【ワインのある景色】ブドウ畑の一年に寄り添って【6月】

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梅雨を乗り切る
ジメジメした梅雨の季節。どんよりとした空や屋根を打つ雨音に気分が上がらない日々が続きます。この時期、テンションの上がらない自分に気合いを入れるために良くいただくのがスパイシーなお料理。いつものカレーや麻婆豆腐をスパイス多めで作ったり、エスニック料理をいただいたりして、まわらない頭と気だるい身体をピリッとした刺激で奮い起こします。
「食べる漢方」ともいわれるスパイスは食欲の増進や消化促進、リラックス効果など様々な効用があり、この季節にスパイスを取るということは理にかなっているようです。そんなことを知ってか知らずか、身体が自然と欲するのかもしれません。
スパイシーなお料理のお供に
そんなスパイシーなお料理をいただく時のお供ワインとして、私の選択肢に必ず上がるのはリースリング種、もしくはゲヴュルツトラミネール種で造られたワイン。最大産地であるブドウの原産国ドイツをはじめ、フランス、イタリア、オーストリアなど色々な国で作られているこの2つの品種の共通点をひとことで言うのであれば、アロマティックなところでしょうか。リースリングはリンゴの蜜の部分や白い花、ゲヴュルツトラミネールはライチのようなアロマが華やかに香り、それと共にほのかに白胡椒のようなニュアンスもあったりして、そこがきっとスパイシーなお料理に合わせたくなる所以なのではと思っています。ピュアな果実味と生き生きとした酸、豊かなミネラルも備えていて、晴れない気分を一掃してくれるような気がします。是非ともお試し頂きたいマリアージュです。
美しく可愛らしいアルザス地方
この2つのブドウ品種のフランスの最大産地はアルザス地方。パリからフランスの新幹線TGVで約2時間、フランスとドイツの国境に位置するこの地方は山や川に囲まれた自然豊かなところで、ドイツのロマンティック街道に似た中世の面影が残るとても美しく可愛らしい村が点在しています。そして建物の屋根や尖塔の上によく見られるのが鳥の巣。アルザスのシンボル、コウノトリの巣です。コウノトリが巣を作った家には幸せが訪れるといわれ、幸せを運ぶ鳥として愛されており、街のあちらこちらでコウノトリをモチーフとしたオブジェやお土産品を見かけます。
アルザスの歴史
とても心ときめく魅力的なアルザスですが、長い歴史の中でドイツ領だったことが2度あり、ドイツの影響を大きく受けています。言葉はフランス語に加え、ドイツ語が多く通じます。アルザス地方の名物「シュークルート」はドイツのザワークラウト(=キャベツの酢漬け)をアレンジしたもの、そして、アルザスワインのボトルはドイツワインによく見られる細長いボトルが採用されています。
南北に170km広がるブドウ畑は南と北では景色が異なり、見渡す限りブドウ畑が広がる南部の丘陵地と、見るからに作業が厳しそうな急斜面に広がる北部の畑。ワイナリーを訪問した時に「脚をしっかりと踏ん張っていないと転げ落ちてしまうんだよ」と笑いながら生産者が話してくれましたが、たぶん、あながち嘘ではないと思います。「自分達の畑はドイツ領になったりフランス領になったりしてきたけれど、そんなことは自分達には全く関係ないんだ。僕達は先祖代々変わらずアルザシアンだからね。」と言う彼の言葉が印象的で、未だに耳に残っています。
2023年5月から、ブドウ畑と生産者の1年を追ったコラムの連載を開始してちょうど1年が経ちました。「ワインが好きだな。ワインのことを知りたいな。産地に行ってみたいな。ワインが飲みたーい!」と、皆様に思って頂けるようなワインのある景色をお届けできればと思っています。引続きどうぞよろしくお願い致します。
ライター紹介:新井田 由佳(Yuka Niida)
・J.S.A.認定 ソムリエ
・La Confrerie des Hospitaliers de Pomerol ボルドー ポムロル騎士団称号
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。

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