ワインボキャブラ天国【第123回】「ネゴシアン」 英:wine-merchant 仏:negociant
- 2022.04.17
- ワインボキャブラ天国
連載企画『Firadis ワインボキャブラ天国』は、ワインを表現する言葉をアルファベットのaから順にひとつずつピックアップし、その表現を使用するワインの例などをご紹介していくコーナー。
このコラムを読み続けていれば、あなたのワイン表現は一歩一歩豊かになっていく・・・はずです!
取り上げる語彙の順番はフランス語表記でのアルファベット順、ひとつの言葉を日本語、英語、フランス語で紹介し、簡単に読み方もカタカナで付けておきますね。
英仏語まで必要ないよー、という方も、いつかワイン産地・生産者を訪れた時に役に立つかもしれませんから参考までに!!
ということで今回ご紹介する言葉は・・・
「ネゴシアン」
英:wine-merchant
仏:negociant (en vin / 男性名詞 最初のeに右上がりアクセント 発音は「ネゴスィアン・アン・ヴァン」)
目次
『ネゴシアン』とはどんな人たち?
今回取り上げるワイン用語は『ネゴシアン』。
例えば「ボージョレ・ヌーボー」など、大手ビール会社・酒類卸会社が扱うワインの生産者紹介などを見ているとちょこちょこ出てくる表記ですので、目にしたことのある方も多いはず。
この言葉はフランス語でして、直訳すると「ネゴシエート=交渉する人」つまり「生産者と販売者の間に入って交渉しながら取引をする人」ということで「卸売業者」の意味です。ワインビジネスの用語として使われることが多いため『ネゴシアン』だけの呼び名でも使われますが、本来的にはそこに「en vins=ワインの」が付いて『ワイン商』という意味になります。
英語圏ではWine Merchant、Shipperなどの言葉が使われていましたが、最近はフランス語の『ネゴシアン』が定着し、世界共通でこう呼ばれるようになりました。
ちょっとカッコよく言いたい人は『ネゴス』と略してみると、本職の人っぽく聞こえるので覚えておくと良いかもしれません。
『ネゴシアン=ワイン商』の位置付けは、地域によって少々異なります。例えばフランス ボルドー地方では・・・?
さて、この『ネゴシアン=ワイン商』という言葉ですが、実は地域によって行っている商売内容が異なったりするのが厄介なところ。
例えばフランス ボルドー地方では『ネゴシアン』はワインの「仲買業者」的な位置付けが主流。
ボルドーに数多く存在する「シャトー」は、基本的には自分の所有する畑からワイン作って販売するため、『ネゴシアン』はそれらのワインを仲買人としての立場で仕入れ、国内外のワイン業者(我々フィラディスも含まれます)に販売することを主なビジネスとしています。よって僕たちのような輸入業者は、各『ネゴシアン』に今仕入れることのできる在庫を問い合わせ、そこから仕入れることが多くなります。
また、一部の大手ネゴシアンは生産者が仕込んだワインを購入し、それをブレンドして「ネゴシアン名のラベル」を貼って自社ブランドとして販売するケースもあります。
では、同じフランスのブルゴーニュやシャンパーニュでは・・?
その一方でブルゴーニュ地方やシャンパーニュ地方では、醸造設備を持たない小規模な栽培農家も多いため、「農家から原料としてブドウやブドウ果汁を買い付け、それらを使ってワインを仕込み、自社のラベルを付けて販売する」つまり「製造販売業者」が主流です(勿論、ボルドーと同様にワインの醸造までは行い、それをネゴシアンに販売する造り手も存在します。)。
この「ブドウや果汁を買ってくる」という点が『ドメーヌ』=自社の所有地で栽培したブドウをワインとして醸造し、瓶詰めまで行う生産者、との違いとなります。
後ほど関連コラムのご紹介箇所にもリンクを掲載したので読んで頂ければと思いますが、例えばシャンパーニュ地方の大手メゾン、例えば『モエ・エ・シャンドン』などはネゴシアン的機能を大きく持っており、原料ブドウやワインを買い付け、それらをブレンドして自社のブランドで販売しています。こういった大手生産者は一部自社畑も所有しているケースが多く、自社畑の特に優良な区画から収穫されたブドウで上級のワインを仕込み販売したりもします。こういった業者のことを『negociant-proprietaire(ネゴシアン・プロプリエテール)=ワイン醸造元件販売業者』という呼称で呼ぶこともあります。
*シャンパーニュ地方でのこういった生産者毎の呼称については『RM、NM、RC・・・アルファベット2文字の意味するもの。』というコラムでご紹介していますので、良かったらそちらもチェックしてみてくださいね。
また、近年はブルゴーニュ地方などで『マイクロネゴシアン』と呼ばれる造り手も現れています。非常に小規模なネゴシアンとして、優れた栽培家を自ら選定してブドウを仕入れて仕込むという生産者です。フィラディス取り扱いの生産者では、例えばブルゴーニュの『ピエール・ブリセ』(などがマイクロネゴシアンに当たります。
その他、自社で製造・ブレンドしたワインや仲買人として仕入れたワインを熟成させてから販売する『negociant-eleveur(ネゴシアン・エレヴァー)=ワイン貯蔵熟成業者』といった位置付けの会社もあります。
必ずしも「ドメーヌだから良い」という訳ではありません。
こんな風に書いてきますと、栽培から瓶詰めまでを一貫して手掛ける『ドメーヌ』の方が『ネゴシアン』より優れているような感じを受けるかもしれませんが、必ずしもそんなことはありません。ドメーヌ元詰めでも、産地のブランドに胡坐をかいていい加減な造りをしているところはいくらでもありますし、ネゴシアンでも大規模かつ安定的な生産量を維持しつつ、十分に素晴らしいワインを造っている熱意ある生産者もたくさん存在します。
「ドメーヌものだからいいワイン」「ネゴスものだからそこそこでしょ・・・」みたいな先入観は持たずに、純粋にそのワインに向き合って戴けたら嬉しく思います!
それでは今回はこのへんにしておきましょう。今日も、あなたの表現するワインの世界が少し広がりました!
【今回紹介の用語「ネゴシアン」に関連したその他のコラム】
RM、NM、RC・・・アルファベット2文字の意味するもの。
↓↓↓
https://firadis.net/topics_detail.html?info_id=427
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