Paso Robles（パソ・ロブレス）

カリフォルニアのワイン産地というと、どうしてもナパやソノマのあるノースコーストに目が向きがちだが、南にあるセントラル・コーストを見逃してはならない。サンフランシスコからサンタ・バーバラまで太平洋沿岸を約280kmに渡って南北に広がるこのエリアは、内陸部も約100kmカバーする横幅がある。産地を北から順に見ていくと、サンフランシスコ湾周辺のリヴァモアやサンタ・クルズ、その下にモントレーがあり、さらに南下するとサン・ルイ・オビスポとサンタ・バーバラがある。

セントラル・コースト最重要AVAと言っても過言ではないパソ・ロブレスは、サン・ルイ・オビスポの北半分をカバーする巨大なエリア(約270,000ha)である。一昔前までこの地はサブリージョンを持たないカリフォルニア最大のAVAであり、その規模はナパ・ヴァレーの約3倍であった。その後2013年にサブリージョン設立の動きが起こり、AVA内に11の小地区が誕生した。これにより改めてパソ・ロブレスの土地の多様性が浮き彫りとなり、200m〜700m超という幅広い標高や多様な土壌を持つことに加え、場所によって大きく変わる太平洋の影響に注目が集まった。サブリージョンの中でもひときわ目立つのは、北西の海岸山脈にあるアデライダ(Adelaida)であり、ダオ(Daou Vineyards)などがボルドー系品種からプレミアムワインを生み出している。

テロワール

パソ・ロブレスには、谷底エリア、丘陵エリア、そして標高700m近い冷涼な山脈エリアと多様な地形が見られる。一般的に、東部(内陸)は気候がより温暖であるためワインはフルボディとなり、凝縮感のある完熟果実のフレーバーが特徴になる。一方、西部は太平洋に近いためより涼しくなり、ワインはよりフレッシュで酸の高い味わいが特徴となる。西部のテンプルトン・ギャップ(Templeton Gap)と呼ばれるサブリージョンでは、海と畑の間に横たわる海岸山脈が低くなるため、この隙間から海風や霧が侵入し、西部エリアの気温をぐっと下げる。こうしたエリアでは冷涼品種であるピノ・ノワールやシャルドネが見られる。

また、パソ・ロブレスの土壌は極めて多様で、一つの畑に複数の異なる土壌が見られることも稀ではない。基本的に母岩は花崗岩と火山性または海洋性の堆積岩が層になって構成され、そこに砂岩、泥岩、石灰を含むシェールが混ざり合って薄い層を作っている。これは表土が厚く肥沃な土壌が支配的なカリフォルニアにおいて極めてユニークと言える。また石灰を含むのもカリフォルニアにおいては割と珍しく、土壌に粘土と石灰を含みかつ降雨量もそれなりにあるエリアでは無灌漑栽培が可能となる。

味わいの特徴

パソ・ロブレスではリッチで凝縮感のあるスタイルが典型的で、黒ブドウ品種がほとんどを占めている。最も植樹が多いのはカベルネ・ソーヴィニヨンで、全体の約40%を占めている。メルロー、シラー、ジンファンデルもよく見られ、さらにグルナッシュやムールヴェードルなど幅広いローヌ系品種が栽培されている。もともとは無灌漑によるジンファンデルでその名声を築いたパソ・ロブレスだが、現在はローヌ系品種に勢いがある。これはシャトー・ド・ボーカステル(Chateau de Beaucastel)を所有するペラン・ファミリー(Perrin Family)によって多くのローヌ品種(フレンチ・クローン)がタブラス・クリーク(Tablas Creek)に植えられ、大きな成功を収めたことがきっかけとなっている。サブリージョンのアデライダに畑を持つタブラス・クリークはカリフォルニアにおけるローヌ系品種勃興のパイオニア的存在として知られ、ローヌ系品種の最上のクローンを持つワイナリーとして不動の地位を築いている。また、サンタ・バーバラに拠点を置くもパソ・ロブレスのブドウを使ってカルトワインを生み出すシネ・クア・ノン(Sine Qua Non)もローヌ系品種の神として崇められている。

パソ・ロブレスは全体で見ると中価格帯の良質なワインが多いが、中には傑出した品質の小売価格3万円を超えるようなプレミアムワインも存在する。ダオ(Daou Vineyards)やサクサム(Saxum)、ブッカー(Booker)やラヴァチュール(L’Aventure)らが抑えておくべき重要な生産者である。