ワイン用ブドウ木の引き抜きをめぐる争い

ワイン用ブドウ木の引き抜きをめぐる争い

ブドウ木の引き抜きは、生産者が生計を立てられるようにするために効果的な方法です。では誰がそれを止めているのでしょうか?


ブドウ木の引き抜き抜きをめぐる熱は国境を越えて広がり、フランスからカリフォルニアを経由してオーストラリアに至るまで、大規模な伐採計画に直面しています。この背景には色々とありますが、最終的には消費者のワイン需要の低下に帰結します。

 

ブドウ栽培農家からの抗議に加え、ワインの売上減少(特に赤ワイン)の統計や悲惨な輸出予測の記事も散見されます。誰もワインを飲まなくなったら、ワインの未来はどうなるのでしょうか?

 

需要の落ち込みはもちろんですが、それ自体がブドウ木の引き抜きが過熱する本当の理由ではありません。この問題の扉を開くために、2022年7月に提案された引き抜き計画に対するボルドーワイン業界団体(CIVB)新代表の初期反応を見てみましょう。

 

CIVBはブドウ栽培者とネゴシアンの間で会長を交代させますが、2022年当時、CIVBの次期ボスであるAllan Sichel(ネゴシアン家業Maison Sichelのオーナー)は、前任のBernard Fargues(ワイン生産者)によってかなり前から提案されていた伐根計画に冷や水を浴びせようと躍起になっていました。

 

実際、その前の5月の時点でSichelは標準的なネゴシアンの立場を取っています。それは販売とマーケティングが唯一の問題であり、特にバルクワインを扱うものにとっては常に大きな問題である、というものです。

 

「(ブドウ・ワイン余りについて)ネゴシアンの立場では、PDO(原産地名称)を捨てて、IGPやVSIG(地理的指示のないワイン)など現在の需要に合った他のラベルに進むなど他の解決策があると考える人が確かにいて、それを隠すつもりはありません。」
Sichelは選挙前にフランスのワインニュースウェブサイトVitisphere.comにこのように語っていました。
このような“原産地名称が問題であり、他の解決策がある”という考えは、典型的な大手企業のマーケティングスピーチです。
当時でも問題は明らかに深刻でしたが、なぜ1年半前、非常に理にかなった根絶計画を進めることへの抵抗があったのでしょうか?

 

その真の答えは、大手企業こそが過剰供給を望んでいるからです。
ブドウやワインを大量に買い付ける企業は、市場に十分な量のブドウやワインが出回る事を何よりも喜びます。なぜなら、供給過剰は価格を押し下げるからです。
需要以上のブドウ畑はまさにネゴシアンが繁栄する環境そのものです。買い手が市場を支配し、全てのカードを握っています。
2人のボルドー商人が原価を下回る価格でワイン生産者からワインを購入するという不公正な行為に及んだとのニュースが最近ありましたが、そこにはまさにこの問題が隠れています。

 

この問題はボルドーだけではありません。供給過剰の問題を中国に向けることに熱心なオーストラリアでさえ同じ問題から逃れることはできません(両国間の貿易戦争はワイン輸出に深刻な影響を与えた)。国営放送のABCニュースは最近の記事で、業界の重鎮であるPaul Clancy(南オーストラリア州ワイン生産者協議会(Winegrape Growers Council of South Australia)の初代会長)を取材しました。そこで同紙は「業界を支配している大手ワイナリーは、供給過剰によってブドウの価格が下がっているため、その恩恵を受けていると彼は語った」と伝えています。

 

Clancyは最近オーストラリアのワインビジネス誌にも寄稿しており、インタビュー以上に率直な文章を書いています。

 

「ブドウ木の植樹ブームがピークに達したとき、この業界の上位者の1人がこう言っていたのを今も覚えています。“心配する必要はない、栽培家が破産しても、ブドウ畑は業界の利益のために地面に残り続けるのだから”と。
また、もう亡くなって久しいですが、ある大手ワイン会社の上級幹部は“この過剰供給はブドウ価格を下げるので奨励されるべきだ”とも話していました。」

 

Clancyは供給過剰に直面した際のこれらの組織の“氷河期のような”反応を厳しく非難しています。この反応は供給過剰を維持したがっている業界のリーダーや上級執行役員によって引き起こされていると考えてよいでしょう。Clancyはわずかな供給不足がワイン業界によって理想的な状況であると主張します。おそらくブルゴーニュの人々はこの立場をよく理解しているでしょうが、多くの権力を持つ大手ワインマーケティング会社、ネゴシアン、大手ブランドはそうではありません。

 

アメリカでは制限を取り除いたビジネスの好不況がより基本的な原理であるため、直接的な批判は少ないです。今年1月にサクラメントで開催されたワインビジネスのイベントで、Allied Grape Growersという組織の代表であるJeff Bitterは、カリフォルニアの業界に対し、3万エーカー(1万2000ヘクタール)のブドウ畑を伐根するよう促しました。彼は過去4年間、同様の呼びかけを行ってきましたが、「誰も私の言うことを聞いてくれない」と話します。

 

Bitterは非難こそしませんでしたが、供給過剰の市場では、“プレイヤー”がブドウの供給よりも“機会”を求めて市場を牽引している、とあるワインビジネス誌に語りました。これらのプレイヤーの名は挙げられていません。

 

またオーストラリアでは手っ取り早い一攫千金を狙ってニューサウスウェールズ州リヴァリーナに大規模なブドウ畑を開き、病気など困難に直面すると放置してしまうプレイヤーもいます。この行為はブドウの価格を下げたり、カビ病を広げたりするなど近隣の栽培家に直接的な影響を与えます。無責任な短期投資を伝染病に例えるとしたら、これ以上の例などないでしょう。

 

さて、それでは大手企業が問題なのでしょうか?
確かに多少はそうかもしれません。もちろんネゴシアンや主要な大手ワイナリーは安いブドウを買う事で消費者に安いワインを提供していると主張するでしょう。ですが、この安いワインがそれを育てる人にとって持続不可能であれば、その先にある崩壊はどの程度遠くにあるでしょうか。
ブドウ栽培者たちが闘っている相手が、自分自身の顧客(ブドウ購入者)であると近く明らかになった時、抗議するブドウ栽培者に同情せずにはいられません。
その顧客は、この先誰かがブドウ畑を開くのを手助けしたり、あるいはスペインからワインを購入したりして、まるで世界や消費者の望むものを提供するように見せかけているのですから。

 

一部の国々は「規制」という言葉を嫌いますが、国としてある種の理解が重要であることは間違いありません。Clancyが指摘したように、オーストラリアにはまだ包括的な国土全体にわたるブドウ畑登録規制がありません。

 

時に見かける6ポンド (7.50$)のリオハのボトルを“グレートバリュー”として強調されて販売されているような光景はワイン業界を助けてはいません。ワインの評論家たちは、私たちに”バーゲン“・ボルドーをおすすめしたり、スーパーマーケットの棚に並ぶワインを”驚くべき価格“として示すことができますが、それを生産した人達を破産させることになります。

 

だからといって、ネゴシアンや大手生産者が”悪い“わけではなく、彼らは自分たちにとって理にかなったことをしているだけです。もちろんいかに有害であろうとも”安い酒“への要求は経済の機能の1つであると言う人もいるでしょう。お金をうまく増やしている人もいますが、一部の人々の持つお金が少なくなっているので、ワインの価格も下げる必要があるのです。

 

もし世界中のワイン産業が復活するのを望むのであれば、ワインの消費者となる可能性がある中間層にとってより良い経済的取引のプラットフォームを整備するのが良いでしょう。新自由主義※のプラットフォームでは、ワインが生き残るためには、お金のかかった醸造設備、高級なオーク、ガラスボトル、そして地球の気温が非常に高くなるまでかけたセラーでの熟成期間など、収穫から販売まで信じられないほどのお金がかけられる“持つ者”しか生き残ることができません。
(※注釈:新自由主義・・政府の財政政策による経済への介入を批判し、市場の自由競争によって経済の効率化と発展を実現しようとする思想)

 

話が脱線しましたが、ワイン業界がここまでに至ったのは消費者のワイン離れだけが原因だとどうか思わないでください。世界のワイン産業は今後4年間で5%以上の成長が見込まれているのですから。
そして、これまで指摘してきたように、ワイン業界の一部のメンバーは、ワインに関してよりも工業的な部分に遥かに熱心なのです。

 

引用元: Digging Deeper into Wine’s Vine-Pull Battle
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