【ワインのある景色】ブドウ畑の一年に寄り添って【6月】
このコラムではブドウ畑と生産者の1年に寄り添いながら、ワインのある様々な景色をお伝えしていければと思っています。
目次
愛おしきかなブドウの花
6月。「ブドウの花が咲き始めたらしいよ。見に行ってみようよ!」 フランスに住んでいた時に、友人と連れ立ってブドウ畑に向かった日のことをよく覚えています。春の訪れと共に芽吹いたブドウは、それから約70日で開花を迎えます。まさに今がその時。初めて見るブドウの花にワクワクが止まらなかったあの日。そんな私の畑で第一声は。。。
「えー、花なんて咲いてないよぉ!」 青々としたブドウ畑はそれはそれは活力に満ちていて美しく、まずは思いっきり深呼吸。でも、お目当ての花が見当たらない。「どこどこ?どこですか?」と目を凝らしてよく見ると。。。見つけました!生い茂る葉のそばにひっそりと佇んでいる「えっ?これですか?」という花らしきものを。
よく世界3大がっかり名所としてデンマークの人魚姫像、ベルギーの小便小僧、シンガポールのマーライオンが挙げられていますが、もしかしたらそれに匹敵、いえ、それ以上のがっかり度かもしれません。きっと、今、このコラムを読んで下さっている方の中にも「うんうん!分かる、分かるよ!」と頷いている方もいらっしゃるのではないでしょうか?それほど初対面の時には期待を裏切ってくれたブドウの花ですが、ワインとの付き合いが長くなればなるほど、ワインを好きになれば好きになるほど愛おしくなってきて、今では「なんて可愛いんだろう」と思ってしまうのです。
大忙しの6月
ブドウの花は恵まれた気象条件の下であれば約1週間ほど咲き続け、受粉し結実していきます。雨が多かったり気温が低かったりすると結実しても果粒がまばらだったり落果してしまったりする「花ぶるい」を起こしてしまう可能性があるので、開花期の天候はとても重要です。順調に結実してくれることを祈りつつ、元気いっぱいに成長していく枝や葉がブドウの成長を妨げないように整えていく作業で6月の生産者は大忙し。1日のほとんどの時間を畑で過ごす、そんな毎日です。以前はブドウに太陽の日差しがたくさん注ぐように行われていた作業ですが、地球温暖化の影響で日差しが時には強すぎることもあり、程よく取り除き程よく残す、そのバランスも生産者の腕の見せ所なのです。
ブドウの葉を食す
このようにこの時季は次々と落とされてしまうブドウの葉ですが、食すことができるのをご存じですか?お米に肉や野菜を混ぜたものをブドウの葉で包んで煮込んだ、中東やその近隣国、アフリカ、ギリシャと幅広く食されているお料理「ドルマ」。ロールキャベツの起源とも言われています。ブドウの葉で包んだチーズもあります。熟成とともに葉の香りがチーズに浸み込んでよりコクのある風味に。茶葉に生まれ変わったものも見かけます。そして極めつけは天ぷら。品種によって味が違うのもワインラヴァーの心をくすぐります。なかなかレアではありますが、ワイナリーでレストランを併設しているところなどでは、落としたての新鮮な芽や葉がある時だけメニューに載ることも。めぐり合ったらぜひ召し上がって頂きたい一品です。
ライター紹介:新井田 由佳(Yuka Niida)
・J.S.A.認定 ソムリエ
・La Confrerie des Hospitaliers de Pomerol ボルドー ポムロル騎士団称号
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。
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