【ワインのある景色】ブドウ畑の一年に寄り添って【11月】

11月は新酒の季節。この秋に収穫されたブドウが早くもワインとなってお目見えし始めます。世界中には新酒として販売されるワインが様々ありますが、その中でも私達に一番馴染み深いのはBeaujolais nouveaux（ボージョレ・ヌーヴォー）ではないでしょうか？

Beaujolais nouveaux（ボージョレ・ヌーヴォー）

フランス・ブルゴーニュ地方の最南端、ボージョレ地区で収穫したガメイ種から造られる赤ワインで、毎年11月の第3木曜日が解禁日とフランスの法律で定められています。この解禁日というのは新酒の品質を守るためのもので、この日以降であればワインの状態も安定し、安心して楽しめることを保証するものでもあります。昔、ボージョレで新酒をいち早く出荷しようとする生産者たちが現れ、その結果、まだ安定していない発酵途中のようなワインが市場に出回ってしまい、それを防ぐために制定されました。ボージョレー・ヌーヴォーは日本では時差の関係でいち早く解禁を迎えることもあり人気が高く、ひと昔前は解禁になる午前0時をカウントダウンしてヌーヴォーを楽しむパーティーがあちらこちらのレストランやホテルで開催されていました。昔のようなお祭り的なブームは落ち着きましたが、今でも解禁日が近くなると空輸されたワインの日本到着やその年の出来映えがニュースのトピックにのぼりますね。

ヨーロッパ各地の新酒

ヨーロッパでは他にもイタリアのVino Novello（ヴィーノ・ノヴェッロ）、ドイツのDea Neue（デア・ノイエ）、スペインのVino Nuevo（ヴィノ・ヌエボ）、オーストリアのHeurige（ホイリゲ）など新酒と呼ばれるワインがあり、イタリアは10/30、その他は11/11を解禁日としています。中でも興味深いのはオーストリアのホイリゲです。ホイリゲという言葉には新酒を意味する以外に自家製の新酒を提供する居酒屋のことも指していて、小振りのビールジョッキに注がれる爽やかな白ワインの新酒をハムやチーズなどの軽食と共に楽しませてくれます。郊外に行くとブドウ畑に併設されているところもあり、青空の下、ほとんど移動をしていない出来立てのピチピチとしたフレッシュなワインを頂くのは、通常の醸造を経たワインを楽しむのとはまた違った感動があります。このようなスタイルが始まったのは200年近くも昔とのこと。ホイリゲ文化としてユネスコの無形文化遺産にも登録され、地元の人々の社交場、そして観光スポットとして賑わっています。

日本ワインも！山梨ヌーヴォー

この季節になると日本でも新酒が数多くリリースされます。今、海外でも高い評価を得ている日本ワイン。山梨県では白ワイン用の甲州種、赤ワイン用のマスカット・ベリーA種から造った新酒を11/3が解禁の「山梨ヌーヴォー」として県内だけでなく都内でもイベントを開催し、毎年多くの人々で賑わいます。今や日本も各地でワインが作られるようになり、様々な新酒を見かけるようになりました。出荷までの時間が短いため、通常のワインとは少々異なる短期間でブドウのエキスをたっぷりと引き出す方法で造られた新酒は、摘みたてのブドウそのものが感じられるようなフレッシュでアロマティックな味わいが特徴です。まさに秋の風物詩。難しいことは考えず、自然の恵みに感謝しながら楽しく味わいたいワインです。

2023年5月から、ブドウ畑と生産者の1年を追ったコラムの連載をしています。「ワインが好きだな。ワインのことを知りたいな。産地に行ってみたいな。ワインが飲みたーい！」と、皆様に思って頂けるようなワインのある景色をお届けできればと思っています。引続きどうぞよろしくお願い致します。

ライター紹介：新井田 由佳（Yuka Niida）

・J.S.A.認定 ソムリエ
・La Confrerie des Hospitaliers de Pomerol ボルドー　ポムロル騎士団称号

大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい！が現在進行形で継続中。