ワインの格付けとラベルの読み方を知っておこう!ボルドーとブルゴーニュの基本知識
- 2021.07.29
- ちょっと知りたい、もっと知りたいワインの話
- イタリア, フランス, ブルゴーニュ, 生産者
「ワインの格付け」と言う言葉、ご存知ですか?ワインを楽しむ機会が増えると必ず目にしたり耳にしたりする言葉です。今回は初めての方必見!ちょっと知っているだけで、すごく知っている気分になれるフランスの2大産地、ボルドー地方とブルゴーニュ地方のワインの格付けについて触れてみようと思います。ついでにラベルの読み方もマスターしちゃいましょ!
目次
ワイン法
その前にちょっとワイン法について。
ワインは様々な国、地域で生産されていて、そのバリエーションはとても豊か。それだけに流通するワインの品質を保つのは生産国・生産者の義務であり課題でもあります。そのため、ヨーロッパのワイン生産国ではワイン造りを細かく規制する法律があり、粗悪品が流通するのを防ぎ、消費者に対してワインの身元を保証する役目を果たしています。
ワイン法ができたのは遡ること1930年代のフランス。ヨーロッパでは経済不況が続き、さらに数年にわたる悪天候にも見舞われ、ブドウの不作によってワイン産業は打撃を受けていました。また、その頃ボルドー、ブルゴーニュなどの銘醸ワインの偽物が多く出回るようになって信用も失いかねない危機に直面しており、その防止策として制定されたのが「ワイン法」でした。AOC法(=Appellation d’Origine Controlee アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ/原産地呼称統制)と呼ばれるこの法律は、ラベルに産地を表記するための条件を明確に規制することによって産地ごとのワインの個性と品質を守り、消費者がラベルを見ただけでそのワインの情報を得ることができるようになっています。この法律を機に他国でもワイン法の制定が行われるようになっていき、EU統合後の2009年にはEU加盟国共通のAOP法(=Appellation d’Origine Protegee アペラシオン・ドリジーヌ・プロテジェ 原産地呼称保護)が制定されました。(現在はまだAOC法に基づく表示のラベルのワインが多く流通しています。)
ちょっと難しそうですが、分かりやすく図にすると現在のフランスワインは下の三角形のようにAOP、IGP、Vin de Tableの3つのカテゴリーに分類されていて、下に行くほど規定が緩くなっています。
【AOPワイン(=旧AOC)】
ブドウの産地、品種、糖度、栽培方法、醸造方法、アルコール度数など細かな規定があり、条件を満たしたワインだけがラベルに「Appellation 産地名 Protegee(Controlle)」と記載することができます。「原産国」、「瓶詰め元」「容量」「アルコール度数」も表ラベルか裏ラベルのどちらかに記載する義務があります。日本に輸入されているワインの多くがこのカテゴリーです。使用するブドウの栽培範囲が限定されていくほど格が上になります。
【IGP (Indication Géographique Protégée (地理的保護ワイン)】
生産地域、使用するブドウ品種に決まりはありますが、AOPほど細かい規定はありません。
【Vin de Table 】
テーブルワインと言われる気軽に楽しめるワインです。様々なワインをブレンドする事が可能で、国を超えても構いません。ラベルに産地表示することはできませんが、フランス産のブドウを使用している場合はVin de France と記載する事ができます。
ワイン法で定められているカテゴリーは、そのワインがクリアした条件に基づくものであって品質によるものではありませんが、より規制の厳しい条件をクリアしたAOPワインが上質なものになるのは必然です。でも、生産者が自分の目指す味わいを求めて、あえてAOPの条件から外れて作っているワインも中にはあるのですよ。「へえ〜」という程度に心に留めておいて下さいね。
ボルドーの格付け
1855年のパリ万博の様子
黒ブドウ品種カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フランをブレンドして世界屈指の赤ワインを産出しているボルドー地方では、自社の畑のブドウからワインを製造している生産者を「シャトー」と言います。フランス語で「シャトー」とは本来はお城を意味する言葉で、その名の通り、お城のような美しい建物を構えているところも多く、その姿は広大なブドウ畑に映えてとても絵になる景色を作り出しています。
ボルドー地方にはワインを産出する地区が幾つかあり、格付けの表示は地区ごとに異なりますが、最も有名なのはボルドーを代表する赤ワイン産地メドック地区の格付けです。
この格付けは1855年のパリ万博の際に、当時すでに人気を博していたボルドーワインをより分かりやすい物として観光客にアピールするために、ナポレオン3世の命令によって制定されました。
当時ボルドーに何軒のシャトーが存在していたかは分かりませんが、そのトップクラスとして選ばれたのが1級から5級に格付けされた57シャトーでした。その後シャトーの吸収合併や分裂を経て、現在は61シャトーとなっています。ソムリエ試験を受けるのであれば61シャトー全ての格付けを暗記するのは必須ですが、ここでは1級シャトーのみご紹介しますね(カッコ内はシャトーのある村名)。
メドック格付け1級
どれも著名なワインで、今やなかなか手が出ないワインとなってしまっている5大シャトーです。それに続く2級は14シャトー、3級14シャトー、4級10シャトー、5級18シャトーとなっています。
実は1855年の制定時、ムートン・ロートシルトの格付けは2級でした。「Premier ne puis, Second ne daigne, Mouton suis(1級ではないが、2級に甘んじることはない。我はムートンなり)」とその悔しい胸の内がラベルに記載されていたのは有名な話。制定から100年以上の時を経た1973年に1級に昇格したのですが、格付けの変更は後にも先にもこの1回だけ。ムートンはこの年のラベルにピカソの絵を採用し「Premier je suis, Second je fus, Mouton ne change(我、1級なり。かつては2級なり。ムートンは不変)」と記載したのも有名な話です。「2級でも1級でもムートンは変わってないよ。」と言う誇り高さが伺えますね。
余談ですが、本来であればそれなりの人数でテイスティングをして公正な審査のもとで決められるべき格付けですが、ナポレオン3世の命令からパリ万博開催日まで時間がなかったため、ボルドーワインに通じている試飲経験豊富なワインの仲買人がワインの価格をもとに格付けを決定したとか。。。価格の高いものほど格付けが高くなったという言う裏話。
ナポレオン3世がもっと早く格付けの命を出していたら、今とは少し違う格付けになっていたかもしれませんね。
ブルゴーニュワインの格付け
ブルゴーニュでは自社畑の販売している生産者を「ドメーヌ」と言います。赤はピノ・ノワール、白はシャルドネ、それぞれ単一品種から世界中を魅了するワインが生み出されていて畑名がワイン名となり、生産者を格付けしているボルドー地方に対して、ブドウ畑が格付けされています。法律によって定められた格付けは、上から「Grand Cru/グラン・クリュ=特級畑」「Premier Cru/プルミエ・クリュ=1級畑」「村名ワイン」「地方名ワイン」 の4つ。
神に祝福された土地と言われているVosne-Romanée村(ヴォーヌ・ロマネ)村を例にあげてみますね。
【ヴォーヌ・ロマネ村の場合】
・Grand Cru グラン・クリュ(特級畑)
グラン・クリュは8つ。ワインを知らない方でも「聞いたことある!」という方も多いはずのRomanée Conti(ロマネ・コンティ)を筆頭に、Échezeaux (エシェゾー)、Grands Échezeaux (グラン・ゼシェゾー)、Richebourg (リシュブール)、Romanée-Saint-Vivant (ロマネ・サン・ヴィヴァン)、La Tâche (ラ・ターシュ)、La Romanée (ラ・ロマネ)、La Grande Rue (ラ・グラン・リュ)です。この畑のぶどうから作られたワインはラベルに大きくその名が記載されています。
・Premier Cru プルミエ・クリュ(1級畑)
プルミエ・クリュに格付けされている畑は14。Aux Brulées(オー・ブリュレ)、Les Beaux Monts(レ・ボーモン)、Les Chaumes(レ・ショーム)、Les Suchots(レ・スショ)などがあり、ラベルには「Vosne Romanée 1er Cru Aux Brulées」のように「村名+1er Cru +畑名」と記載されます。
・村名ワイン
上記以外の畑のぶどうから作られたワイン。ワイン名は「Vosne Romanée」です。「Vosne Romanée+畑名」の場合もあります。ヴォーヌ・ロマネ村のブドウを使用していることが条件となります。
・地方名ワイン
ワイン名は「Bourgogne」。上記3つの格付けよりも広い範囲のブドウを使用できます。隣の村のブドウを使ってもOK 。ブルゴーニュのブドウを使用していれば名乗れます。
このように畑が4つのクラスに格付けされていて、特級畑においてはブルゴーニュ全体で33あります。そしてブルゴーニュワインを面白くしているのは、1つの畑を複数の生産者が所有しているところ。端から2列がAの造り手、その隣の3列はBの造り手というように畑が細分化されているところが多く、生産者違いの同じワインが存在しているというところです。畑を訪れると地面が雑草で覆われている列があるかと思うと、その横は草が刈られていて土が見えていたり。生産者によってブドウの育て方や醸造方法も違うので、味わいも異なります。ヴォーヌ・ロマネ村のグラン・クリュでいうと、グラン・エシェゾーは20近い生産者、比較的面積の広いエシェゾーは80以上の生産者が所有しています。単独所有の畑もあり、そのような畑は「Monopole(モノポール)」と言います。ロマネ・コンティ、ラ・ターシュ、ラ・ロマネ、ラ・グラン・リュはモノポールです。
ラベルの読み方
ワインのラベルはシンプルなものから個性的なものまで様々。ラベルに惹かれて、いわゆる「ジャケ買い」するのも楽しいですよね。でもラベルの読み方も知っていると、選び方の選択肢が広がります。ラベルにはそのワインの情報が満載。ボルドーとブルゴーニュのラベルを確認しておきましょう。そうそう!フランスではラベルのことを「エチケット」ということも付け加えておきますね。
【ボルドーワイン】
これはボルドーの1級「シャトー・ムートン・ロートシルト」のラベルです。ラベルの絵は毎年違う画家に依頼して描かれ、アートラベルと言われています。ピカソやシャガールなど著名な画家をはじめ、2004年には英仏協商100周年を記念してチャールズ皇太子の絵が採用されるなど、毎年、誰の絵が採用されるかが話題になるラベルです。日本人画家が採用された年もあるのですよ。絵の下の文字は画家名。この1988年はキース・ヘリングによって描かれています。
① 1988 :ブドウの収穫された年。ヴィンテージと言います。
② toute la récolte a été mise en bouteilles au Château :このワインの瓶詰めまでの工程をシャトーで行ったという意味です。「シャトー元詰め」と言います。
③ Château Mouton Rothschild :ワイン名(=シャトー名)
④ Pauillac :村名。記載されていない場合もあります。
⑤ Appellation Pauillac Controlle : ワイン法で定められた原産地呼称。
⑥ 12.5%Vol. : アルコール度数。
⑦ 75cl. : 容量 750ml。
【ブルゴーニュワイン】
① 2013 : ブドウの収穫された年。ヴィンテージと言います。
② SANTENAY CLOS FAUBARD : ワイン名(Santenay = 村名、Clos Faubard=畑名)
③ Appellation Controlle : 上記の畑名がワイン法で定められた原産地呼称である事を意味。
④ PREMIER CRU : 1級畑ワイン
⑤ LUCHIEN MUZARD & FIS : 生産者名 リュシアン・ミュザール
ドメーヌ元詰めを意味する「mise en bouteilles au Domaine」やアルコール度数、容量などは裏ラベルに記載されていると思われます。
今回はボルドーとブルゴーニュワインの格付けとラベルの読み方について触れてみました。ちょっと知っているだけで2倍にも3倍にも、それ以上にも広がるのがワインの世界だと思います。
ワインを選ぶとき、飲むとき、語るとき、ちょっと思い出していただけたら嬉しいです。
楽しいワインライフをお過ごしください。
ライター紹介:新井田由佳
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。
知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。
-
前の記事
ワインのカロリーと糖質について ~ワインはダイエットの敵か味方か?~ 2021.05.20
-
次の記事
「PP」「WA」の表示は要チェック! ワイン評論家ロバート・パーカー・Jr氏を知っておこう。 2021.10.20