同じワイン、ヴィンテージ違いを飲み比べると分かること(垂直試飲”と“水平試飲”の意味②)
“垂直試飲”と呼ばれるワインテイスティング、聞いたことありますか??
今回も、このワインテイスティングを実施する意義についてのお話を続けたいと思います。
“垂直試飲”とは、
「同じ生産者の同じワインを、異なる生産年=ヴィンテージで複数揃えて比較するテイスティング法」です。
この“垂直試飲”をすることで見えるものとは何でしょうか。
僕が考えるには、大きく分けると下記の2つ。
①各ヴィンテージの特徴(作柄がどう表現されているか)
②熟成のポテンシャルと香味変化の傾向
・・・前回は、①についての話でした。
今日は②熟成のポテンシャルと香味変化の傾向、について考えていきたいと思います。
ワイン生産者が描く「将来の設計図」
生産者がワインを作る時、そこには必ず「思い描く将来設計」が存在します。
ワインの造り手というものは、前回書いたようにその年の作柄がどうであっても決して投げ出しはしません。
与えられた環境下で最善を尽くして獲得した原料ブドウをベースに、
どういうワインに仕上げてくのがベストかを計画し、設計するわけです。
この『ワインの将来設計図』を描く時点で、彼らはこんなことを考えます。
例えば、様々な気候条件全てに恵まれたある年の秋。
「今年は天候に恵まれて本当に非の打ちどころのない素晴らしいブドウを収穫出来た。
25年いや30年くらい熟成させてから飲み頃のピークに楽しんでもらいたい、
とても力強いワインになりそうだ。」
また、ある年には・・・
「今年はあいにく天候には恵まれなかったが、
それでもウチのテロワールならではの個性が出たブドウを収穫できた。
15年程度を目安に飲み頃が訪れるような作りにして、比較的早く楽しんでもらおう。」
造り手が思い描く『将来設計図』は、たとえその人から直接上のようなコメントを聞かなくても、
ワインがリリースされた時点(収穫から1-3年後が通常です)で飲み手にもある程度の想像が出来ます。
その年のその地域の作柄情報が詳しくあれば、もっと具体的に理解出来ます。
ワイン業界のバイヤーやジャーナリストはこうしてそれぞれのワインに「○年~○年後が飲み頃です」という
お薦めが出来るわけですね。
熟成によるワインの変化を、100%コントロールすることはできない
ここで「垂直試飲」の話に戻ります。
ある造り手による1本のワインを収穫から何年か経過した時点で試飲をすることで、
そのワインが収穫から○年を経るとどのような方向性で変化していくのか、を把握することが出来ます。
これが、熟成による香味変化の傾向を掴む、ということです。
そして、例えばこの試飲を「作柄の似た複数の異なるヴィンテージで比較する」という試みをすれば、
そのワインの10年後、20年後、30年後の姿というのを予測していくことも出来るわけです。
1月18日に品川で実施するシャトー・マルゴーの垂直テイスティング(既に満席です!すみません)では、
10年経過(2007年)、20年経過(97年)、30年経過(87年)のマルゴーを試飲することができます。
これによって、収穫年は違えど、シャトー・マルゴーというワインの経年変化の傾向が掴めるわけです。
*勿論、全く同じ作柄なんてありませんから、あくまでも「傾向」が見えるだけですが・・。
そして・・・この試飲は次に、
ワインの熟成は『将来設計』に向かいその通りに進行しているか??を確かめる作業でもあるのです。
先程の生産者が収穫直後に「30年はいける」と考えたワイン。
そのワインを10年後の時点で飲んでみると、思ったよりも熟成が早く進んでいるなんていうケースがあります。
収穫の時点では非常にパワフルで“超”のつく長期熟成を想定していたヴィンテージが、
数年後の試飲で実は思っていた程では無く、評価を下げてしまうというケースも結構あります。
そして当然その逆も。
さえない年、と低評価されていたワインが、長い年を経て驚くような素晴らしい熟成を遂げる時もあるのです。
ワインはあくまでも自然の賜物、ブドウを栽培する時、醸造の時に人が手を加えることは出来ても、
その行く末までをコントロールすることは決してできません。
だから、長期熟成をさせるワインほど、その成長の度合いを折に触れて確かめていかなければならないのですね。
そしてその作業によって「そのワインが本来飲まれるべき、最良のタイミング」を逃さないで済むわけです。
ワインと飲み手が、最良のときに出会えるためにワインを知り尽くす・・・・
これこそが「ワインのプロフェッショナル」の仕事じゃないかな、と僕は思っています!
それでは今回はこの辺にしておきまして、次回以降も引き続き「垂直試飲/水平試飲」の話題を続けますね。
6回ほどの長いシリーズになりますが、お付き合いください!
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