テロワールを味わうレコルタン・マニピュランのシャンパン

栽培から醸造まで自ら手掛けるレコルタン・マニピュランのシャンパンは、テロワールの個性が一杯ごとに感じられる特別な存在。畑ごとの個性を大切にしながら造られたシャンパンの世界を、ぜひ味わってみませんか？

 ネゴシアン・マニピュランとレコルタン・マニピュラン 

華やかな舞台を彩り、ただそこにあるだけで優雅な気持ちにしてくれるシャンパン。

その多くは栽培農家からブドウを購入して自社のブランド・シャンパンを造るネゴシアン・マニピュラン（NM）と呼ばれる生産者が占めています。モエ・エ・シャンドン、ヴーヴ・クリコ、ポメリー、マム、etc…。私達がよく目にする大手メゾンのシャンパーニュはネゴシアン・マニピュランです。

それに対して、ブドウ栽培から醸造、瓶詰めまで自ら行う生産者をレコルタン・マニピュラン（RM）といいます。シャンパンのラベルをよく見ると、どこかに小さくNMもしくはRMと記載されているので見分けることができます。レコルタン・マニピュランはネゴシアン・マニピュランの生産者数に比べるとほんの僅か。それには大きな理由が２つあります。

①シャンパンの生産工程が長期間に及ぶこと。シャンパンの瓶内熟成期間はノン・ヴィンテージで15ヶ月、ヴィンテージ・シャンパンは36ヶ月と規定されているため、商品をリリースして現金化するまでに時間がかかります。資本がしっかりしていないと経営が成り立たたず、栽培農家が自社シャンパンを造るには大きな金銭的負担が生じてしまうのです。

②村ごとにブドウの買取り価格が定められおり、栽培農家は毎年安定した収入が約束されているため、あえてリスクを冒してシャンパンを造ろうとする人が少ないということがあります。

 レコルタン・マニピュランの魅力 

レコルタン・マニピュランのシャンパンの魅力は何といっても畑の個性が感じられるという点です。先祖代々継承してきた畑を大切にし、テロワールの個性を引き立たせるシャンパン造りを行っている家族経営の生産者がほとんどで、その規模と姿勢はブルゴーニュのドメーヌに例えられます。

自らの畑を熟知し、その個性を余すことなくシャンパンに反映する素晴らしいブドウを育てるために、畑作業を惜しまずに行う姿勢はまさに職人的。数多くの畑のブドウをブレンドした大手メゾンのシャンパンでは味わうことのできない、スタンダードクラスからテロワールの個性を感じることのできるシャンパンが生み出されており、大きな広告を打たずとも世界中の愛好家達が注目し、探し求めています。

ただひとつ難を言うとしたら、生産量が少なく入手困難になるものも多いという点でしょうか。

 シャンパンの3大産地 

シャンパーニュ地方の土壌は石灰質をベースに、産地ごとに粘土質や白亜質、泥灰質などが様々な比率で混ざっていて、同じ品種でも違う表情を持つブドウが育ちます。どの産地で造られたシャンパンであるかによって、その個性が全く異なるのがレコルタン・マニピュランのシャンパンの面白いところです。

【モンターニュ・ド・ランス（Montagne de Reims）】
ランスの南東に位置し、フランス最北端のワイン産地。ランスからエペルネにかけての丘陵地帯に広がるブドウ畑は最高級のグラン・クリュに格付けされた畑が多く点在し、大手メゾンがこぞってブドウを手に入れたがるピノ・ノワールを生み出します。

主要なグラン・クリュ村：
　・ヴェルズネイ（Versenay）：ピノ・ノワールの最高の産地の1つ。芳醇な果実味、男性的な骨格を持つ深みのある味わい。おすすめの生産者：ジャン・ラルマン・エ・フィス/Jean Lallement et Filsやエティエンヌ・ルフェーヴル/Etienne Lefevreなど。

　・ブジー（Bouzy）：シャンパーニュ地方で最もパワフルなピノ・ノワールを生み出す。しっかりとした骨格に濃密な果実味、スパイシーさもあり、赤ワインの産地としても名高い。おすすめの生産者：ピエール・パイヤール/Pierre Paillardやシャンパーニュ・ブリス/Champagne Briceなど。

　・アンボネイ（Ambonnay）：滑らかな質感、優しい果実味が軽やか。隣のブジー村とは逆の味わい。おすすめの生産者：ブレナール・ブレモン/Bernard Bremont・エリック・ロデズ/ERIC RODEZやジャック・セロス/JACQUES SELOSSEなど。

【ヴァレ・ド・ラ・マルヌ（Vallée de la Marne）】
「マルヌ渓谷」という名の通り、マルヌ川沿いの斜面に広がる産地。ピノ・ノワールとピノ・ムニエを多く栽培。

主要なグラン・クリュ村：
　・アイ（Ay）：日当たりの良い南向き斜面が濃密で華やかなブドウを育てる。栽培面積は広いがその多くを大手メゾンが所有しているため、レコルタン・マニピュランのシャンパンは非常に少なく貴重。おすすめの生産者：リシャール・フリニョー/Richard Fliniauxなど。

【コート・デ・ブラン（Cote de Blancs）】
エペルネの南。「白の丘陵」の名前のごとく、シャルドネの聖地。

主要なグラン・クリュ村：
　・クラマン（Cramant）：ソフトで果実味が豊か。ミネラル感が強く、クリーミー。おすすめの生産者：ランスロ・ピエンヌ/Lancelot Pienneなど。

　・アヴィーズ（Avize）：しっかりとしたミネラル感と引き締まった酸があり、存在感のある力強い味わい。おすすめの生産者：ブリュン・セルヴネイ/Brun Servenayなど。

　・オジェ(Oger)：トロピカルな果実味と穏やかな酸が軽やかに広がるリッチな味わい。おすすめの生産者：シャンシーラ・ペール・エ・フィス/Chinchilla Pere et Filsやジ・ピエロン・レグリーズ/J. Pierron Legliseなど。

今回はレコルタン・マニピュラン（RM）のシャンパンについて触れてみましたが、いかがでしたでしょうか？
ワインを選ぶとき、飲むとき、語るときにちょっと思い出していただけたら嬉しいです。楽しいワインライフをお過ごしください。

ライター紹介：新井田 由佳（Yuka Niida）

・J.S.A.認定 ソムリエ
・La Confrerie des Hospitaliers de Pomerol ボルドー　ポムロル騎士団称号

大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい！が現在進行形で継続中。