ナパは「ポスト・カベルネ」の未来を検討している

ナパは「ポスト・カベルネ」の未来を検討している

ナパとカベルネは切っても切れない関係にあるが、ベテランのワイン業界人でさえ「この関係はあとどれくらい続くのか?」と疑問を抱き始めている。


かつてナパ・ヴァレーでは、クルミ、洋ナシ、ホップ、クリスマスツリーが栽培されていた。1960年代には、米国オリンピック馬術チームが、ナパ・ヴァレーの巨大な馬牧場で訓練していた。

 

今日、ナパ・ヴァレーは北米で最も高価な農地となり、ブドウの単一栽培地域となっている。あの馬の牧場はどうなったのだろうか? 今ではその広大な土地のごく一部で「300ドルのカベルネ」が栽培され、残りは自然保護区になっている。それは素晴らしいことだが、自然保護区で生計を立てられる農家はいない。

 

ワイン業界の専門家が「ナパはカベルネを造りすぎている」と言うのは簡単だ。そしてそれは紛れもない事実である。昨年、ナパではおそらく史上初めて、カベルネのブドウをすべて売り切ることができなかった。たとえブドウが売れていたとしても、倉庫には売れ残ったカベルネのボトルが山積みになっている。

 

私には、ぜひ答えを知りたい疑問があった。「ナパ・ヴァレーの土地は、ブドウ栽培以外に何に使えるのだろうか?」

 

最もわかりやすい答えは「住宅」だろう。しかし、ナパ郡の農業保護法により、市外に新しい住宅を建設することできない。ナパの有権者は自ら農業の未来を選んだのだ。では、他に何を栽培できるのだろうか?

 

何人かの業界専門家に尋ねたところ、専門家の中の専門家であるTony Correiaを紹介された。彼と話すのは初めてだったが、彼は農業用不動産の評価における第一人者とされている人物である。

 

昨年、Wine Business Journalの調査記事では、ナパの小規模ブドウ畑(1〜10エーカー /約0.4〜4.0 ha)の評価額が、1エーカーあたり110万ドル(約1億6,500万円)を超えていたと示された。ナパのブドウ畑全体の平均価格は、1エーカーあたり33万6,000ドル(約5,040万円)だった。

 

比較として、ワイナリーが立ち並び、オースティンからの移住者でブームとなっているテキサス州中部の美しいヒル・カントリーを例に挙げてみよう。ヘルシャー・ランチ・グループによると、現地の地価は1エーカー(約0.4ha)あたり8,000ドル(約120万円)から20,000ドル(約300万円)にすぎない。これを見れば、ナパのブドウ畑の所有者たちが、自分たちの高額な土地からなんとか価値を引き出したいと焦る理由がわかるだろう。

 

しかし、ここ5年でCorreiaの仕事の状況は変化した。売りたい人は大勢いるのに、買いたい人はほとんどいないのだ。では、いったいその土地で何ができるのか。

 

「セントラル・コーストの多くの場所は、かつては野菜畑でした」とCorreiaは言う。「ブドウの樹を抜いて、野菜栽培に戻すことは可能です。しかし、ナパ・ヴァレーではそれは経済的に成り立ちません」

 

Correiaは、農作業がしやすく、かつて様々な作物が植えられていたナパの「谷底(平地)」と、事実上ブドウ栽培にしか適していなかった「丘陵地」を区別している。「適していた」という過去形に注目してほしい。人々は丘陵地のブドウ畑を無理やり引き抜いているわけではないが、新しく植えることもしていない。それは単に条例による規制のためだけではないのである。

 

「山火事という現実が、人々を丘陵地から遠ざけました」とCorreiaは語る。「もはや誰も丘陵地を開発しようとは思いません。ブドウ畑はもちろん、特に住宅は火災保険の都合で建てられないからです」

 

損の上塗り

これは実にやっかいである。ある土地に数百万ドルを支払ったのに、そこでは何もできないと知った場面を想像してほしい。Alpha Omega wineryが、600万ドル(約9億円)で購入したマウント・ヴィーダーのブドウ畑の銀行ローン返済を停止し、3月に差し押さえ通知を受ける事態になったのは、決して偶然ではない。

 

Alpha OmegaのオーナーであるRobin Baggettは、Napa County Times紙に対し、「これ以上、損の上塗りを続けるわけにはいかない」と語った。Baggettはこのブドウ畑について「かつては大きな価値がありました。しかし今は大した価値はありません… これが今の時代を象徴しています」と述べている。

 

銀行にとっても、この物件を抱え込むことは喜ばしいことではないだろうとCorreiaは指摘する。

 

「前回の好況期には、ブドウ畑の価格は劇的に跳ね上がりました。一部の物件を相場以上の高値で買ってしまった人もいます」とCorreiaはWine-Searcherに語った。「銀行はブドウ畑の差し押さえには消極的になるでしょう。借り手と同様に、自分たちが畑を抱え込んでも良い結果にはならないと学んだからです。しかし、手元に資金がなく、借金だけがあり、買い手市場も存在しないような場所は今後も出てくるでしょう。単に売り抜けたいだけであっても、売却に苦労する人々が出てきています」

 

谷底(平地)は農作業がしやすく、山火事の脅威もないため、丘陵地よりも高い価値がある。しかし、地元の人々がクリスマスツリー農場のような光景を再び目にするようになるまでには、まだ一世代かかるかもしれない。それを実現するには、おそらく同じ物件で複数回の倒産を経る必要があるだろう。

 

セント・ヘレナにある43エーカー(約17.4 ha)のBenessere Vineyardsの物件は、2年間買い手がつかず、5月オークションにかけられる。オークションは投げ売りであり、誰かが買うことにはなるだろうが、所有者が2年前に提示していた3,500万ドル(約52億5,000万円)という希望価格には到底及ばない。

 

「私が知る最も賢い人たちの何人かは、まだ底を打っていないと考えています」とCorreiaは言う。「まだ本気で買いに走る時期ではありません。今年1年を耐え抜く中で、事態はさらに悪化すると思います」

 

カリフォルニアの他の地域では、ナッツ類が優れた換金作物となっていますが、大量の水を必要とするため、Correiaはナパ・ヴァレーには向かないと見ている。また、ワシントン州のワイン産地の一部ではチェリーも栽培されており、チェリーのほうが利益が大きいと語る農家もいる。

 

「チェリーは楽に儲かるものではありません」とCorreiaは言う。「非常に不安定な作物です。ある年は大豊作でも、翌年には全く駄目になることもあります」

 

さらに彼は、現在進行中のアメリカの貿易摩擦が、チェリーのような高付加価値農産物の輸出を複雑にしていると指摘している。

 

Correiaによると、ナパのカベルネの最大の問題は、20年前の「カベルネ・ゴールドラッシュ」の時代に、水はけが悪く栽培に適さない湿地帯のような平地にまで、誰もがカベルネを植えてしまったことだと言う。そうした土地の一部は、ソーヴィニヨン・ブランやシュナン・ブランなど他のブドウの栽培には適している。しかし、カベルネの数分の一の価格でしか売れないブドウを栽培するよう、畑のオーナーを説得するのは難しい。

 

「ナパ・ヴァレーの平地の多くは、カベルネの栽培に適していません。うまく熟さないのです」とCorreiaは語る。「以前、ナパの顧客にこう言ったことがあります。『こんな川沿いの湿った土地でカベルネを育てるつもりですか?』すると彼は、『ここでカベルネを育てれば、どんな品質でも3つのワイナリーから契約が取れるし、地区の平均価格を支払ってくれる』と答えました。しかし、今はもう違います。そのブドウは地区の平均価格で売ることはおろか、全く売れない可能性すらあります。これは昔ながらの需要と供給のサイクルではありません。構造的な変化なのです。私たちは、今後これまでのようにワインを売ることはできないでしょう」

 

Correiaが顧客に勧めるのは、植える前に契約を取ることだ。ワイナリーがソーヴィニヨン・ブランを買うと約束してくれるなら、それを植えればいい。

 

では、契約が取れなかった場合はどうするべきか?10年前のナパ・ヴァレーなら誰も口にしなかったであろう答えがある。それは何もしないことだ。

 

「50年間そこにあったブドウ畑を引き抜いたら、数年間は土地を休耕させてください」とCorreiaは言う。「土地を回復させるのです。そして、ワイナリーが植え付け前の契約を持ちかけてくるようになるまで、様子を見るのです」

 

ナパ・ヴァレーの土地の最善の用途が「休耕させること」かもしれないなどと、わずか5年前の誰が想像できただろうか? まったく実に奇妙な世の中になったものだ。

 

 

引用元:Napa Considers a Post-Cabernet Future

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