ワインボキャブラ天国【第158回】「酒石」 英:tartar 仏:tartre
- 2023.01.29
- ワインボキャブラ天国
連載企画『Firadis ワインボキャブラ天国』は、ワインを表現する言葉をアルファベットのaから順にひとつずつピックアップし、その表現を使用するワインの例などをご紹介していくコーナー。
このコラムを読み続けていれば、あなたのワイン表現は一歩一歩豊かになっていく・・・はずです!
取り上げる語彙の順番はフランス語表記でのアルファベット順、ひとつの言葉を日本語、英語、フランス語で紹介し、簡単に読み方もカタカナで付けておきますね。
英仏語まで必要ないよー、という方も、いつかワイン産地・生産者を訪れた時に役に立つかもしれませんから参考までに!!
ということで今回ご紹介する言葉は・・・
「酒石」
英:tartar
仏:tartre(男性名詞:発音は「タルトル」
上の画像みたいなキラキラの結晶、出会ったことはありませんか??
皆さんはワインボトルの底、若しくはこのページの最初の掲載したようにコルクの裏側に付着した赤いガラス片か結晶のようなものを見たことは無いでしょうか。これはワイン(の原料となったブドウ)の成分に由来する「酒石(しゅせき)」と呼ばれるものです。
「酒石」はワインに含まれる「酒石酸(しゅせきさん)」という有機酸に由来する物質で、ワインの味わいの中に一種の「柱」とも言えるような芯・骨格を作り上げる重要な味わい成分。その酸がワイン中のミネラル=カリウムやカルシウムなどの成分と結合し、キラキラ光る石のようになったのが「酒石」です。赤ワインの場合には、同様にブドウ由来の成分である「タンニン」や色素成分「アントシアニン」が酒石と更に結合することもあり、 その時はワインの底に木の小枝や時には錆びた釘のような長い形状で沈殿していることもあります。
この結晶化はワインが極端な低温下に継続的に置かれたときなどに起こりやすくなります。例えばワイン産地から真冬の時期に常温輸送を行った場合、外気温そのままの物流倉庫などに1-2日留め置かれただけでも結晶化してしまう場合があります。また、購入したワインを冷蔵庫内で長期的に保存した場合などにも発生します。
飲んでも害はありませんが、ジャリジャリしてしまうので取り除きましょう。
さて、この結晶化して沈殿した酒石は「ワインの宝石」「ワインのダイヤモンド」等とポジティブな表現で呼ばれることもあり、 酸やミネラルを豊富に含んでいる良いワインの証拠だ、などと言う生産者もいますが、 大きな塊となった酒石は決して見た目の良いものではありません。また、仮に飲んでしまったとしても健康に影響はありませんが、口に入るとジャリジャリと細かい砂が入ったようで、不快に感じてしまうはず(「砂を噛むような」という慣用表現を、僕はこれで初めて実感したと思います 笑)。
もしもコルク裏面に酒石が付着していたり、または上の画像のようにグラスに注いだワインに沈殿物が見つかったりした場合は、ごく当たり前のやり方ですが茶漉しなどで濾しながらグラスに注いでください。既にボトル内に浮遊してしまっている沈殿物はデキャンターで取り除こうとしても無理ですから、ここは諦めて濾してしまうのが一番簡単です。また、「酒石」は一度結晶化してしまったらいくら待ってもワイン内に溶けて戻ることはありませんので、取り除くしか無いと思ってくださいね。
以前別のコラムでも書いたことがありますが、一部の大手ワイン生産者はこの「酒石」をワインが出荷される前に予め取り除いています。お客さまがワインを飲むときに酒石を見つけ、クレームになるのを予防するためですね。これを「酒石安定化処理=tartaric stabilization」と言います。
技術的に最もシンプルなのは、酒石の発生するメカニズムを逆手に取り、先に冷却してしまう方法。ワインを-5℃くらいの温度設定にして数日放置しておけば、 結晶化してタンクの下に沈殿しますので、それを取り除いてしまう方法。以降の結晶化を防ぐことが出来ます(*上の写真が、冷却による安定化を実施する機械です)。
他には、酒石の粉末をワインに更に投入することで、 その粉末を基として結晶化を促進する「コンタクト法」と言われる技法、
電気透析によってイオン除去する方法など、様々な技術が開発されています。冷却法等は処理に時間を要するので、現在は電気透析が主流になってきているようです。
もしもワインに酒石があったら、それは上記のような「安定化」等をしてブドウ本来の成分である酒石酸を取り除いていない証拠。本来の美味しさが残っているワインなんだな、と捉えて戴ければと思います。
それでは今回はこのへんで・・・今日も、あなたの表現するワイン世界が少し広がりました!
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