シャンパーニュのスター生産者『ドメーヌ・ジャック・セロス』の世界に浸る
- 2023.12.11
- おすすめワイン
シャンパーニュ地方には栽培農家 15,000軒・メゾン 400軒がある。多くの栽培農家は直接もしくは協同組合を通してメゾンにブドウを供給し、メゾンが出荷するシャンパーニュの量は7割を占める。一方で、自社畑で収穫したブドウのみでシャンパーニュを生産する栽培醸造家がいる。今回は一躍脚光をあびているドメーヌ・ジャック・セロスの魅力に迫る。
目次
注目されるレコルタン・マニピュラン(RM)の火付け役
近年注目を浴びているのは、自社畑のブドウからシャンパーニュを造り出荷するレコルタン・マニピュラン(RM)。RMは比較的小規模な生産者が多く、こだわりのある個性的なシャンパーニュを生産している。ビールやジンもクラフト流行の昨今、物作りに対し真摯に向き合う職人のワインは、まさに時代のニーズといえる。
このRMの流れを作り出したのが、ドメーヌ・ジャック・セロスの2代目当主であるアンセルム・セロス氏。唯一無二のシャンパーニュを産み出すカリスマ。生産量が少ない上に、世界中で評価がどんどん上がり、入手困難なワインで、日本ではもちろんパリでも希少なワインになっている。
唯一無二の味わいジャック・セロス
初めてジャック・セロスのシャンパーニュを飲んだ時の記憶は今も鮮明にある。豊かで複雑さのあるアロマ。熟したリンゴ、アップルパイ、オレンジピール、フレッシュさをそのままギュッと閉じ込めて砂糖漬けにした花梨など、果実の宝石のよう。ハチミツやナッツのフレーバー。豊かな果実味が長い余韻を形作る。柔らかな酸化のニュアンスの向こうにピンと張り詰めた緊張感が響き渡る独自のスタイル。かつて飲んだことのないシャンパーニュに衝撃を受けた。
アンセルム・セロスのワイン造り
「酸化と熟成のバランスが重要。ワインは生きている、呼吸をさせてあげるのだ」と、熟成中のワイン樽を指し示すアンセルム氏。「醸造方法は毎年異なる、一つとして同じことはない、大事なのはFeeling。試行錯誤をして、悪いことはカットしていく積み重ね」。アンセルム氏は、息子のギヨーム氏と何度もディスカッションを重ねて、多くの選択肢から最良の方法を選び抜いていく。
アンセルム氏は、日本文化のノスタルジーや侘び寂びに惹かれるという。子供の頃から身近に侘び寂びがあって共に生きてきた日本人とは違い、侘び寂びはフランスにはない概念である。繊細で天才的、類稀なる醸造家としての才能を持つアンセルム氏が造り出すワインに、世界が注目しないわけはない。しかし独自のスタイルがゆえに、最初は受け入れられず異端児として扱われていた。
本質という意味の“SUBSTANCE”は、30年の試行錯誤を重ねて造り上げたセロスの信念の塊と言われているワイン。ワインは芸術である。ワインの中には、造り手の魂が宿る。だから素晴らしいワインは、感動をもたらし、人を魅了する。
ドメーヌ・ジャック・セロスのホテルLes Avisésの魅力
2023年10月、ドメーヌ・ジャック・セロスのホテルに宿泊をした。パリから車で2時間ほどで到着。ワインの教科書を読み、思いを巡らせていたあのシャンパーニュのブドウ畑が目の前に現れる。ホテルLes Avisés (レ・ザヴィゼ)は、Côte des Blancs地区のAvize村にある。客室は10室のみで、各部屋には「乾杯」という意味の各国の言葉で名前がつけられている。調度品はどれもセンスが良く、スタッフはとても親切。あまりにホテルの皆さんの感じが良いので、思わずスタッフの一人にこんな質問をしてしまった。「このホテルのスタッフ方達はみんなハッピーそうです。労働環境が良いのでしょうか」。こんな不躾な質問にも、「ここに来るゲストの皆さんは、ジャック・セロスやワイン好きな人ばかりで、我々に対するリスペクトも感じる。リピーターも多く、とても良い環境です」と笑顔で応対してくれた。
セロスのシャンパーニュと過ごすディナー
日が暮れて静寂に包まれるAvize村に、教会の鐘の音が響き渡る。ディナーはホテルの中にあるレストランで。日本ではめったにお目にかかる機会さえないジャック・セロスのワインが何種類も並んだワインリストを見るだけで歓喜に震える!料理もサービスも素晴らしく、至福の時間を満喫。グラスは少しふくらみのあるチューリップ型グラス。シャンパーニュでは最近、あまりフルート型グラスは見かけない。セロスのシャンパーニュを3種類注文し、全ての料理をシャンパーニュで通す贅沢なディナー。
ワイン造りの真髄にふれるテイスティング会
月曜と木曜だけ、ディナーの前にアンセルム氏による醸造所見学とテイスティング会が開催され、宿泊客だけが予約をして参加できる。筆者は日曜宿泊だったので、参加できないと断られたのだが、無理矢理お願いをして、月曜の会に参加させてもらった。30人程の参加者は、世界中からやってきたセロスファン。私も意気込んでメモ帳持参で参加したら、「やる気満々のあなたの質問から聞きますよ」と、最初に指名を受けて緊張する。供出温度について質問したら「自分の好きな温度で飲めばいい。結婚相手を決めるのに、誰かに相談して決めてもらいますか?それと同じようなものです」と言われ、笑いが巻き起こる。「今後、日本にいらっしゃる計画はありますか」という質問に対しては、「コマーシャル的なことには全く興味がない。職人同士からは何か学ぶことができるので、職人に会うためならば行く」という言葉に、セロスのワイン造りの真髄を見た。
ライター紹介:近藤美伸(Kondo Minobu)
Dip WSET
J.S.A.認定ソムリエ・エクセレンス、ワインエキスパート
イタリアNative Grape Odyssey マエストロ
International Wine Challenge (IWC) associate judge
Japan Wine Challenge(JWC) 認定ジャッジ
第9回サクラアワード審査員
サーブルドール騎士団叙任
Les Piliers Chablisiens シャブリ騎士団叙任
大学卒業後、航空会社のフライトアテンダントとして国際線ファーストクラスや日本政府の特別フライトを担当。サービスインストラクターとして、外国人CAに接客マナーの指導を行う。世界各国の滞在先で数々のワインや郷土料理に触れ、食文化に深い関心を持つようになる。ECC外語学院英語講師、日本や欧米誌のエディター・ライターの経験を経て、現在は日本のワイナリーの業務に携わっている。
パリとLAに長期滞在した経験と世界中のワインや食体験を元に、ワインセミナーを開催している。ワインを学ぶ事により、自分自身が感じた「世界を旅するような感動」を伝えて行きたいと思っている。2022年に英国WSET®最難関の国際資格WSET Level 4 Diplomaを取得。
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