ボルドーの新品種は地球温暖化の救世主となるか

ボルドーの新品種は地球温暖化の救世主となるか

 

2019年6月、ボルドーは今までAOCの規定で使用が認められていなかった品種をフランスで初めて認定しました。今回新たに認定されたブドウ品種は、白ブドウ品種のプティ・マンサン、黒ブドウ品種のマルセランやトウリガ・ナショナルなどの品種です。近年、地球温暖化による気候変動がブドウの成長環境に大きな影響を与えていますが、新たな品種の導入によって解決策が見出せるかもしれません。これらの新品種の導入を許可されたのはAOC BordeauxとAOC Bordeaux Superieurの2つのアペラシオンです。新品種の栽培は作付面積の5%以内に抑えること、またアッサンブラージュでの使用は10%までという条件付きではありますが、伝統を打破することに保守的な官僚が多いフランスにおいて、これは非常に大きな動きです。

 

しかし、このような革新的な発表があったにも関わらず、当初ボルドーの生産者たちの動きは不思議なほど静かでした。栽培量に大きな変化が見られたとか、何組の生産者がこの案に賛同したとか、具体的な詳細が上がってこなかったからです。AOC Bordeaux/Bordeaux SuperieurのシニアメンバーであるFlorian Reyneによると、ボルドー当局はこのプロジェクトを可能な限りプライベートに進めることを望んでおり、「一部の生産者は植樹の準備を開始しており、既に作業に取り掛かっている生産者もいますが、いずれにしろ詳細はトップシークレットなのです」と述べています。

新品種決定までのプロセス

もちろん突発的に新品種の導入が決議されたわけではなく、認定にあたってはINRA(フランス国立農学研究所)が長期にわたる研究と実験を重ねてきました。「それらの品種がボルドーの地に最適なものであるか、気候変動に適応することが可能かなど、専門家の意見を参考にしながら慎重に研究を進めてきました。むやみに新品種の栽培を推奨していくのではなく、将来的なオプションの1つとして取り入れていくことが最良の案だと考えています」とReyneは述べています。

 

しかし、ボルドーの生産者の中では品種決定までのプロセスと、多様なボルドーの土壌で特定のブドウを移植することに対して疑問の声が上がっています。あるボルドーの醸造家(以下、仮名をJean-Lucとします)は、品種の決定にあたってテロワールの適応性だけでなく、政治的な思惑も感じられると語ります。「ボルドー当局は既にフランス国内で名声を得ている品種の導入は認めませんでした。その例がローヌの主要品種であるシラーです。シラーは温暖な気候のもとで良く育ちますから、今後気温の上昇に伴ってボルドーの特定のエリアでも良質なシラーが作れるはずです。」実際に、INAO(国立原産地名称研究所)が他エリアの象徴的な品種は認定しなかったとReyneは認めます。しかし、ボルドーのブドウ栽培の未来はテロワールの適合性に基づいて考えられるべきで、政治的な思惑で決定されるべきではないはずです。

トウリガ・ナショナル

一方、特定の新品種に対する反対意見も挙がっており、中でも一番の論争の的になっているのがポルトガルを原産とする黒ブドウ品種、トウリガ・ナショナルです。ポルトガルの醸造家Jorge Alvesも、この品種の栽培がボルドーの土壌に適さないことを指摘しています。トウリガ・ナショナルの栽培が適している環境は、暑さや日照といった条件だけではありません。この品種が上手く育つことができるのはシストと花崗岩の土壌で、これらの土壌はボルドーでは一般的ではありません。Alvesも「トウリガ・ナショナルは暑さとの相性は良いのですが、ボルドーで一般的に見られる粘土石灰質の土壌で栽培に成功したという記録は残念ながら残っていません」と説明します。AOCに認定されるよりもずっと前にサンテミリオンでトウリガ・ナショナルの栽培を試みたことがあるというHubert de Bouardは、「ブドウの出来は非常に残念なものだった」と振り返り、他の品種の可能性を何年間も追及しているものの、未だに納得のいくブドウが育ったことはなく、その難しさを懸念しています。

 

しかしながら、Bouardは単に新たな試みに対して保守的なわけではなく、気候変動に合わせて栽培品種を調整していくことは重要なことだと考えています。例えば、気温上昇の影響でメルロは糖度とアルコール度数が高くなり、酸が低くなる傾向が見られます。現在、ボルドー右岸の主要品種はメルロですが、ワインのバランスを保っていくためにカベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランの比率が増加していくだろうとBouardは話します。実際に、右岸のポムロール地区に位置するChateau L’Evangileではカベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランの栽培量を増加しています。

ジェネリックとラグジュアリーボルドーの格差

新品種のブレンドをBordeaux やBordeaux Supérieurに限定するという考えは、ジェネリックとラグジュアリーのボルドーの違いを悪化させるだけです。ラグジュアリーなボルドー、つまり格付けに載るようなシャトーたちは伝統的な品種に目を向けているので、現段階ではカベルネがしっかりと熟してくれるようなヴィンテージで安心します。彼らはボルドーの伝統品種にフォーカスしながら、臨機応変に対応します。一方ジェネリックなボルドー、つまり広域AOCワインの生産者たちは存命に必死で新品種に焦点を当てています。しかし、それはボルドーのテロワールとは全く合わないことを証明するだけになるかもしれません。

 

今回の新品種の導入は、地球温暖化問題に頭を抱える生産者へ希望の光を与えたことは確かで、ゆくゆくは格付けシャトーにもその考えが浸透していくかもしれません。しかしながら、著名なシャトーたちが実際に新品種を受け入れるようになるにはもうしばらく時間がかかるでしょう。

引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2020/11/bordeauxs-new-grape-varieties-take-root

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