デカンタとデカンタージュ~美味しいワインはより美味しく!そうでないワインもより美味しく!?~
- 2024.04.16
- ちょっと知りたい、もっと知りたいワインの話
- 澱, 熟成, 赤ワイン
私がイタリアワインの師と仰ぐ、某レストランのオーナー・ソムリエのデカンタージュはとても美しく素晴らしい。師にかかると魔法をかけられたかのようにワインは花開き、美味しいワインはさらに美味しく、引っ込み思案だったワインは表情豊かに微笑み始めるから、あら不思議。
今回は皆さんも一度は耳にしたことがあるであろう、ワインをより美味しくする「デカンタ」と「デカンタージュ」について触れてみたいと思います。
目次
デカンタって何?
デカンタ=デキャンタともいいます。英語では「Decanter」、フランス語では「Carafe(カラフ)」ですが、そもそも「デカンタって何?」というお話からすると、ワインを移し替える「容器」のことをいいます。レストランのワインメニューに「グラス」、「デカンタ(またはカラフェ)」、「ボトル」という選択肢が記載されていることがありますね。「デカンタ」で頼むと、ワインは水差しのようなガラス容器に入って運ばれてきます。その容器が「デカンタ」です。
形状も様々。素材としてはガラス製が多く、ワインメニューに記載されているようなデカンタはワインボトル(750ml)よりちょっと小さめ、500mlくらいが入る水差しのような形のものを多く目にします。お手頃な価格のものから、ハイブランドの高価なもの、形状もシンプルなものから、使用した後はどうやって洗うのかな?と思ってしまうほど独特なものまで多種多様です。
デカンタージュって何?
デカンタージュ=デキャンタージュともいい、デカンタにワインを移す作業のことを指しています。デカンティング(デキャンティング)という言葉も同じ意味です。デカンタージュのメリットは大きく分けて2つあります。
【メリット①:ワインの澱を取り除くため】
熟成した古酒などは、ボトルの底に「澱」と呼ばれる沈殿物があることがよくみられます。この「澱」の正体はワインの中のタンパク質やポリフェノールなどの成分が時を経て結晶化したもので、決して身体に害を及ぼすものではありません。というよりも、ある意味、旨み成分の塊でもあります。
でも、グラスに注がれたワインに浮遊物があったり、口にした時にざらざらとした砂のような舌触りを感じたら、決して心地良いものではないですよね。なので、グラスに注ぐ時にこの澱が入らないように、澱のない部分を事前にデカンタに移し、デカンタからグラスに注ぎます。
古酒のデカンタージュはまさに真剣勝負。沈殿している澱が舞わないように、ボトルの扱いはそっと静かに。そして移す際も、ボトルのネックに下から明かりを当ててワインの移動がよく見えるようにセッティングをし、決してデカンタに澱が入らないように注意深く移し替えていきます。レストランでは、ソムリエの一番の技の見せ所です。
【メリット②:若いワインや眠っているワインを起こすため】
口に含んだ時にまとわりつくようなタンニンの渋みを強く感じたり、「ん? 香りがしない?」というワインに出会ったことはありませんか?そんな時はグラスをそっと回して(この所作をスワリングといいます)ワインを空気に触れさせることで、味わいがまろやかになったり香りが豊かに立ってきたりします。
デカンタージュをすると、これと同様の効果を得ることができます。ワインは空気に触れると酸化が進みます。酸化することで若いワインの渋みが落ち着いて丸みを帯びたり、眠っているワインが目覚めて香りが立ち昇り、より味わい良く開いてくるのです。デカンタージュされたワインの味わいは、魔法をかけたように明らかにそれ以前とは異なります。この魔法は一瞬でかかるものではないので、ちょっと早めに魔法をかけておくか、魔法がかかってくるのをゆっくりと待ちながら楽しみます。ただ、ここで1つ。魔法のかかり具合は、あくまでもワインの持つポテンシャル次第であることも付け加えておかなくてはなりません。
冒頭でご紹介した某オーナー・ソムリエのデカンタージュが美しいのは、この一連の所作を流れるようにされるところ。古酒はできるだけ空気に触れないように、デカンタの底面にまっすぐ一本の線のように注ぎ、若いワインはたっぷりと空気に触れるように、まるで舞台の緞帳が降りてくるかのようにデカンタの側面全体にワインが当たるように注がれます。食事を提供するタイミングから逆算して、口にする時に最も美味しい状態になるように計算されてデカンタージュされたワインは、この上なく至福の時を味わわせてくれるのです。デカンタージュの奥の深さを感じます。
おうちでデカンタージュ
おうちでデカンタージュをしてみませんか?ここまで読んできて、「デカンタージュって難しそう!」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、澱を取り除くデカンタージュは苦戦されるかもしれませんが、ワインを開かせるためのデカンタージュであれば難しく考える必要はありません。毎日楽しむデイリーワインにデカンタージュの必要性はありませんが、とっておきの1本のために、気軽なワインで練習すると良いと思います。実際、ソムリエ試験を受ける方々は実践テストのためにそのような練習をします。開けた本数だけ、絶対上手になります。ホームパーティーなどでデカンタージュを披露すれば、盛り上がること間違いなしです。
今回はデカンタとデカンタージュについて触れてみました。ワインを選ぶとき、飲むとき、語るときにちょっと思い出していただけたら嬉しいです。
楽しいワインライフをお過ごしください。
【当店のおすすめ】デカンタージュで楽しむワイン
ワイン専門商社 株式会社フィラディスが直営するFiradis WINE CLUBより、ご自宅でデカンタージュされたワインを楽しみたい方におすすめのワインをご紹介。
ライター紹介:新井田 由佳(Yuka Niida)
・J.S.A.認定 ソムリエ
・La Confrerie des Hospitaliers de Pomerol ボルドー ポムロル騎士団称号
大手総合商社在職中にワインに魅了され、退職して渡仏。ブルゴーニュを中心にフランス、イタリアの数多くの生産者を訪問し見聞を広める。知れば知るほど魅了されるワインの世界について、もっと知りたい!が現在進行形で継続中。
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