エルニーニョの恩恵を受けるワイン産地、苦しむ産地

エルニーニョの恩恵を受けるワイン産地、苦しむ産地

記録上でも最も強いエルニーニョ現象の一つが発生しつつあります。ワイン産地にとって、それは吉と出る場合もあれば、凶と出る場合もありそうです。


熱帯太平洋では、「生きている間に経験したことがないほど」ともいわれる大規模なエルニーニョ・パターンが発達しています。世界気象機関(WMO)の予測によると、主要な監視海域では、2026年8~10月の海面水温が平年を約3℃上回る見込みです。一部のワイン産地は過酷な気候条件にさらされる一方、恩恵を受ける産地もありそうです。では、具体的にどこなのでしょうか?

 

英国気象庁などの予報機関は、今回のエルニーニョが極めて強力な現象になる可能性があると警告しています。一部のメディアでは「スーパー・エルニーニョ」と呼ばれています。英国気象庁で長期予報を統括するAdam Scaife教授は、この兆候を「前例がない」と表現し、次のように述べています。

 

「これほど強烈なエルニーニョの兆候を予報で見たことはありません。通常のエルニーニョでは、赤道太平洋の海面水温は1~2℃上昇し、2℃でも非常に大きな現象です。今回の予測が正確であり、他の予報システムでも同様の極端な数値が示されていることを考えると、2026年は、私たちが近年経験してきたエルニーニョと、それが世界の気候に及ぼす影響をはるかに上回ることになります。」

 

エルニーニョ現象は2~7年ごとに発生し、通常9~12カ月続きます。一般的には3~6月頃から発達し始め、11~2月頃に最も強くなります。この時期は南半球でブドウが生育している時期に当たります。また、エルニーニョが発生した翌年には、世界の気温に最も大きな影響を及ぼすため、北半球の次の生育シーズンにも影響を与える可能性があります。

 

AIを使って、余分な熱と水分がどこに集中する可能性があるのか、そして主要なワイン産地にどのような影響を及ぼす可能性があるのかを調べてみました。

 

苦戦が予想される産地

 

オーストラリア:

エルニーニョに典型的に見られるのは、オーストラリア東部および南部の広い地域、すなわち南オーストラリア州、ニュー・サウス・ウェールズ州、ヴィクトリア州、タスマニア州などで、より高温かつ乾燥した気候になることです。WMOの現在の予測でも、オーストラリア南部および東部では平年を下回る降水量となる確率が高まっており、国内の広い範囲で平年を上回る気温が予想されています。高温と水分ストレスは、果粒サイズや収量を低下させ、糖の蓄積を早める一方、糖度、酸、風味、フェノールの成熟度のバランスを崩す可能性があります。開花期の極端な高温は、結実にも悪影響を及ぼします。さらに、山火事のリスクも高まります。

 

さらに、別の気候現象が重なることで、状況は一段と深刻になる可能性があります。WMOは、エルニーニョと同時に*正のインド洋ダイポール(IOD)が発生すると予測しています。この2つの現象は、オーストラリアの乾燥を相互に強める可能性があります。深い土壌、十分な水分貯留能力、効率的な灌漑設備、そして耐暑性の高い品種を持つ畑は、浅く乾燥した土壌で乾地農法(ドライ・ファーミング)を行う畑よりも良い結果を得られるでしょう。ただし、AIモデルによると、西オーストラリア州、とりわけマーガレット・リバーはこうした影響を免れ、むしろ降水量が増える可能性があります。

(*正のインド洋ダイポール(IOD):インド洋西部の海水温が東部より高くなり、オーストラリアなどで乾燥しやすくなる気候現象)

 

南アフリカ:

現在のWMOの予測では、南アフリカは平年を大幅に上回る気温となる可能性が特に高い地域の一つです。光合成を維持し、果実を成熟させるための十分な水がなければ、過度な高温によってブドウ樹は生育を停止する方向へ追い込まれる可能性があります。乾燥した暑い夏は、果粒を小さくし、凝縮感のある風味を生み出す可能性があります。しかし、水分ストレスが深刻になると、果実を成熟させる植物そのものの能力が低下してしまいます。一方で、カビなどの被害が低下する可能性はプラス材料です。

 

ケープ地方の生産者たちは水不足への対応にますます慣れてきています。そのため、結果を大きく左右するのは、畑の立地と設備になるでしょう。海洋性気候の影響を受ける沿岸部の畑は、より暑い内陸部の畑よりもかなり良い結果を得る可能性があります。

 

恩恵を受ける可能性がある産地

 

チリとアルゼンチン:

エルニーニョの典型的な影響の一つに、南米南部の一部地域で降水量が増加することがあります。アルゼンチンのメンドーサとチリ中央部のブドウ畑は、灌漑用水の多くをアンデス山脈の雪解け水に依存しています。長年にわたる干ばつと水不足の後だけに、降雪量の多い冬となれば、2027/28年の生育シーズンに向けた貴重な天然の貯水池となる可能性があります。

 

山岳部の天候がどれほど極端になり得るかは、すでに示されています。最近、大雪と強風によって、メンドーサとサンティアゴを結ぶアルゼンチン―チリ間の主要国境道路が、過去最長となる34日間にわたって閉鎖されました。十分な積雪はブドウ栽培者にとって非常に大きな恩恵となる可能性があります。しかし、過度の降雪、急激な気温上昇、急速な雪解けが起これば、洪水や土壌浸食を引き起こす可能性があります。また、ブドウ畑で降雨が増えれば、収量や品質に悪影響を及ぼすこともあります。

 

カリフォルニア:

強いエルニーニョは、通常、カリフォルニアで冬に降水量が増える可能性を高めます。予想どおりエルニーニョが2026年末頃にピークを迎えれば、冬の降雨によって土壌水分、貯水池、地下水が補充され、ブドウ樹が2027年の生育シーズンを開始する前に水資源が回復することになります。長年にわたる干ばつと水不足への懸念を考えれば、これは非常に大きな恩恵となるでしょう。

 

ただし、エルニーニョによる降雨は極端になることがあります。短時間に過剰な水が供給されれば、洪水、土壌浸食、病害の問題を引き起こす可能性があります。また、冬の気温が高くなることで、高標高地域では降雪量が減少し、州全体の長期的な水資源の貯蔵能力を低下させる可能性もあります。

 

スペインとイタリア:

これらの欧州を代表するワイン大国は、エルニーニョによって有用な冬の降雨がもたらされれば、ヨーロッパで最も大きな恩恵を受ける地域の一つになる可能性があります。両国では干ばつと水分ストレスが深刻化しており、冬に十分な水分が補給されれば、2027年の生育シーズンをより良い状態でスタートできるでしょう。

 

しかし、地中海沿岸のブドウ畑は、近年ますます激しい降雨にも苦しめられています。まとまった雨が数週間降らなかった後に、1ヶ月分の雨が数時間で降ることもあります。スペインの乾地農法(ドライ・ファーミング)を行っている畑にとって、適度な冬の降雨は状況を一変させる可能性があります。一方、低地や排水の悪い畑では、極端な降雨が破壊的な被害をもたらす可能性があります。

 

英国:

英国気象庁は、エルニーニョによって今年の秋から冬にかけて、より湿潤で嵐の多い気候になる可能性が高まると予測しています。今ヴィンテージでまだ収穫されずに残っているブドウにとっては問題となる可能性がありますが、英国で非常に乾燥した夏が続いた後だけに、貯水池やブドウ畑の土壌を回復させるという点では有益でしょう。その後、予測されているように暖かく乾燥した春と暑い夏が続けば、2027年は英国のスパークリングワインやスティルワインにとって、理想に近いヴィンテージとなる可能性があります。

 

影響が入り混じる産地

 

フランス:

生産者たちは、2026年の異常な高温シーズンによる影響を、すでにブドウ樹と土壌が抱えた状態で春を迎えることになるかもしれません。もし冬に十分な降雨があれば、これはむしろ有利に働く可能性があります。水分が十分に補充された土壌と暖かな生育シーズンが組み合わされば、素晴らしいヴィンテージが生まれる可能性があります。

 

しかし、冬の降雨が十分でなければ、2027年は水不足を抱えた状態で始まる可能性があります。特にフランス南部では、そのリスクが高まります。ボルドーやフランス南西部では、夏の気温と同じくらい、水の確保が重要になる可能性があります。シャンパーニュ、ブルゴーニュ、アルザスでは、暖かな気候によってブドウの生育と成熟が早まりますが、晩霜の脅威は依然として残ります。

 

ニュージーランド:

ニュージーランドも、単純な勝者と敗者の地図には当てはめにくい国です。現在の予測では、ニュージーランド全域で平年を上回る気温が予想されています。マールボロをはじめとする冷涼な気候の産地にとって最大のメリットとなり得るのは、成熟期が長くなり、より暖かな条件で成熟できることです。しかし、大気が暖かくなると水循環も活発化する可能性があり、有益な降雨がもたらされる可能性がある一方で、破壊的な豪雨が起こる可能性も高まります。

 

気候変動というワイルドカード

 

今回のエルニーニョの影響は、海洋と大気がすでに異常なほど暖かい状態の上に重なるため、より強くなる可能性があります。国連事務総長のAntónio Guterresは、次のように表現しています。「エルニーニョが強まり、すでに燃え上がっている地球にさらに燃料を投じています。」

 

ブドウ畑は、予測可能な乾燥した年には適応できます。雨の多い年にも適応できます。しかし、干ばつの後に猛烈な豪雨が降り、その後に極端な高温が襲ってくる――このような状況への適応は、はるかに困難です。だからこそ、2027年に最高のワインを生み出す要因は、テロワールそのものよりも「レジリエンス(環境変化への適応力)」になるかもしれません。そして2027年は、極めて強力な自然の気候サイクルと、温暖化した地球が衝突したとき、ワイン造りがどこまで対応できるのかを試す、最初の大きな試練のヴィンテージとして記憶されることになるかもしれません。

 

引用元:Wine’s El Niño Winners and Losers

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