ポマール：ブルゴーニュの次なる注目株

価格高騰により手の届かない存在になりつつあるブルゴーニュのグラン・クリュ。この流れを受け、今まで見過ごされていた村が注目を集めるようになっています。

15年前、ポマールはブルゴーニュの名だたる村々の中で、最も見向きされない村でした。

コート・ド・ボーヌのこの村について、「固く、タンニンが強く、角ばっているピノ・ノワール」という悪いイメージとともに認識している人がほとんどでしょう。多くの人の意見では、ポマールにはヴォルネイのビロードのような滑らかさ、ジュヴレ・シャンベルタンの筋肉質、ヴォーヌ・ロマネのエキゾチックなスパイス、そのどれもが欠けていると言われています。ワインコレクターには見向きもされず、ポマールのファンの存在というのはもっての外でした。

「ポマールは、最近のワインを試飲されぬままに、かつての味わいのイメージに苦しめられてきたアペラシオンだと言えるでしょう」
ブルゴーニュワインのバイヤーである Martin Tickle  はこう言います。
「多くの人にとってポマールは、固く、タンニンが強すぎてセラーで長く熟成させないと飲めたものではないワインでした。しかし状況は変わってきており、進化を続けています。残念なことに、コート・ド・ボーヌの赤ワイン生産村のため、コート・ド・ニュイと同程度の注目を集める事は難しいですが」

確かに、ポマールは長い間、他に選択肢がない時の最後の手段として手に入れるブルゴーニュという立ち位置が続いていました。

しかし、事態は好転しています。気候変動の恩恵を受けたポマールは、今まさに脚光を浴びているのです。最近のヴィンテージは、猛暑の2018年や2020年でさえも見事な出来栄えで、ポマール否定派達に考えを改めさせるかのようにその力を見せつけています。最近の試飲では、2018 Domaine de Montille Les Pézerollesの仕上がりに特に驚かされました。絹のように滑らかで  Musigny  の一流のボトルのような香り高さを見せていたのです。ですがその価格は、少なくともブルゴーニュの高尚な価格水準からすれば、かなりリーズナブルです。一体どうなっているのでしょう？

「地球温暖化は、ブルゴーニュの最も有名な村やアペラシオンに対する私たちの期待を覆すようになっています」と、ブルゴーニュ在住の専門家  Jasper Morris MW  は説明します。

「歴史的に、コート・ドールの典型的な条件であった冷涼な年には、表土の浅い南向きの斜面に植えられたブドウ畑から素晴らしいワインが造られました。しかし、気温上昇により、浅い表土はすぐに干上がるので、これらの畑では水分ストレスの発生や、ワインが熱を入れたような味わいになるリスクが高まっています」
Jasper  は、Volnay  と  Chambolle Musigny  の2つの村で、このパラダイムシフトに見舞われたケースがあったと話します。

一方でポマールは好調のようです。 Clive Coates MW  は、「ポマールの土壌は活性石灰岩の割合が高く、さらにヴォルネイよりも粘土の割合が多いので、ワインには特徴的なふくよかさと堅牢さが生み出されている」と話します。粘土質のテロワールは、冷たく保水性があるので、暑さの中では大きな助けとなります。

スタイルの変化

ですが、私が先月試飲したポマールのワインの数々に、もはや「堅牢」という表現がふさわしいかどうかは分かりません。確かに、この2年間は非常に暖かかったので、多くのワインで良いウェイトとテクスチャーがありながら、明るい果実味と適度な酸があるスタイルとなったのは理解できます。しかし同時に、かつての若いポマールにはない絹のような滑らかさと親しみやすさもあったのです。もしこの傾向が続くようになると、この村はお金持ちの間でも人気が高まってしまうかもしれません。

「今まで穏やかで女性的なワインといえばヴォルネイなどを連想してきましたが、気候変動により、特定のテロワールがもたらすものが逆転し始めています」と  Morris  は説明します。

「ポマールの畑の多くは標高が低い場所に位置し、石灰質の表土が2メートルほどと深いため、雨の多い年には過剰な水分と湿度により問題が発生してきました。ところが、気温が上昇し、夏が乾燥している今、この保水力は大きなメリットとなっています。ブルゴーニュが冷涼なヴィンテージが例外となるような地域へと移行し続けるならば、ポマールは間違いなく注目すべき村です。そして畑は暑い状況にうまく対処しているように見えます」

ポマールの生産者達も努力を続けているのでしょうか？「勿論です」と Martin は言います。
「彼らは注目を集めるために身を粉にして働いています。ブドウ畑への高まる注目と、改善と進化を続けるワイン造りにより、ポマールはここ10年で以前よりも利益を上げるようになっています」

「ポマールはかつて、大きなネゴシアンによって、ごく平均的な、あるいは平均以下の村名ワインがたくさん造られてきました。しかし最近ではリュー・ディーのワインを造る生産者も増えており、これらは比較的控えめな価格でありながら、この村の品質の高さを見せるのに役立っています」

Morris が指摘するように、ポマールの主要なプルミエクリュである  – Les Grands-Épenots, Les Petits-Épenots, Les Charmots, Les Pézerolles, Les Saucilles –  のワインは常に賞賛に値する品質を見せてきました。今変わってきた事といえば、より多くの日照量や生産者達の努力によって、この村からのスタンダードなワインの品質も上がったという点です。さらに、「シリアス」なポマールでさえ、若いヴィンテージのうちから魅力的になってきています。20世紀には、少なくとも10年間はセラーの中に放っておかなければいけなかったというのにです。

さて、2022年もコート・ドールは灼熱のヴィンテージになりそうです。先日 Morris と電話で話しましたが、かつて冷涼な気候だったシャブリが、今では最高気温が40℃に達する日もあると言います。彼は現在、早めの収穫を推奨するキャンペーンに明け暮れていますが、その成果はさまざまです。

「生産者には、賢く収穫するようお願いしています。早摘みをすると複雑な味わいが失われる可能性がありますが、遅摘みよりは遥かにマシなシナリオです。煮詰まった果実のフレーバーは、一度出てしまうと寝かせても一生消えないのです」

しかし、かつて皆に無視されていたポマールのブドウ畑にとっては関係のない話です。カリフォルニアのような暑さにより、ブルゴーニュの醜いアヒルの子は、美しい白鳥へと進化を遂げたのです。

引用元：　 https://www.wine-searcher.com/m/2022/06/pommard-burgundys-next-big-thing

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