメルローが調和するまでには時間がかかる。しかし、偉大な左岸のワイン同様に、然るべき熟成を経て硬さがほぐれると、妖艶な芳香がグラスから溢れ出し、得も言われぬスレートのような質感のミネラルが現れる。
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