【ワインのある景色】ブドウ畑の一年に寄り添って【5月】

このコラムではブドウ畑と生産者の1年に寄り添いながら、ワインのある様々な景色をお伝えしていければと思っています。

 5月のワイン畑 

5月。フランスの5月はスズランの花で始まります。「Jour de muguet／ジュール・ド・ミュゲ」といって、5月1日に友人や家族、恋人やお世話になっている人の幸せを願ってスズランを贈り合う習慣。スズランを贈られた人には幸福が訪れるといわれ、この日は街のあちこちでスズランを売る人、スズランの花束を持っている人を見かけます。

街がスズランであふれる頃になると、いよいよワイン生産者たちの畑仕事が忙しくなってきます。春の訪れとともに目覚め、芽吹いたブドウの木から新梢と呼ばれる今年の枝がどんどん伸びてきて次から次へと葉を広げていきます。青々とした空気に包まれる「展葉期」と呼ばれるシーズンの始まりです。
この新梢は今年のブドウを実らせる大切な枝。生育状態や姿を観察して残す枝を選び、それ以外の枝やこれから伸びてきそうな芽を切り落としていきます。ブドウの木の仕立て方にもよりますが、銘醸地フランスのボルドーやブルゴーニュ他、様々な国のワイン産地で多く採用されている「垣根仕立て」の場合、上に伸びていこうとする新梢を横に倒し、ブドウが実ることをイメージしてワイヤーなどで固定していきます。「新梢誘引」という作業です。それと同時に、日当りの確保と栄養分の浪費を防ぐためにたくさんに茂った葉を間引いていきます。この作業を全部の畑の全部の木に行うわけですから、なかなかの重労働です。それでも仕事終わりの生産者たちの顔は穏やかで、これから実るブドウへの期待に満ち溢れています。
さぁ、今年はどんな年になっていくのでしょう。天候に恵まれた良い年になることを祈るばかりです。

 5月の旬 

私はこの時季に楽しみにしている食材が２つあります。
１つはホワイトアスパラ。今がまさに旬な食材ですよね。
春を呼ぶ野菜として、ヨーロッパでもマルシェに並ぶのを今か今かと待ち望んでいる人々が少なくありません。食べ方はいろいろ。卵黄、バター、塩とレモン汁を合わせたオランデーズソースでいただくのがヨーロッパでの定番中の定番ですが、もっとシンプルにマヨネーズをつけてパクッとしただけで至福の笑みがこぼれてしまいます。オリーブオイルと岩塩をかけてグリルしても良し。天婦羅にしても良し。甘さの中に感じるほんのりとした苦みが何ともいえません。キリっと冷やした白ワインと一緒に楽しむのが楽しみなのです。

もう１つはシェーブルチーズ。山羊のミルクから作られたチーズです。

春は山羊の出産シーズン。独特の風味は好き嫌いの分かれるところですが、春の新鮮な草花を食べた母山羊のミルクから作られたシェーブルは断面が真っ白で爽やかな酸味があり、この時季にしか味わえない旬の味。ナッツと一緒に頂いたり、蜂蜜をかけたりして楽しみます。軽く焼いたシェーブルがサラダに添えてある「サラダ・シェーブル・ショー」はフランスのカフェで良く見かけるメニューの１つ。どちらも気軽にワインと楽しみたいところです。実はシェーブル、熟成が進むとナッツのような風味とコクが出てきてこれまた美味。そうなると軽やかな赤ワインとも楽しめちゃいます。機会があれば、ぜひ試していて下さいね。
ワインが食卓にあるだけで日々の生活がもっとおいしくもっと楽しく、そして新しい発見もきっとあるはず。おうちワイン、楽しみましょ。

ライター紹介：新井田 由佳（Yuka Niida）

・J.S.A.認定 ソムリエ
・La Confrerie des Hospitaliers de Pomerol ボルドー　ポムロル騎士団称号

大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい！が現在進行形で継続中。