Russian River Valley（ロシアン・リバー・ヴァレー）

ロシアン・リバー・ヴァレー(RRV)はカリフォルニア・ソノマ郡の中心に位置する、全米で最も称賛を受けるトップクラスのワイン産地である。カリフォルニアで最も冷涼かつ霧がちなAVAの一つで、高品質なピノ・ノワールやシャルドネの栽培に最適な環境が整っている。ソノマを代表する超一流ワイナリーたちの本拠地でもあり、ウィリアムズ・セリエム(Williams Selyem)やキスラー(Kistler)、リトライ(Littorai)など錚々たるメンバーが名を連ねる。一昔前のカリフォルニアのピノ・ノワールといえば、ジャミーで甘ったるいものが多く、とてもエレガントとは言えない代物であったが、そんなシーンに一石を投じたのがウィリアムズ・セリエム。今までの常識を覆すような酸の高いフレッシュでエレガントなピノ・ノワールをRRVから生み出し、これがきっかけとなってRRVの明確な個性が確立し、ジャミーなピノ・ノワールからエレガントなスタイルへと味わいが変わっていった。

産地名の由来となったロシアン・リバーは、メンドシーノから南下し途中で向きを西に変え最終的に太平洋へと出る。AVAの名前になってはいるものの、この川はRRVの北端を控えめに横切っているだけで、畑の大部分は南部の平野に多く見られる。これは過去に二度ほど(2005年と2011年)AVAの境界線が南東方面に引き伸ばされたためである。これによって植樹は増え、1990年代には1600haだった畑が2013年には7200haにまで急増した。

テロワール

RRVは平地と丘陵地のどちらも含んでいるため、気候に幅がある。南部と西部は海岸山脈が途切れるポイント(ペタルマ・ギャップ)に隣接するため、太平洋からの冷たい海風がダイレクトに吹き込み最も冷涼な気候となる。加えて霧も多く発生するため、さらなる冷涼効果を生む。これがブドウの糖分蓄積スピードを遅め、高い酸を保持させ、アロマやフレーバーの要素をゆっくりと完熟させる。この冷涼エリアで最も植樹が多いのは早熟のピノ・ノワールとシャルドネである。土壌は様々で黄色砂岩から石がちな砂質粘土ロームなどだが基本的に水はけがよく痩せており樹勢と収量をコントロールしてくれる。
RRVには西部にサブリージョン、グリーン・ヴァレー・オブ・ロシアン・リバー・ヴァレーAVAがあるが、ここがRRVで最も冷涼となる。なぜなら、ペタルマ・ギャップのすぐ隣に位置するため、霧はここで最初に発生し、かつ朝霧が晴れるのが最も遅い場所となるからである。基本的にはRRVのワインと似たスタイルだが、こちらの方がより酸が高くよりフレッシュな果実のフレーバーが特徴となる。ここにはマリマー・エステート(Marimar Estate)やアイアン・ホース(Iron Horse)、またナパのジョセフ・フェルプス(Joseph Phelps)が所有するフリーストーン(Freestone)などがある。
一方、内陸の北東部では海岸山脈が作る丘陵によって海風や霧の影響を受けずに済む。このため気候はより暖かく、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、ジンファンデルといった品種に理想的な環境となり、また冷涼品種はよりリッチで完熟感の強いスタイルとなる。

味わいの特徴

RRVのピノ・ノワールはミディアム〜ミディアム＋のボディを持ち、中程度のタンニンと高い酸が特徴となる。完熟したストロベリーやレッドチェリーのフレーバーには樽熟成由来のヴァニラやスパイスが溶け込んでいる。シャルドネはミディアム〜ミディアム＋のボディに高めの酸を持ち、完熟したピーチやイエローストーンフルーツ系のフレーバーにMLFと樽熟成によるクリーミーでスパイシーなニュアンスが溶け込んでいる。どちらの品種であっても品質は非常に高く、例えば著名生産者のフラッグシップワインなどは小売価格で2~3万円といったプレミアム価格で取引される。ソノマの中でもとりわけ平均価格が高い産地であり、5千円未満のワインはほとんど市場で見られず、スタンダートレンジであっても6~7千円のものが多くを占めている。